序章5 はじめての戦闘
火の海と化した村、早く逃げろと叫ぶ騎士さん。村に迫り来る山賊。そしてそんな状況のすぐ近くに立っている俺。向こうの世界だったらこの状況に直面した場合、俺はすぐさま尻尾をまいて逃げるだろう。しかし、こちらの世界ではこの恐怖などは感じない。何故なら能力と言う支えがあるから。この能力は、ここに来て10年間一度も使用した事もなく、実際宿っているかどうかも疑わしい。だが、あの神様との会話の一件が夢じゃないなら俺は無敵のハズだ。そんな考えがあるため俺は余裕である。
「シュラ坊!君は村のみんなに知らせて一緒に逃げるんだ!山賊は僕一人で十分だから!」
いつもは優しい騎士さんの顔が真剣な表情だった。それはそうだろう。最近減ってきて油断していたあたりに賊襲来だ。焦るに決まっている。
「早く行くんだっ!」
切羽詰まった声で叫ぶ騎士さんの言葉で俺はようやく動く気になった。とりあえず賊と一回戦闘をして、能力を使ってみたいという気はあるが、人命が優先である。俺は頷き、民家のある方へと走る。
この村はヤケに広い。まず、騎士さんが常に守っている村の出入り口のあたりに大きな高床倉庫が八つくらいあって、そこから800メートルくらい走った所に民家の集まりがある。土地が広いのは良い事かもしれないが、こういった何か大事な事伝えなければならない人にはたまったものじゃないだろう。
「クソッたれがあああああああああああああああっ!」
俺は叫びながら全力でダッシュする。俺は精神年齢は色々あったため高くても、現在俺身体は10歳の少年のモノだ。だから800メートル走るだけでも相当疲れる。
ゼェ、ゼェと息を切らしながら、走っていると民家が見えて来る。しかし、何だか騒がしい。今は朝だ。大体の人は朝ごはんを食べ終えたくらいの時間なのだ。こんなに騒がしいワケがないのだ。、とそこまで考えた当たりで俺は気づいた。――謀りやがったか――と俺は舌打ちをしつつ、疲れきっている身体に鞭を打って民家の方へ走る。
「マジか・・・」
それは俺が民家の方へ行って状況を自分の目で見た感想。予想はあっていたが、オマケがついて来ていた。
どうやらヤツらは森からザコを送り、他・・・多少強い人とか(?)を村の別入り口ルート。と言うか村を囲っている柵を横からブチ破って入って来たらしい。そこまでは予想していたが、最悪な事に人質を取ってやがった。しかも、人質がミカヤ。まさかの友人である。大人達は子供を人質にとられて動けませんと言う状態。そして山賊のゴツい腕で押さえられてるミカヤは。泣いてこそいないが、それこそ不安に満ちた表情で俺の方を見ている。そんな目で見つめられても困るんでっせぃ、とか思いながらも俺は助けるつもりだ。きっと俺のようなチビのガキは山賊さんの眼中に無いだろうから楽だろなと思う。
「ギャッハッハッ!このガキを返してほしけりゃっ!俺様達にっ!この村の財産をありったけ!よこしやがれ!さもないとこの娘をどうしてやろうかなっ!」
いちいち言葉を切って叫ぶ山賊の親分らしいスキンヘッドの色黒マッチョさん。格好はいかにも山賊って装備+なんかカッコいい斧だ。あいつと戦うと多分アレの自慢をされるな。という未来がなんか見える。それにしてもあの山賊の発言、こういった状況でなければ俺は笑い転げてる自信がある。だってアレだろう?死亡フラグ&ロリコン発言だろう。実際意味的に違うかもしれないが、俺はもとは15歳の少年なのだ。思春期の前で言うとこうこうなるのだ。(合計25年生きているワケだが)なんて考えてると山賊さんが怒鳴り散らしている。
「アァン!?この村はこんな貧乏人しかいないってのか!?」
うむ、テンプレな山賊のセリフだ。とかボソッと呟きながら俺はちょっとずつ山賊さんの死角から距離をつめていく。距離的には2mくらい。だが、俺の事にまったく山賊さん達は気づいてないのでグングン近づけるのだ。距離が30cmに縮まった瞬間多分俺の勝ちだ。しかし、能力が無かったらまず俺は終わる。しかし、死後にはまた転生できるんじゃないかな?と思っている。死んだら冥界の神様が、死んでしまうとは情けない!、みたいなかカンジになるんじゃないかと思う。と言うか祈ってる。
「さてヤロウ共!この村にはこれっぽっちしかないらしいからな!とっとと入り口で戦ってる騎士を!ブッ殺してずらかっちまおうぜ!」
親分さんがそう言うと周りにいた山賊4人が村の入り口の方へ歩き始める。割とずらかる時間が早くてずらかられると困るんですがっ!となる俺だが、次に起こったベストな出来事によって救われた。
「おいおい、ずらかってはいけないよ。山賊諸君」
なんと騎士さん登場だ。アレから十分しか経ってないと言うのにここに来た。つまり、十分で声だけ聞いても10人以上はいた山賊さん達を倒したという事。マジか騎士・・・と正直度肝を抜かれた俺。
「君達は今見た所、人を傷つけたりしていないようだが村に対して火矢を放ったりしたため法を犯している。よって、今から拘束させてもらうよ。」
「ヘッ!何をエラそうに!こっちには人質がいるんだぜ!お前に何ができる!」
そうなのだ。騎士さんが来ても人質がいる。山賊さん達の足が止まっただけであり、事態は動かない。さぁーてどうしてくれようか?とばかりに人質をとられてる騎士さんに迫る手下山賊さん4人。
「おっと!武器を捨てな!断っても無駄だって!分かってるだろう!?」
「・・・・分かった」
騎士さんは躊躇う仕草など見せずに武器を捨てた。どこまで優しい人なのだ、と俺は騎士さんに敬意を覚える。なぜ、他人のために命を捨てられるのか。そんなものアニメや漫画の中の話だろう。しかもそれはご都合主義だのなんだのがあるからやっているだけであり、ここは現実だ。例え俺にとっては転生してきた世界であり、現実と言う実感は湧かない。しかし、それでもだ。彼にとっては現実なのだ。死のうと思えば死ねる。そういう世界だ。ご都合主義なんてない。死にに行こうと思えば死ぬ。それが誰かを守るため、とかどんな偉大な理由があっても死ぬ。なのに、彼は自分の命が危険に晒されると分かっていてもミカヤの命を選んだ。このまま山賊達が騎士さんに襲い掛かれば自分の命を捨てて少女を守ろうと男は無慈悲に、無残に死んでしまうだろう。
俺は騎士さんに死んでもらっては困る。剣の指導をしてもらう予定があるし、彼は俺の兄のような存在だ。そしてなによりも、誰かを守ろうとし人が無残な死を迎える事が許せなし認めない。
ならどうするか、答えは出ている。
現実は誰かを守ろうとしたら死ぬだと?ご都合主義なんて無い?ハッ上等だ。
――――なら、俺が作り出して証明してやればいいいんだご都合主義ってヤツを!――――
そして俺は走り出す。まずは騎士さんを縛っているものを取り除くべく山賊親分さんの下へ走る。
「ギャッハッハッハッ!さぁて!テメェは何もできねぇ!おとなしく!死ねぇ!」
高笑いしてるために俺に気づいていない。コレが本当の間抜けってヤツなのか?なんて考えるが、俺にはそんな余裕はない。さっさと距離を詰める。
(この辺が30cmかねぇ)
俺は適当な目測で距離の長さを測る。
さて、やるか。と俺は神様から言われた事を思い出す。確か我が領域に立ち入ったら〇〇ってカンジで発動だった。なんだか心臓が鳴っているが、やってやるぜと緊張を押し殺し言葉を唱える。
「我が領域に立ち入った敵は人質を優しく解放した後皆さんに迷惑をかけない方向に後頭部から転ぶ」
あぁ?と俺の方を向く山賊親分。しかし、その後すぐに元の方向へと向き直りわざわざ自分がしゃがんでミカヤの足を地面に着けたあとにミカヤを解放。そしてそのあとだ
「ぬぁおっ!!!」
見事につるっ!と滑って皆さんに迷惑の掛からない方へ倒れて後頭部を打った。
「・・・・マジか」
俺は呟く。こんな無茶苦茶な命令でもこうなるとは・・・・さすが神から授かりしチートだ。と俺は思う。ミカヤがうろたえていたが、「早く逃げなさいお嬢さん」と俺が言うと「う・・うん」と言って自分両親の元へ駆けていった。
なんかこの場が沈黙している。確かにビックリだよな。いきなり子供が中二臭い事言ったと思ったらそれが本当になるんだもの。
「えー、とモルドレッドはん。戦わないの?」
俺のその言葉で騎士さんは急いで落ちてる自分の武器を拾うと先頭体制に入った。さて、能力がある事も分かったんだし、モルドレッドさんに加勢でもしに行くかと思ったとき。後ろにおぞましいとしか言いようの無い、気を感じた。
俺が後ろを向くと山賊親分さんが怒りに満ちている、まさに鬼のような顔で俺を見ていた。その怒りが殺気しかない瞳や怒りのあまり破れた血管から感じとれる。
「ガキィィィィィィィ!テメェ!殺されてぇのか!いや殺す!ここで肉の塊に変える!」
そういって背中に括り着けていた例の格好良い斧を手に持つ。そして
「ウガアアアアアアアアアアアアアアア!」
人間ではない、獣のような叫び声を上げて俺に向かって斧を振り下ろす。
「ッ我が領域に―――――ッ」
スドン!と言う音と共に斧が地面にめり込む。
「ッ!シュラ坊!」
騎士さんの声。しかし、俺は間に合わない!と思った瞬間、バク宙みたいなカンジで後ろに下がって避けたのだ。しかし、無傷ではない。敵の攻撃は避けたが、咄嗟のバク宙だっために地面に頭を打つと言う結構なダメージを受けた。
「っ痛ェ」
頭がグラグラするし、吐き気までするが敵から目を逸らすワケには行かない。逸らした瞬間俺は真っ二つのタンパク質の塊になってしまう。
「ハハ!どうだガキ!この斧!大地変動の斧の威力はよぉ!この前、競売場襲ったときに偶然手に入れたんだ!一回地面叩いただけでヘタすりゃ地割れが起きる威力だから大地変動の斧らしいぜ!?しかもだなぁ!この斧は威力だけではねぇんだ!こんな事だってできるんだ・・・」
「あいあい、ゴクローさん」
俺は敵の自慢話が終わる前にぱっぱと呪文を唱える。
「我が領域にたち入った敵は俺の打撃一発でとりあえず吹っ飛ぶ」
そして俺は山賊親分の身体にポンと触る。
「へ?」
山賊親分が一瞬間抜けな顔をし彼の頭の上にハテナマークが2つくらい出たあたりで
「どわっぶ!」
ばっひゅーん!と一瞬にして吹っ飛んで行く山賊親分。その勢いはとてもヤバく、家を一軒、そしてまたもう一軒と貫通して行き、そして4つくらい貫通したあたりで村の外壁を突き破り、村のすぐそばにある森の木を5本くらいベキベキベキベキベキィッ!と折って6本目の木にぶつかって、その木が傾いた所でようやく止まった。
俺は自分が望んだ能力にうわぁと引く事しかできなかった。