四話 はじめてのエンカウント戦闘
「おっしゃ!コボルトだろうとスライムだろうとなんでも来い!」
「ハハッ、準備はできたようですね。では」
その声と共にカルゴは背中に背負っていた斧、彼が山賊時代に競売場で奪ったという大地変動の斧を手に持つ。巨大でひたすら格好良さを求めたようなフォルムをしている。この斧を簡単に言葉で説明すると俺の身長(現在146cm)の1.5倍はある赤黒い色の竜が口を開けている装飾があり、その開いている口に斧の刃を押し込んだカンジだ。カルゴ曰くこの斧だけでこの斧の竜、バハムートに匹敵する力がある。との事らしい。
「この斧を抜くのは2年前のシュラハルト君と戦って以来ですから鈍っているかも知れませんが・・・」
カルゴは自分の身長と同じくらいの斧を軽々と振り上げながら言う。バチバチッと、カルゴの腕の先から斧の先まで眩しく雷のような黄金色の光なものが迸る。魔法的なものか!?、と俺は思い初めて見る現象に見入ってしまう。心臓の鼓動のように雷の大きさは変化を繰り返す。
「シュラハルト君の成長のためです、ここは一肌脱ぐとしましょうか!」
そして、雷が今までで最も大きくなった瞬間、カルゴは山の大地に大地変動の斧
を叩きつけた。
「さて、シュラハルト君。今すぐ離れた方が良いですよ。」
「え?それってどう言うことで・・・」
次の瞬間、カルゴの一撃により入った亀裂から森の奥にいるコボルトの方へ一直線に大地が真っ直ぐに裂けていく。木だろうが岩だろうが関係無しに裂いて進む亀裂。このままだとコボルトに直撃する。
「何ぃッ!?」
なんかザコキャラっぽい声がでてしまった俺だが、ホントに驚いた。カルゴが放った一撃が当たるギリギリでコボルトさんが消えたのだ。漫画とかでは何!消えただとっ!、てカンジの描写をよく見る。わざわざそんな反応しなくてもいいでしょうに。と思っていた俺だが、実際で見ると本当にビックリする。なんの動作も無しに消えるのだ。ビックリするだろう。さて、コボルトさんは何処に行ったんだろうと辺りをキョロキョロと見回す俺。
「上ですよ。シュラハルト君。」
「え?」
そう言われて上を向くと、棍棒を構えた人型の何かが俺の真上から襲い掛かって来た。高い木々の枝と枝の間から差し込む日光で姿は分からないが、パッと見したカンジは森の奥にいたコボルトだ。しかしまたもやテンプレな展開だ。と思う俺だが、その直後にこんな事考えてる場合じゃねえっ!とすぐに木曲刀で棍棒を防ぐ俺。
ガキッ!と棍棒と木曲刀がぶつかり合う音が山に響き渡る。コボルトの棍棒による重い一撃を軽すぎる木曲刀と自らの腕力で耐えていた俺だが、ミシミシッと木曲刀が軋む音が聞こえ俺はすぐさま後ろに飛ぶ。
「・・・ッ」
重い一撃を無理に耐えていた俺の腕に痛みが走り、指先から手首まで重い痺れが襲う。
「さっきの大地変動呪文使ったのってアンタ?」
高く、軽い感じの女の声が俺に向かって投げかけられる。雌?と俺は思い、コボルトの方を向く。
「うーん、違うっぽいね。アンタから魔力ってのが感じられないわ。うん。となるとやったのはそこのオジサマって事になるかな?」
「ええ、その通りです。私がさっきの大地変動魔法を放ちました。」
聞きなれないこの・・・タイタニス?って言葉。多分カルゴが放った技の名前だと思う。そしてもう一つ。この魔力と言う言葉だ。俺からは魔力が感じられないと言っているが、さっきの技の事と何か関係しているのだろうか。魔法か、と俺は考えるがさっきカルゴが放った技は魔法とは俺がイメージする魔法とかけ離れている。むしろ剣技みたいな感じだ。
「へぇー、この辺りに使えるヤツがいると思わなかったなー。」
「この辺りでは魔法なんて覚える必要もありませんからね。覚えていないのが普通ですよ。」
・・・・どうでもいいがこのコボルト。俺のイメージを堂々と裏切りやがった。俺のイメージは頭が犬で人の身体に尻尾をくっつけたようなもの。と予想していた。しかし。
「所でアンタは何見てるのよ。」
「・・・いや。」
しかしだ。コイツの格好ときたら普通の人間の女の子(黒髪赤目で見たカンジ13歳くらい)に犬耳をくっつけて鼻を犬の鼻・・・リアルでの犬の鼻をくっつけたカンジでは無く犬の鼻に似てるがなんか漫画に出てくる可愛いわんちゃんなカンジになってる。そして尻尾。さらに獣の毛皮で作ったようなショートパンツにへそ出し設計のTシャツ(獣の毛皮製)と来た。一言で言うと犬の擬人化みたいなカンジだ。
「まあ、そこのオジサマ。アタシと戦ってほしいワケなんだけどお手合わせオーケー?」
「いえいえ、まずはそこの少年と手合わせしてあげてください。」
「ふーん。このチビっ子ねぇ」
なんか元が15歳なだけに見たカンジ13歳のヤツにチビッ子扱は多少傷つく。
「んー、じゃあさ、アタシがコイツに勝ったらオジサマ、アタシに付き合ってよね。」
「承知しましたよ。貴女がシュラハルト君に勝てば私がお相手しましょう。」
「よーし、その言葉忘れないでね。」
「ええ、約束しますよ。」
なんか影になりかけてるぞ、俺!と自分で自分に渇を入れる俺。完璧に舐められてるな。うん。
「さーて、パパッとやっちゃおうか!」
「・・・ッ!」
コボルトが棍棒を再び構えたので俺も木曲刀を構える。
2年前、カルゴとの戦闘の時はチートを使用して勝ったワケだが今回は違う。自分自身の力だけで戦うのだ。正直、俺が生きて総計27年の中で殴り合いなんてした事無い。なので勝つ自身なんてものは全く無いが、やるしかないのだ。悲願のスリル溢れる日常を手に入れるためには。