三十三話 決勝一回戦―決着
落ち着け、イメージしろ、闘気は一点に集中することができるんだ。ならば、闘気は大体なんでもできると見てもいいはずだ。
俺の身体は浮いている。下は石畳の外。地面に足が着いた瞬間負けは決まる。
「シュラハルトっ!アンタ何してんのよ!?」
どこからか聞こえるフェーラルの声。観客席からここまで聞こえるとはどんな声量してんだ、アイツ。
恐らく、俺のやっている事は他人から見れば自殺にしか見えない。だが、俺は賭けにでた。場外に落下しようとしている武器を拾い、マルクを倒すため。
俺がやろうとしている事は、空中を移動する事だ。は?と思うだろう。しかし、できる。俺はそう、確信している。
まずは、剣の落下を防がなければだ。ここが第一関門。気を集中。両膝を折り曲げ、靴裏が、俺の真後ろを向くようにする。
できる、いや、できなければいけないんだ!
両足に意識を集中。先程、右手に集中させたのと同じように。血液の流れと同調させるかのようなイメージ。
すぅ、と聞こえてきそうなほどに滑らかな闘気の移動。両足への集中に成功。次だ。これができなければ第二関門は突破できない。
この、両足に纏っているものを………吹き飛ばすイメージでッッッ!!
どぉっ!と音を立て、両足に纏っていた闘気が吹き出す。そして俺の身体は前方へと押される。そう、これは闘気の放出。フェーラルが波動拳が使えると言っていたことを思い出し、それならできるんじゃね?と思った事だ。一発で成功できるとは我ながら見事。
(ここで、慢心しちゃ、ダメだぜぃ、俺っ!)
その推力を利用し落下中の木曲刀に追いつく。地面と、木曲刀の間に足をこじ入れ、思い切り蹴り上げる。
よし、あとはこの足を逆の方に向けて、リングに戻り、勢いを利用し、マルクを刺す!と言う計画だった。だったのだ。しかし
「うおっ!?」
蹴り上げた反動で体がぐらつき、仰向けのような体制になる。しかし、足の裏は上を、向いていた。
「ぐっ!?」
予想外だ。と言うか、なんで気づかなかった、俺っ!どうする、このままじゃ場外に落ちて負ける。
万事休すかっ!
「シュラハルトっ!まだ、諦めんじゃないわよッ!」
「シュラハルトォォッ!根性だ!根性出せぇっ!」
その時、闘技場に響き渡った大声×2。
フェーラルとアーク。犬二人だ。そんな事言ったって、と普段の俺なら思うだろう、しかし、何故だろうか、ここで無様に場外へ背中を着けるわけにはいけないと言う気がしてきた。
「うおおおおおおおっ!」
俺は闘気を集中。体制を立て直すために、今、まさに地に着こうとしている背中へと。そして、それを一気に、放出!
ブァッ!と音を立て、背中の闘気が地を蹴る。俺の体はその推力により、高く、舞い上がる。
闘気の放出が終わり、俺は空中で体制を立て直す。そして見据えるは、石畳のリング。そしてその上にいる倒すべき敵、マルク。
すぅっ、と息を吸い、俺は叫ぶ。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇえええええええええっ!」
背中から再び、闘気を放出。方向は斜め上。俺の体は斜め下、マルクの方向へ直進する。
恐ろしい量の空気が前方から襲い掛かる。風切り音が耳元で唸る。
「シュラハルトぉぉぉぉぉッ!」
マルクが今までで一番の量の闘気を纏い、俺を向かい打つための、居合いの構え。恐らく、避けようと言う考えはない。これが最後の勝負。
「マルクぅぅぅぅぅぅッ!」
勢いを緩めず、俺は全ての力を剣に乗せるため、体の上段を捻る。闘気の放出は背中から足の裏へシフト。
距離は縮まる。3メートル、2メートル、1,5メートル。……マルクの間合いだ!
「っらあああああああああああ」
マルクの方向とともに襲い来る、神速の一閃。俺もマルクの胸を目掛けて、右手の曲刀を突き込む。
「おおおおあああああああああっ!」
「っらあああああああああああっ!」
二人の剣と方向が交差。俺の曲刀がマルクの胸を突くと同時に、マルクの一閃が俺の脇腹を打つ。
額を伝う汗。会場の沈黙。そして、勝負は、決した。
「勝者、B-427っ!」
俺は、勝ったのだ。
やっと決着ですね。長引かせてしまい申し訳ありませんでした。
2回戦目からはもう少し、早めに終わらせられるよう努力しようと思います。
………まあ、失踪しなければ、ですね(意味深な顔)