〜第三話〜
「お母さん!今日のご飯はなんだい!」
「今日は肉じゃがよ。」
「おお!西園寺家直伝、
秘伝の味肉じゃがだー!」
中学3年の時の僕は、
とても幼稚だったに違いない。
「こらこら。うるさいぞ、守。」
「なんだよ、とーさん。いいじゃないかあ。」
「そうよ。いいじゃないの。久しぶりにみんなでご飯をたべるんだからさあ。」
「そうだよ。父さん。みんなでワイワイしようぜ!」
僕に続いて、
ゆう姉と龍輝兄ちゃんは言った。
「お…おう。すまない。
今日はひと騒ぎするか!」
お父さんも納得してくれたようだ。
ちなみに、僕。西園寺家の家族構成はお父さん、お母さんと、僕と姉と兄の3人兄弟だ。
1番上。長男。西園寺龍輝。25歳。
僕と似ていて、あまり人との関わりはもたない。
だが、責任感はとても強い。
ものすごく強い。
そういうところは似なかったらしい。
ここでは遺伝子というものが役に立たなかったのか。なんて語ることも多々。
今は、近くのパソコン部品をつくる工場で働いている。とても忙しいらしく、帰ってきたらすぐ寝てしまうので、ここ最近は喋っていなかった。
ただ、仲が悪いというわけでは一切ない。
逆に仲が良すぎるぐらいだ。
悩み事の相談にもいつも乗ってくれるし、欲しいものは買ってくれたりする。
とても頼りなるお兄ちゃんだ。
そして、かなりのイケメン。色男。
職場の中では、
あの妻夫木似と言われている。
あの宝くじCMのような、顔芸はできないと思うが。お兄ちゃんにも欠点はあるな。
「いや、全然欠点じゃないけど!」
とかいう、今にも言われそうなツッコミは置いといて。
なにはともあれ、
僕は龍輝兄ちゃんが大好きだ。
次は、西園寺優香。20歳。
西園寺家の長女にして、現大学生である。
この姉ちゃんは、全く僕と似てない。
もしかして、血が繋がっていないのではないかと思うぐらいである。
遺伝子はこちらでも役に立たなかったな。
まあいい意味でだが。
ゆう姉は、
男ではないかと思うぐらいの破天荒さ。
自分勝手。わがままばっかり。
部屋の中は散らかりっぱなし。
乙女心というものが
1つも感じられないのである。
お姉ちゃんがいない一人っ子などは、お姉ちゃん萌え萌え!みたいな幻想を抱いているのかも知れないが、僕が丸っきり否定しておこう。
それは、断固として有り得ないことだ。
もし、お姉ちゃん萌えが実際にいたとしてもそれは1000人に1人。
そうーーー
あの美少女アイドルのような存在なのだ!
しまった。なに、熱く語ってんだか。
アイドルオタクがバレてしまうところだった。
話がずれてしまった。すまない。
まあ、人前ではしっかりするし、必要最低限のことはできているので、(料理、掃除、など。お嫁修行だとかなんとかいってたような)
嫌いではないかな。好きでもないが。
そして、僕。次男。西園寺守。
この3兄弟だ。
ちなみに、お父さんとお母さんは警察官をしている。
よくある、警察おしどり夫婦だ。
お父さんの一目惚れらしい。
お兄ちゃんの責任感が強い、というのもなんとなくうなずける気もしない。
なんて、家庭の温かい話しをしていると、
突然、ニュースキャスターの声が耳を通して脳内に侵入してきた。
「次のニュースです。
昨日、未明。夜、公園近くを歩いていた男性が怨霊に取り憑かれ、亡くなりました。」
「またか…」
お父さんは不明瞭に言った。
この、「怨霊」というものは、2010年を境に急に現実世界に現れるようになった。
しかもかなりの数なのだ。
簡潔に述べると、昔から言い伝えられている「お化け」である。
ーーーお化けーーー
なんてワードを聞けば、なんだ。可愛らしいものじゃないか。と、思う人も少なくはないのではないか。
しかし、そんな生易しいものなんかではない。
取り憑かれたら終わり。死ぬしか選択肢はないのだ。
現在、ちゃんとした、対処法も見つかっていない。
そう。無敵だ。向かうとこ敵なしなのだ。
「どうにかならないかしらね。」
ため息混じりに、お母さんは言う。
そりゃそうだ。
出会ったら、死ぬのだから。
一刻もはやく、どうにかしてほしい。
まあ、そんなことを嘆いてもどうにもならないのはわかっている。
案外、自分が認識していないだけで、悪いと思うことは解っているのだ。
ただ、
「それ」から目を逸らしているだけーーー
そんな、嫌な思考を止めるように、肉じゃがの良い匂いが漂い初め、机に並べられた。
そこに、決して、豪華という言葉は似合わなかった。
それでも食卓は、輝いているように見えた。
「さあ、席について。」
僕達は席についた。
ごく、普通に席に着いた。
否。その瞬間、大きい振動音と着信音が聞こえた。もしかして‥‥
「はい。もしもし。あー、はい、ええ。はい。あ、わかりました。すぐに向かいます。」
どうやら、僕の嫌な予感は当たっていたらしい。
「すまない。警視庁から緊急要請がきた。
丸の宮公園で通り魔が現れたらしい。」
なんだよ。よりによってこんなときにーーー
「先に食べててくれ。すぐ戻るからな」
「ごめんね。守。」
お父さんは笑顔で言ったものの、気持ちはこもっておらず、完全に、仕事に集中していた。
そして、家には僕達、兄弟しか残らなかった。
お母さんが行ってしまったことは言うまでもあるまい。
「はあ。早く帰ってきてくれないかな。」
「大丈夫さ。なんたって、お父さんとお母さんなんだから。さ、冷めないうちに早く食べよう。」
龍輝兄ちゃんのフォローもあり、
僕達は、3人で肉じゃがを頂いた。
ご馳走になった。
とても美味しかった。いや、美味しいという言葉では全てを表せなかった。
まだまだ、語彙が足りないものだ。
そんなことを思いながら口に運び続けた。
僕は割と早食いな方なので、すぐにご飯を食べ終え食器を片付けた。(味はしっかりとかみしめたぞ?しっかりと。)
西園寺家は決して裕福とはいえない。
なので家の中は狭いほうだ。
ただ、家の設備はしっかりしているがーー
それから、これといってすることも
無かったので、テレビをつけ眺めていた。
だが、ニュースの内容は何一つ、脳が理解する前に遮断されていた。
実は、というか。
かなりーーー
ものすごくーーー
心配していたのだ。
当たり前と言われれば当たり前だろう。
家から出ていってあれから、3時間も経っているのに、連絡の一つもこない。
「通り魔」の逮捕は、かなり危ない側に分類される。
もしかしたら‥‥ーーー
という事態は起きない。とは言いきれない。
まあ、いつまでも考えても仕方が無いと思い、そんな払拭を晴らすためにお風呂でも入ろうか。と、体を起こしたその時ーーー
あの大きな、耳に残る着信音が再び鳴った。
僕の心拍数は有り得ないほどに上昇した。
この状況で平常心でいられる人間など、情が無いと思われよう。
僕は頭の中の悪い憶測を必死に振り払いながら、受話器を手に取った。
「もしもし。西園寺さんのご自宅でしょうか?」
瞬間ーーー
酷い喪失感を煩らった。両親、どちらの声でも無かったのだ。
「はい。そうですがーーー」
その後の言葉は、頭の中でぐるぐる回っていて留まった。出なかったのだーーー
「私は西園寺さんの部下の杉田と申します。西園寺さんは無事に通り魔を捕まえました‥‥。」
僕は少しの安堵感を得た。だがすぐに、とてつもない恐怖感に襲われた。
なぜ、最後、言葉が濁っているーーーー
なぜ、詰まっているーーー
「と、通り魔は…捕まえたのですが…」
今にも泣き出しそうな声で。
いや、今まで泣いていたのだろう。
「『怨霊』に…お、おんりょうに…
取り憑かれてしまいましたあああ…!!!」
僕は分かった。
杉田さんはその場に崩れ落ちただろう。
僕も。
ぼくもーーー
ただ、ただただ、なにも出来ずに
その場に崩れ落ちた。