〜第二話〜
と、ここで学校に着いてしまったので
『本職』のことは帰り道で語るとしよう。
今日は始業式なので、学校は半日で終わる。
ごく一般的だろう。
たしか部活もなかったと思う。
早速、僕は、3年の下駄箱へと足を運んだ。この前買った新しいNikeの靴をいれ、
3-B組に向かった。
僕はこう見えて友達がとても、
といっていいほど少ない。
言葉選びを間違えた。
正しくは、いない だった。
俗に言う人見知りとかいうやつだ。
「友達ってさ、作ると面倒くさいじゃん?
どんなときでも気を使わないといけないし、その人のために自分は良い子でいよう、とかいう振舞いまでしなきゃいけないし。
なんなら、一人でも生きて行けるじゃん。
超絶可愛い、絶世の美人の彼女はほしいけど。ん?これ人見知りじゃないか。」
とかいう愚痴をこぼしながら。
3-B組の教室に歩を進めた。
僕は「1人」で。
そう。「1人」で教室に向かった。
はずだったーーー
刹那、真横に人の気配を感じた。
感じたというより、脳がそう認識したといったほうが的確だろうか。
目で確認したより速かっただろう。
横にはあの、本田美咲がいた。
もともとそこにいたように。
ただ忽然とそこにいた。そうーーー居た。
「おはよう!君はたしか、あの意気地なし
バスケ部のあだ名を持つ有名な西園寺君だよね?」
え、ええええええええええ!
まさか、横にいて、初日に向こうから話しかけてくれるなんて夢にも思っていなかったから、僕は驚愕のあまり叫んでしまっていた。
否、すぐに発せられた言葉を整理した。
意気地なしバスケ部だと?
なんだ、その「自称ヘタレ」みたいなあだ名は。喋りかけてくれたのはとても嬉しいが、内容があれだけに、素直に喜べない。
「あれー?
そうじゃないの?部活の練習についていけないから、スポーツ高にきたのに退部したっていう噂を聞いたんだけどなー。」
おいおい。
誰だ、そんな噂を流したやつは。
東京湾に沈めるぞ。
とか昔の鉄板ネタを心の中でつっこみながら。
「そんなんじゃないよ。
ただ、先輩たちがあまりにも不甲斐なさすぎて、がっかりしたんだ。
それからはバスケがつまんなくなってさ。」
「ふーん。でも、それぐらいのことなら、部活は続けるけどなー。この高校にきてるなら。」
さらっと言われた。
ここで、僕の心がひび割れたことは言うまででもあるまい。
「まあ、色々事情があるんだよ。」
「そーだよね。人それぞれだもんね。」
なんて会話を交わしているうちにもう、教室についていた。
まだ、話しをする気満々だったのだが、彼女は友達の方へと向かっていた。
とりあえず、友達はいないので席についた。
そこで、僕の心はとんでもなく高揚していることに気づいた。
富士急の高飛車に乗った時と張れるぐらい高揚していただろう。
あの、美咲さんと話したのだから。
話題の中身は置いといて、話したのだから。
もう、今日、1日終わってもいいぐらい充実していた。
席は隣ではなかったのが、唯一の悔みだが。
それも贅沢であろう。
席順はあらかじめ決めてあり、僕は真ん中の列の一番後ろ。
隣には、女子がいないので1人授業を満喫できる。
美咲さんは、左の列の後ろから3番目。
ここからは、彼女の右顔を眺められる。
最高だ。実に最高だ。
まあ、よしとするか。
そうこうしないうちに、担任がきた。
そこから、始業式、ホームルームがあり、今日はそれだけで終わった。
このあと、美咲さんと喋れるフラグが立つんじゃね?と、思っていたが結局何もなく、初日は終わった。
美咲さんの連絡先ぐらい聞いておこうと思ったが、ぼくにそんな勇気は無かった。
特に用事もないので、僕は帰路についた。
今頃、クラスメイトは進学パーティーみたいなのでカラオケとか行ってるんだろうな。
とか、いらない妄想をしながら。
そして、僕は独り言を呟いたーーー
「『本職』の話でもするか」 と。