開始
GMは言った。
「今から、このゲームはデスゲームになります」
七月三十一日、午後六時
この日、僕たちはゲームの世界に閉じ込められた。
皆がざわつく中、僕は一人、このゲームに参加することになった経緯を思い出していた。
七月三十一日、午後十時
僕は妹に起こされ、リビングで朝ご飯を食べていた。テレビ見ると、今日からサービスが開始されるVRMMORPGの宣伝が流れていた。
「沙希、このゲームやるんじゃなかった?」
僕は箸を置くと、妹の沙希に訊ねた。沙希はにっこりと笑って答えた。
「そうですよ。今日の五時からサービス開始です。ですから兄さんもちゃんと準備しておいてくださいね」
「え、僕このゲーム買ってないんだけど……」
「大丈夫です。兄さんの分は私と麻耶さんでお金を出しあって、買いました。もう兄さんのヘッドギアにインストール済みです」
沙希はそう言うと朝食の後片付けを始めた。
まさか僕の分まで買っていてくれているとは、思わなかった。麻耶にも礼を言っておこう。
僕は携帯をポケットから取り出し、麻耶に電話を掛けた。何回かコール音が鳴り、麻耶が電話にでた。
「もしもし、祐希?どうしたの?」
「いや、ちょっと御礼を言っておこうと思ってさ。僕の分のゲームも買ってくれたって聞いたからさ。ありがとうね」
「いいわよ、別に。幼馴染なんだし、いつも迷惑かけてるし、その御礼だと思っておいて」
「わかった、ありがとう。次に話すのはゲームの中だね」
「そだね。じゃ、また」
僕は電話を机に置いた。そして、いつの間に片付けを終え、テレビを見ている沙希に、ゲームの礼を言った。
その後、昼食を食べたり、リビングで沙希にゲームのことを聞いたりしているうちに、サービス開始十分前になった。僕は部屋に戻りヘッドギアを装着して、その時が来るのを待った。
ゲームが始まると、僕はまず、キャラクターの作成をした。三十分ほどかけ、長身でイケメンなキャラを作りニヤニヤしていると、強制的に画面が移り変わり、広間の様な所に移動させられた。周リを見渡すと、みんな僕と同じくプレイヤーの様で、首を動かしてきょろきょろとしている。
チリン、と僕の頭の中で音が鳴った。次の瞬間、目の前にステータスウィンドウの様なものが出てきた。メールが来ているようだ。開いてみると沙希からだった。内容はどこにいるのかというもので、僕は適当に目立つ店の名前を入力し、そこで会おうという様な事を書き、返信した。
五分後、その店で待っていると沙希らしき人物が声を掛けてきた。
「兄さん、ですよね?」
「そうだよ、よくわかったね」
僕がそう応えると、沙希は「妹ですから」言って、安心したように笑みを浮かべ、握手を求めてきた。
なぜ握手なんだろう…… 僕が首を捻っていると、沙希は言った。
「フレンド登録をするためには、握手する必要があるんですよ」
そういえばそうだったと思い、僕は沙希と握手をした。
すると、サキとフレンド登録しますか?というメッセージが出た。僕は迷うことなくYESをタッチした。チリン、という音が鳴り、サキとフレンドになりました。というメッセージが出たのを確認すると、僕は沙希に訊ねた。
「そういえば、麻耶は一緒じゃないの?」
沙希は答える。
「メールをしたら、後で会おう、という風に仰っていましたよ。イベントの終わった後にでももう一回メ
ールしてみましょう」
そう言った後、沙希は「それはさておき」と言って続ける。
「兄さん、その姿は一体何ですか。どうしてもっとかわいらしい姿にしなかったんですか。そんなに大きかったらきちんと抱きしられないじゃないですか」
僕は、沙希のとんでもない発言を聞くと、ぶっきらぼうに答えた。
「別に良いじゃないか。ゲームの中でくらい理想の自分の姿になったって。それより沙希の格好のほうが問題だよ。髪と目の色変えただけじゃないか」
僕がそう言うと、沙希は苦々しい顔をした後、わざとらしく声を出した
「あー! もうこんな時間ですよ、イベントが始まってしまいます。広場に行きましょう」
僕は沙希に手を取られ中央広場に向かった。
広場にはもう既にかなりの人数が集まっていた。皆一様に、ワクワクとした面持ちだ。
六時になり、大きなファンファーレが鳴った。
「これより Imitation World Online の最初のイベントを行います」
アナウンスが流れると、広場のプレイヤー全員の歓喜の声が聞こえてきた。僕も興奮気味になっている。
不意に、世界が暗くなり、空に一人の男の姿が浮かび上がった。男は言った。
「みなさん Imitation World Online へようこそ。私はGMです。名前は特にありません。早速ですが、皆さんに一つお知らせがあります」
男はそこで言葉を止めると、唇を歪めた。そして一言。
「今から、このゲームはデスゲームになります」