二十九話 熾烈極めし!
マルクから一本取るのに夢中で、気づかなかったが他の3試合は既に終わっているらしく、今丁度ミカヤの試合がミカヤの勝利で終わった所であった。とりあえずミカヤに声を掛けてみる。
「ミカヤ、お疲れさんだぜぃ。これで資格はゲットだな!」
と言ってやるとミカヤは一瞬嬉しそうに笑ったが、少し顔を厳しくして
「人の勝利を喜んでる暇があったら自分を試合に集中しなさいよ・・・。ホントにのん気ね・・」
そう言うとミカヤは一つため息を吐いた。
「なんですかぃ、折角褒めてやったのに・・・素直じゃないですなぁー」
「頼んでなんか無いわよ・・・もう・・まあ・・その・・負け・・ないでね?」
かなり珍しいミカヤからの応援を聞き、ちょいと吹き出しそうになってしまうが、ここは笑う所じゃあないので、俺はミカヤの方を向き、右手の親指を立て、グッと差し出して
「ああ、勝ちますぜぃ・・・決勝で会おう!」
死亡フラグですね、ハイ。それでも勝つ!そう決めたのだ。
「うん、絶対。」
ミカヤは小さく笑ってそれだけ言うと、俺に背を向け、入場口の方へ戻って行った。
「さてと」
俺は再びマルクの方を向く。なんか少しニヤニヤしているんだが、此奴・・・。
「何を笑ってるんですかぃ?マルク」
「ふふ・・いやあ、フェーラルと言い、彼女と言い、中々にプレイボーイじゃないか。シュラハルト」
What?
「・・・何を言ってるんですかぃ?マルク君・・・俺があの獣娘と頭ガチガチ真面目女と乳繰り合ってるとでも言いたいんですかぃ?あぁーん?」
なんか冷静さを失って言葉遣いがおかしくなってる気がするけど気にしません。
「ハッハッ、まあ、どっちにしろ面白いからいいんだけどね」
「よし、なんかイラついた。速攻でもう一本取ってくれる」
「そう簡単には取らせないよ、シュラハルト!」
「来いや!マルク!」
そう言い合い、お互い初期位置に戻り。睨み合う。
――― さて、どう攻めるか ―――
とりあえず、先程と同じよう作戦を練るところから始める。恐らく、先程と同じ『コケたトコを狙い打つ大作戦』は通用しないであろう。それなら強制的に他の作戦を取らざるを得ない。ヤバくなったら使うつもりの秘密兵器は用意してあるのだが、それはバラすと色々困るので後々のために取っておきたい。
ならば、闘気をフルバーストし、速攻で一本を取りに行くしかない。
「再開ッ!」
審判の声を合図に俺はフルブーストでの突進。
「おおおおおおおおおおお!」
そして、その状態からの闘気の発動!
「根性ォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
黄色いオーラがバチバチと音を立て、俺を包む。このまま一気に攻め落とす!だがマルクは余裕の表情であった。何か不吉な物を感じたが、俺はスピードを緩めずに突進する。
「シュラハルト。俺は正直、お前をナメていた・・・だが、一本取られて、思ったぜ・・・お前は全力を尽くして倒しに行かなければならない相手だとッッッッ!」
その時、バチバチッ!と音を立て、マルクの体を黄色いオーラ・・そう『闘気』が包んだ。
「なん・・・だと!?」
思わず声が出てしまう。闘気は基本的に修行で身に付けるものでは無く、戦いの中で偶発的に発生するものだと、フェーラルは俺の特訓の最中に言っていた。なので、今、マルクに闘気が発現するのは普通だろう。しかし、俺が驚いたのはそこではない。マルクが楽しんでいる事だ。残り一本で敗北し、今俺がマルクに一本決めようと言うところで、マルクは純粋に楽しんでいるのだ。
だが、もう木刀で防げる距離では無い。次は二本同時に攻撃を行い、防ぎきれなくする。
「チェェェストォオオオオオオオ!」
両手を振り上げ、曲刀二本での同時攻撃、これで確実に一本。のハズだった。そのとき、
マルクが攻撃を躱した。
ただ躱したのではない、それぞ正に文字通り最小限の動きで、身を捻るだけであっさりと躱してのけたのだ。あらかじめ来る攻撃が分かっていたかのように。
「ッ!!!!」
思考に入ろうとしていた意識を覚醒させ、マルクの次の攻撃を躱そう。そう考える間さえなく、ヒュッ!と風斬り音がなり。
ガンッッ!!!と信じられない程の衝撃が俺の両手に走った。そう、重いのだ。。信じられぬ程。 とっさに身構えたので一本は免れたが、この重さは尋常では無い。俺が両手を使っているのにも関わらず、どんどんと押し込まれて行き、そして
「うがっ!」
掛かる重圧の凄まじさ故に鍔迫り合いを解いてしまった。今回は避ける準備さえしていないので辿る道はそう。
「D-149一本!」
闘気を纏った木刀が頭にヒットと言うのは守りの指輪が着いていても痛く、そこを押さえながら立ち上げる。
「さあ、シュラハルトもっと本気を見せてくれよ」
「この野郎ォ・・・・ッ!」
どうやら後に取っておく秘密兵器の使用を考えなければいけないらしい。それ程にこの男、マルクは強い。
俺がマルクの強さを見て、気が冷静になっていくのに対し、会場は絶好に盛り上がっていた。