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その日は、いつもなら騒がしいはずの繁華街から人の姿が消えていた。光り輝くネオンの明かりもなく、いつも往来する人のない表通りからは寂しい雰囲気が漂っている。通りの端っこで丸まっている黒い野良猫が退屈そうに欠伸をすると、ゆっくりと目を閉じようとした時だった。
大きな地響きが繁華街に響き渡る。
その地響きはゆっくりと、段々大きくなっている。地響きとともに建物が音を立てて揺れ、先ほどの猫は驚いてその場から逃げ去った。たまたまその場に居合わせた一人の男は何気なく空を見上げると、その視線の先にいる物を見て尻餅をついた。
怪獣がいる。男はそう叫びながら怪獣から逃れようと、その場から走り去った。だが怪獣と呼ばれたそれは男を見つけると、その後を追いかける。人型で幾つもの触手を持つそれは、ぐにゅぐにゅと音を立てながら進んでいる。
男は怪獣から逃れようと、死に物狂いで、捕まるものかと走り続ける。だが怪獣も男を逃がすまいと、その触手で何度も男を捕らえようとする。しかし、男は生まれつき素早さで触手を避けていた。
逃げた末に男がたどり着いたのは、人一人がなんとか通れる狭さの袋小路だった。ここなら大丈夫だろう、と男は安心した。
しかし怪獣の触手は、そんな狭さの袋小路を通り抜け、男に迫ってくる。
男は目の前の光景に、絶望を感じた。そんな彼は、自分がこの触手に捕まった後のことを考えた。怪獣の餌食になるに違いない。男はそう思うと、誰かに救いを求めるように手を組み、祈り始めた。そんな男の下に、触手は確実に迫ってきている。
もう駄目か、と男が覚悟を決め、目を閉じた時だった。