邂逅
二人の物騒な話が終わった後、僕たちは街の宿屋の前に来ていた。
「ここに泊るの?」
僕は訊ねた。
「はい、とりあえずはここで暮していくことになると思います」
沙希はそう応えて、宿屋のドアを開けた。
「いらっしゃいませ、癒しの宿へようこそ」
僕たちを迎えてくれたのは、二十代ぐらいのお姉さんだった。金色の長い髪の毛を後ろで結んでいる。恐らくこの宿の看板娘だろう。僕がそう分析していると、麻耶が受付の前に立ち、お姉さんに向かって訊いた。
「三人で一部屋借りたいのだけど、空いてるかしら?」
「はい、大丈夫ですよ。朝食と夕食はお付けしますか?」
麻耶は少し悩んだ後、僕たちのほうに向かって尋ねる。
「どうする? 私は付けてもいいと思うけど」
「僕もそれでいいと思うよ」
「私もそう思います」
三人とも同じ意見だったので、麻耶はそのことをお姉さんに伝えた。
「分かりました。三名様で三百円です。料金は一日毎に受付で支払ってください」
麻耶がお金を支払い、鍵を受け取った。
「とりあえず、部屋に入って今後のことを話し合いましょ」
部屋に入る僕は、ベッドに腰掛けて二人に向かって言った。
「僕がお金を稼ぐ方法ってないのかな?」
麻耶が首を振って答える。
「無いわ。働くことはできるかもしれないけど、お金を手に入れてもウィンドウを表示できないと使えないもの」
「大丈夫ですよ。兄さんの生活費くらい簡単に稼いでいけますから」
ショックを受けた僕は、俯いたまま言った。
「だけど、二人に迷惑ばっかりかけることになっちゃうし、僕にも何かできることってないのかな」
俯いたままの僕を、沙希が抱きしめてきた。
「兄さんは私たちと一緒にいてくれるだけでいいんですよ。それに、最初から兄さんを戦いの場に出そうとは思ってませんでした。仮にウィンドウを使えていたとしてもです」
沙希の後に、麻耶も続けて言った。
「私達が戦いから帰ってきたときに、迎えてくれるだけでいいわ。ユウはそこにいるだけで何よりも価値があるもの」
二人の言葉を聞いた僕き、少しだけ元気が出た。そんな僕の様子に気づいたのか二人も微笑んでくれている。
「でも、二人だけじゃきついんじゃない?戦闘とか」
僕は二人のことが心配になり尋ねた。
「大丈夫よ。私はこのゲームのBテスターだったし、その時の仲間にも既に連絡は取ってるわ」
麻耶はそう言うと、続けて沙希に向かって言う。
「サキちゃん、これから私はB版の時の仲間の所に行くわ。これからのためにも一回あっておく必要があるし、一緒に行きましょう。宿にいればユウも安全だから」
沙希は頷いた。
「分かりました。兄さん少しだけいなくなるけど絶対に宿から出たらだめですよ?」
「うん、大丈夫。二人とも気をつけてね」
僕は二人を見送ると、ベッドに倒れこんだ。瞼を閉じると今日の出来事が嘘のように思えてくる。そのままこれからのことを考えていると、僕はいつの間にか眠りについていた。
「ふふっ」
笑い声が聞こえたので、僕は二人が帰ってきたのだと思い、上半身を起こした。
「おかえり」
僕がまだ寝ぼけた状態で言うと
「ただいま」
と返ってきた。だが帰ってきた声が、聞き慣れたものではなかったことに気付き、僕は首を声のしたほうに勢いよく向けた。
そこにいたのは一人の白い少女だった。白いワンピースを着ており、肌と髪は月の光を浴びて白く染まっていた。
少女の姿を瞳に映しながら僕は必死にのどを震わせる。
「き、きみ誰?どうして、ここにいるの?」
女の子は答えない。ただ僕を見て笑うだけだ。
「君はプレイヤーなの?」
僕が訊くと、少女は首を傾げた。
「どう思う?」
少女は、より一層微笑みを深くして僕に近づいてきた。そして僕の耳元に脣を近づけて囁く。
「私はあなたと同じ存在、私がいなければあなたは存在しないし、あなたがいなければ私は存在しない」
「どういうこと?」
僕が尋ねると、少女は困ったように笑った。
「いずれわかるわ」
そして少女は僕の頬に両手を置いた。目があったと思うと少女の顔が近付いてくる。
僕の頭がフリーズした。
数秒後、僕が少女の行ったことを理解した時、少女はもう部屋にいなかった。
その後帰ってきた二人に少女のことを伝えると、二人とも顔を真っ赤にして怒っていた。
二人の様子を見て、もし最後にされたことを教えたらどうなるんだろうと思ったが、怖いのでやめておいた。