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偽物の世界で  作者: ten
3/4

邂逅


 


 二人の物騒な話が終わった後、僕たちは街の宿屋の前に来ていた。


「ここに泊るの?」


 僕は訊ねた。


「はい、とりあえずはここで暮していくことになると思います」


 沙希はそう応えて、宿屋のドアを開けた。


「いらっしゃいませ、癒しの宿へようこそ」


 僕たちを迎えてくれたのは、二十代ぐらいのお姉さんだった。金色の長い髪の毛を後ろで結んでいる。恐らくこの宿の看板娘だろう。僕がそう分析していると、麻耶が受付の前に立ち、お姉さんに向かって訊いた。


「三人で一部屋借りたいのだけど、空いてるかしら?」


「はい、大丈夫ですよ。朝食と夕食はお付けしますか?」


 麻耶は少し悩んだ後、僕たちのほうに向かって尋ねる。


「どうする? 私は付けてもいいと思うけど」


「僕もそれでいいと思うよ」


「私もそう思います」


 三人とも同じ意見だったので、麻耶はそのことをお姉さんに伝えた。


「分かりました。三名様で三百円です。料金は一日毎に受付で支払ってください」


 麻耶がお金を支払い、鍵を受け取った。


「とりあえず、部屋に入って今後のことを話し合いましょ」




 部屋に入る僕は、ベッドに腰掛けて二人に向かって言った。


「僕がお金を稼ぐ方法ってないのかな?」


 麻耶が首を振って答える。


「無いわ。働くことはできるかもしれないけど、お金を手に入れてもウィンドウを表示できないと使えないもの」


「大丈夫ですよ。兄さんの生活費くらい簡単に稼いでいけますから」


 ショックを受けた僕は、俯いたまま言った。


「だけど、二人に迷惑ばっかりかけることになっちゃうし、僕にも何かできることってないのかな」


 俯いたままの僕を、沙希が抱きしめてきた。


「兄さんは私たちと一緒にいてくれるだけでいいんですよ。それに、最初から兄さんを戦いの場に出そうとは思ってませんでした。仮にウィンドウを使えていたとしてもです」


 沙希の後に、麻耶も続けて言った。


「私達が戦いから帰ってきたときに、迎えてくれるだけでいいわ。ユウはそこにいるだけで何よりも価値があるもの」


 二人の言葉を聞いた僕き、少しだけ元気が出た。そんな僕の様子に気づいたのか二人も微笑んでくれている。


「でも、二人だけじゃきついんじゃない?戦闘とか」


 僕は二人のことが心配になり尋ねた。


「大丈夫よ。私はこのゲームのBテスターだったし、その時の仲間にも既に連絡は取ってるわ」


 麻耶はそう言うと、続けて沙希に向かって言う。


「サキちゃん、これから私はB版の時の仲間の所に行くわ。これからのためにも一回あっておく必要があるし、一緒に行きましょう。宿にいればユウも安全だから」


 沙希は頷いた。


「分かりました。兄さん少しだけいなくなるけど絶対に宿から出たらだめですよ?」


「うん、大丈夫。二人とも気をつけてね」




 僕は二人を見送ると、ベッドに倒れこんだ。瞼を閉じると今日の出来事が嘘のように思えてくる。そのままこれからのことを考えていると、僕はいつの間にか眠りについていた。




「ふふっ」


 笑い声が聞こえたので、僕は二人が帰ってきたのだと思い、上半身を起こした。


「おかえり」


 僕がまだ寝ぼけた状態で言うと


「ただいま」


 と返ってきた。だが帰ってきた声が、聞き慣れたものではなかったことに気付き、僕は首を声のしたほうに勢いよく向けた。

 そこにいたのは一人の白い少女だった。白いワンピースを着ており、肌と髪は月の光を浴びて白く染まっていた。

 少女の姿を瞳に映しながら僕は必死にのどを震わせる。


「き、きみ誰?どうして、ここにいるの?」


 女の子は答えない。ただ僕を見て笑うだけだ。


「君はプレイヤーなの?」


 僕が訊くと、少女は首を傾げた。


「どう思う?」


 少女は、より一層微笑みを深くして僕に近づいてきた。そして僕の耳元に脣を近づけて囁く。


「私はあなたと同じ存在、私がいなければあなたは存在しないし、あなたがいなければ私は存在しない」


「どういうこと?」


 僕が尋ねると、少女は困ったように笑った。


「いずれわかるわ」


 そして少女は僕の頬に両手を置いた。目があったと思うと少女の顔が近付いてくる。

 僕の頭がフリーズした。


 数秒後、僕が少女の行ったことを理解した時、少女はもう部屋にいなかった。




 その後帰ってきた二人に少女のことを伝えると、二人とも顔を真っ赤にして怒っていた。

 二人の様子を見て、もし最後にされたことを教えたらどうなるんだろうと思ったが、怖いのでやめておいた。


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