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闘い、護る者  作者: 星 冥
繁栄の代償
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繁栄の代償

その日、折笠勇人は軍服を身にまとい一人で基地内に設けられた墓地に足を運んでいた。両親が好きだった花でこしらえた花束を抱えながら、彼は両親の墓を探しながら歩く。そうして彼らの墓を見つけると、墓石の前に花束を添え、墓石を見つめながらしゃがみこむ。

「父さん、母さん……今日はいい報告があるんだよ」折笠は墓石に向かって話しかけながら、自分の胸につけられたバッチを見せた。そのバッチは、彼が『怪獣迎撃班』の隊員になったことを示すものであった。

折笠は勲章を見せてから微笑むと、立ち上がった。そうして、また来るからと告げると墓を後にした。彼が去った後に強い風が吹いた。周りの木々が風に葉を揺らしながら音を鳴らしていた。その光景は墓地から去りゆく折笠を、誰かが声を上げながら見送っているように思えた。

 彼は墓地を後にすると、駐車場に止めてあった軍用の車両に乗り込む。そうしてエンジンをいれると、車を西へ走らせる。時計を見ると、まだ7時半にもなっていなかった。

車を走らせてからしばらくすると、目の前に大きな建物が見えてきた。周りを堀で囲まれ、土台となっている石垣には苔が生えている。春になると植えられた枝垂桜が満開に咲き誇るのだが、もう既に花弁は散っていた。建物の前には灰色の大きな門があり、そこには警備員が待機していた。

 建物の前で車を止めると、それを確認した警備員が運転席の方へ駆け寄ってきた。警備員が軽く窓をノックしてきたので窓を開けた。

「身分証を確認してもよろしいでしょうか」

警備員の質問を聞くと、彼は軍服の胸ポケットから黒色の電子端末を取り出した。そうして端末を操作して身分証を表示させると、警備員に確認させる。警備員は軽く身分証を見ると、遠隔操作で門を開ける。

「ご苦労さまです」

警備員の労いの言葉に折笠は笑顔で答えると、再び車を走らせる。敷地内に入ってすぐの駐車場に車を止めると、彼は腕時計で現在の時間を確認した。時計の針は八時ちょうどを指している。

彼は時間を確認するとゆっくりと歩きながら、敷地内の様子を見る。敷地内に設けられたベンチで仮眠をとる研究者もいれば、同僚たちと雑談を交わす軍人の姿もあった。しばらく敷地内を歩くと、彼は何も変哲もない壁の前で立ち止まった。彼は手探りで壁を触っていたが、ある部分を触ってからその壁に掌を強く押し当てた。

掌を強く押し当てるとすぐに、彼の眼に向けて柔らかい光が当てられる。光を数秒ほど当てられてから壁を見ると、掌を強く押し当てた部分に端末が現れていた。

「隊員の暗証番号を入力してください」

端末から発せられる機会音声の指示に従い暗証番号を入力すると、認証しました、という音声とともに目の前の壁が通路へと変化した。彼がその通路を歩いてしばらくすると、彼の背後で壁が変形する音が聞こえた。通路は暗く、空気は外と比べてすこしだけ冷たい。下へ下へと降りる段差があるので、おそらくは地下へと向かっているのだろう。しばらく通路を歩いていると、目の前から外の光景が見えてきた。折笠が通路を抜けた時、彼の眼には外とは違う光景が移っていた。

通路を抜けると、そこには広大な地下空間が広がっていた。折笠の目の前には大きな電光掲示板が立っており、そこを行き交う人に道しるべを示していた。そこを行き交う人を見ると、軍人や研究者、看護師と言った軍関係者の姿がほとんどであった。彼は入り口であたりを見渡していると、電光掲示板の前に黒髪の軍人が立っているのを見つけた。折笠は彼の元に駆け寄ると、慌てながら敬礼をする。敬礼をする彼の右腕は緊張のあまり、小刻みに震えていた。その様子を見た軍人は小さく笑った。

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