十三話 迷走そして誓い
一面焼け野原と化した森の広場に俺は立っていた。無傷で。
―――終わったのか。
イマイチ信じられなかった。たくさん仲間が、大切な人が死に、死体同然の状態となつたのに自分がまだ生きていると言う事実を。
―――アレはなんだったんだろうか
ミカヤを殺され、怒りが最頂点に達した時に俺の思考を支配したアレは。後々思い出すと背筋に冷たいものが走る。人を傷つけようと、自分が傷つけられようと思考を変えなかったアレは。なんだったのだろうか。
「・・・・・」
たった一人となり考え事をしている孤独感を紛らわすため、俺は溜め息を吐きと隣にあるズタズタとなったパーシヴァルの死体を見る。
「俺が・・やったんだよな」
最早ボロ雑巾としか言えないそれは凄惨過ぎてグロテスクさを感じさせなく、それだけ現実感のない物だった。
別に罪悪感なんて感じていない。この男はこうなって当然だ。精神年齢はまあ、転生のこともあり20歳を超えていようと、ガキの俺ですらそう思えてしまう程当然だ。
俺の気をここまで落としているのは喪失感だ。モルドレッド先生やカルゴ、フェーラルにアークにライカそしてミカヤ。大切な人、仲間、幼馴染を一気に失った喪失感。それらを全て奪ったパーシヴァルに向けていたあれだけの憎悪と怒りも何故かさっぱりと消え去っている。
「どうすれば良いんだよ・・俺は」
自分の中を支配している喪失感を言葉にして紡ぐ。思考に支配されるがままに戦った代償は大きく、そうしようも無いものだった。
「自分一人で暴走して・・・一人だけ無傷で残るのかよ・・・」
ただ、後悔するしかできなかった。
「ふむ・・・一面焼け野原で生存者一名か・・・。」
いつの間にか声がした。
「・・・驚かせてしまったか、少年よ。すまない」
低い声で顔も見えない程の白い防具を身に纏った男は少し頭を下げた。
「アンタ・・誰ですかぃ・・・?」
「私か?私の名はランスロットと言う。しがないこの国の騎士だ。少年、名は?」
「シュラ・・・ハルト・・」
「シュラハルト・・か、成程。モルドレッドが言っていた奴の弟子の事か・・・」
「騎士団・・・・?ですかぃ」
「その通りだ。彼と同じ騎士団に属している。君の事は彼から聞いている。さて、シュラハルトよ。急ですまないが、ここであった事を話してくれると有難い。」
「・・・」
俺はランスロットの問いに答えるのに少し躊躇った。思い出したくないのか、何やらよく分からない感情が俺を引き止める。
「成程、言いたくないのならそれで良い。すまぬ事をした。」
「いや・・・謝ることはありませんぜぃ・・・」
しばらくの間、沈黙が訪れる。吹いた風がこの場にある大量の灰を撒き散らす。
「・・・答えたくは無いのは分かったが、これだけは聞かせてもらう・・」
ランスロットは立ち上がり、俺の隣からパーシヴァルの死骸と共に壊れず残っていた大噴煙の剣(大きさは元に戻っている)とモルドレッド先生の居た当たりから緑色の細剣を持ってきて俺の手前に突き刺す。
「これはモルドレッドの愛用していた剣そして我と同じ騎士団のパーシヴァルと言う男が持っていた剣なのだが・・・奴らはどうした?」
「ッ・・・死にましたぜぃ・・・・」
一瞬、言うのを躊躇ったが伝えるのがこれだけで良いなら良いだろうと思い、ランスロットに伝えた。
「そうか・・・何があったかは聞かない方が良いのだな?」
俺は答える気力も無く、ただコクンと頷く。
「私はモルドレッドに呼ばれて来て、彼の滞在中の村を訪れる途中にこの当たりで大爆発が起こったのでここへ来てみたのだが・・・」
ランスロットは低い声に少し哀愁を混ぜて言う。
「まさか・・彼が死んでいるとはな」
「・・・・」
「さて、私はしばらくここを調査しモルドレッドとパーシヴァルの死亡報告をしなければいけないが、君はどうするんだ?シュラハルトよ。村に帰ると言うなら送って行くが」
どうする?と聞かれ俺は答える事ができなかった。村に帰る気も無いし、ここに残る気も無いし、何処かへ行く気も無い。今は何もしたく無かった。
(・・・何で、この能力は今になって役に立たないんだよ)
声に出さずに言う
(人一人の命を簡単に奪う程協力なクセになんで人を傷つけることしかでき無い能力なんだよ)
後悔するタイミングが遅いと知りつつも
(なんで、目の前の敵を傷つける事しか・・・)
と言いかけ俺は何かが引っかかった。
(目の前の敵を傷つける事しかできない?)
それだ。確かにこの能力は15cm以内にいる者を敵が敵で無い限りは効果は無いが、先程、パーシヴァルを倒す寸前、俺の身体は確かに回復した。顔半分と腕とそして足がただの炭であろうとも回復した。
(・・・敵にしか効果が無いんじゃ・・無いのか?)
敵にしか効果が無いんじゃ、俺の身体は回復しないはずだ。
(もしかして・・・敵と認識していればあとは何でもアリ・・なのか?)
我ながら早くその結論にたどり着いたと思った。
(俺がさっき考えたような効果がチートの実の効果だとしたら、ミカヤ達は生き返るかも知れないでも・・・)
本当にそれで良いのか?と言う思考が浮かび上がって来る。命をそう簡単に扱って良いのだろうか?もしそれを実行してしまうと後々、チートで生き返らせれば良いやと言う思考が生まれそうで俺は正直言うと怖い。先程まで命を簡単に扱うパーシヴァルが許せなくて戦っていたのだ。その戦いの結末がそんな命を軽く扱うような事で良いのか?と言う自分がチートでミカヤ達を生き返らせたいと言う自分を邪魔する。
(・・確かに、命を軽く扱うのと同じかも知れないな・・・俺の考えたのは)
しかしだ。俺は、モルドレッド先生やカルゴ、フェーラル達、そしてミカヤをこんなことで失うのは嫌だ。この世界に来て得た大切な人達を失いたく無い。
(・・・なら)
俺は立ち上がり、パーシヴァルの死骸の前に立つ。
そして
「我が領域に立ち入りし敵はこの戦いで死んでいった者達と共に蘇生する」
(なら・・・俺は・・・二度と仲間を失わない!!何があっても!)
俺は自分の中に決して揺るがぬ・・いや・・決して揺らいではいけない誓いを立てた。




