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偽物の世界で  作者: ten
4/4

衣服

今、僕は沙希と麻耶に連れられて雑貨屋に来ている。

 約3日ぶりの外出だ。3日前に宿に変な女の子が現れてから、僕は外出を許してもらえないだけでなく、女の子を警戒して、沙希と麻耶のどちらかが必ず僕と一緒にいるようになった。3日たった今も警戒は解けていないが、宿着も使い切り、服が必要になったので雑貨屋に連れてきてもらった。

 このゲームの雑貨屋では、防具とは違い防御力のない普段着が売られている。普段着は防具に比べてバリエーションが多く、動きやすいため、街の中のプレイヤーはほとんど普段着を着用しているらしい。

 僕は戦闘を行わないため、二人の勧めもありこの雑貨屋に普段着を買いに来たのだ。

 雑貨屋に入ると宿屋の時と同じく、お姉さんが出迎えてくれた。髪の色は黒色だが、どちらのお姉さんもきれいな人であることに変わりは無い。



 普段着のコーナーに行くと、様々な種類の服があった。なかでもとくに気に入ったのはヒヨコがプリントされたパジャマだ。2年前に沙希にプレゼントされたものと似ていて、違う部分と言えばヒヨコの目が黒く塗りつぶされているか、そうでないかというところだけだ。この雑貨屋にあるパジャマのヒヨコの目は黒く塗りつぶされていて、元の世界のものより愛嬌がある。これは買いだな。僕がそう思っていると、沙希と麻耶が黙々とウィンドウを操作していた。


「何してるの?」


「ユウの服を買ってるのよ」


「ここにある服は見ないでいいの?」


 僕がそういって、目の前に並んだ服を指差すと、麻耶は少し目線を上げて並んだ服を見た後、いった。


「ウィンドウをみた方が種類もいっぱいあるのよ。かわいい服も多いし」


 麻耶の話を聞いて、僕は疑問に思ったことを訊ねる。


「それなら、わざわざ雑貨屋に来なくてもよかったんじゃないの?」


 麻耶は首を振る。


「雑貨屋に来ないと、服を買うためのウィンドウは出ないようになってるのよ」


「なるほど」


 話が終わった後も麻耶は黙々と作業をしていた。沙希を見ても同じようなことになっている。




 僕は手持無沙汰になってしまったので、お姉さんに話しかけてみることにした。


 カウンターの近くに行き、声をかける。


「お姉さん、こんにちは」


 お姉さんは座った姿勢のまま、目線だけ僕を見ると、いった。


「こんにちは。何か用かしら?」


「いえ、特にはないんですけど」


 お姉さんにとくに用事があるわけでもなかったので、会話が止まってしまった。気のせいだとは思うが視線が先ほどより冷たくなった気がする。


「今日はどんな用事で雑貨屋に来たの?」


 お姉さんが僕の心情を察してくれたのか、話題を提供してくれた。


「普段着を買いに来たんです。お姉さんのおススメは何かありますか? 僕、あまりファッションとか分からないので」


 そういうと、お姉さんは僕を見た。僕の頭からつま先までを見るために、目だけでなく、顔ごと動かしている。


「そうね、これなんかどうかしら」


 お姉さんは、僕の前にオススメの服を出して、いった。


「え、これワンピースじゃないですか」


「そうよ、かわいいでしょう? うちの新商品よ」


 僕は目の前にあるワンピースを見て固まる。こういった経験が今までなかったわけではない。むしろ人よりも多い方だろう。だがゲームの世界に来てまで間違われるとは思わなかった。


「遠慮しておきます」


 僕がそういうと、お姉さんは悲しそうな顔をしたが、「そう」というと、店の奥に消えていった。



 それから10分ほど、店内を見ていると沙希と麻耶は買い物が終わったらしく、満面の笑みで僕を呼んでいた。


「ユウ、買い物終わったわよ。帰りましょう」


「僕の服は? まだ買ってないよ」


 僕は先ほどのヒヨコのパジャマを頭に思い浮かべながら、麻耶に訊ねた。


「もう買ったわ。ユウに絶対に似合うものを買ったから、楽しみにしておいてね」


 麻耶は満面の笑みで答えた。


「とてもいい買い物ができました。兄さん今日は眠らせませんよ」


 沙希も、なぜかとても満足げな顔だ。


 こういうときはたいてい碌な事がない。僕は今までの経験からそう判断した。この二人から逃げてしまいたいが、僕が生きていくためには二人の力は必要不可欠だ


 結局、僕は諦めることにした。




 その後、宿であったことは思い出したくない。


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