九話 自覚
すぐそばの地面から噴き出した溶岩に俺の、マジか!が頭の中で五回程炸裂していた。まあ、確かにカルゴの斧による地割れにもビックリしたが、まだあっちの方がリアリティはあった。だって地割れだよ?普通に起きるよ?(見たこと無いけど!)この人はマグマさんですよ!?剣刺しただけで噴火ですよ!?いくら剣と魔法でもこんなチート(俺が言うのもなんだが)は無しだろう!?呪文的なものでもRPGとかでお決まりの詠唱が必要でしょうがっ!と一人頭の中で愉快になってる俺の肩を叩く共闘者が一人。
「アンタはライカを連れて逃げなさい。コイツらはアタシが・・・!」
フェーラルがパーシヴァルとその手下達を睨みつけながら言う。ライカとは俺が抱えているこのコボルトの女の子の事だろう。隣で溶岩が噴き出したりしたのにまだ気を失っている。フェーラルが自分の仲間達を傷つけられて、傷つけたヤツ等は仲間である自分が倒す。と復讐に燃えているのは分かるが・・・
「いや・・俺も戦いますぜぃ。いくらアンタと言えども、・・・あの金髪イケメン野郎は強過ぎますぜぃ。」
「何言ってんのよ、アンタはライカを抱えてるじゃない。そんな状態で戦えるの?」
ぐっ、と俺の言葉が詰まる。人を抱えている俺は足手まといにしかならない。とフェーラルはそう言いたいのだろう。実際そうなのだから。チートを除けば俺は剣を握って2年の12歳のガキだ。
「だからって、あの金髪イケメン野郎は・・・」
「ハッハッハ!コボルトの娘が一匹と生意気なガキが一人か、君達一匹と一人で何ができるんだい?ええ!?」
俺の言葉を遮るように言う金髪イケメン野郎ことパーシヴァル。彼は毒々しく輝く赤色のロングソード、大噴煙の剣をヒュンヒュンと振りながらこちらへ向かって来る。
「さて、斬られて死にたいか、焼かれて死にたいか、どっちだ?ガキと獣。」
ニヤニヤと笑い更に近づいて来るパーシヴァル。整った顔に殺意を浮かばせ近づいて来る姿はマジの殺人鬼みたいだ。・・・実際そうなのかも知れないが
「・・・殺す事前提ですかぃ・・・あのイケメン野郎」
「当たり前でしょう・・・こんな事するヤツらなんてみんなキチガイばっかよ」
「くく・・キチガイか・・・君達のような自分の主観だけで物事を判断するガキや獣には分からないかもしれないが、コボルトを狩る事は法で禁止されていないんだよ?なら幾らでもやって良いと言う事では無いのかな?」
「んなワケ無いでしょうが!アンタ・・・狩られる側の気持ちになった事があるの!?」
「おいおい・・野蛮な獣だな、法で禁止されていないんだ。ちゃんと理解したまえよ。それともアレかな?獣は僕の言う事が理解できないのかな?ククッ、これだから嫌だよ獣って・・」
「黙れ!なんでアンタら人間は自分の利益のためにそこまで非情になれるんだ!」
フェーラルの叫びに耳を傾けようともしないパーシヴァル。その光景は俺にとって怒りを生み出す原因にしかならない。この世界はここまで汚れたヤツがいるのかと。ファンタジーなんて思っていた俺に対してこの光景を見た俺は嫌悪を覚える。
「獣が僕に対して説教か・・・身の程を知りたまえ。」
明らかに嫌そうな顔を作り、剣を構えるパーシヴァル。しかし、そんな事も気にせず感情を剥き出しにして叫び続けるフェーラル。
「五月蝿い!なんで・・・なんでアンタらはそこまで傲慢な・・・・・ッ!」
「・・・・・ッ!?」
「クククッ、クククク、アッハッハッハッハッ!獣が!貴様にピッタリだ!」
一瞬だったのだ。そしてあまりにも急だった。フェーラルの言葉が途中で途切れたと思ったら隣でマグマが噴出し、急いで跳び退くとそこにはそう、犬の耳を付けた人型の炭が転がっていたのだ。
「――――――ッ!」
言葉が出ない。衝撃でしかない。生まれてこの方死体なんて見たことが無い俺にとってその光景はあまりにも衝撃的だったらしく見た瞬間何がどうなったのか、俺の口の中いっぱいに血の味が広がる。
「ガキめ・・身の程を知ったか?君は死を目前にして立ち向かっては行けるが、強大なこの力を前には何もできない。その証拠に、君は共闘者である獣を失ったではないか。」
パーシヴァルは俺の隣に転がっているフェーラルだった炭を足蹴にし顔面を踏み潰す。バリッと言う音がして、砕けた顔面からは黒い汁のような物がドロリと垂れて来て、異臭が漂う。俺は思わず「うっ」と嗚咽を漏らし、口と鼻を抑えてしまう。
「あぁーあ、なんだこの汚い汁は・・やっぱり遊びで得体の知れない物を踏むんじゃないな」
パーシヴァルが軽く剣を地面に刺すとフェーラルだった炭が発火する。黒い煙が辺りを漂い、先程の異臭とは比べ物にならないくらいの異臭が漂う。
「―――――――ッ!――――――!!」
俺の精神をもう崩壊寸前だった。ショックのあまり言葉も出せず、ライカを抱えたまま地面にへたれこんでいた。ただのヘタレと化していた。何が「死んでも転生できると分かってる状況でくらい命を張らないと」だ。口だけじゃないか、今思い返すと俺はチートを持っているから、軽く生きて来られたのだ。死にそうになってもチートを使えば大丈夫と。正直、俺は死を舐めていたのだ。しかし、今
のように死が間近になるとただのヘタレのガキと化す。おいおい、マジかよここでも殺されて死亡か。
「さて、ガキ。君も死ね。」
冷たい声で言うパーシヴァル。大噴煙の剣には稲妻が迸っている。もう終わりか、ここでの俺の人生は。内心で覚悟を決めていたのか、俺の身体は抵抗しようとはしなかった。こう言うときには怯えて動けない状況でも、自分の身を守るたま、足掻くものだと思ったが。
「まあ、人を殺すのは法に反するが、証人もいない中で消し炭にしてやればなんとかなるだろう。それと売り物は・・まぁ、他の獣の死体を剥製にでもしてやれば生きているのよりは価値は下がるが、まあ、仕方が無いと。」
普通だったら寒気がするようなパーシヴァルの言葉を聞いても俺は何も感じない。そこまでヘタレか俺。逃げて怯えて死ぬより自分から抵抗もしないでおとなしく死んだ方が良いと。そして助けるつもりだったライカまでも自分のヘタレなせいで殺すと。最低だな。なんて思うが俺は動けない。これは罰かチートがあるからと死を舐めて生きてきた俺への罰なのか。なら仕方が無いかもしれない。俺は思わずフッと笑ってしまう。
「おっとガキ、覚悟を決めたかい?じゃあ、死にたまえ。」
地面に向かって振り下ろされる大噴煙の剣。切っ先が地面に触れた瞬間俺は消し炭と化す。無様な死に方だな、俺。罰だから受け入れろ。ヘタレ野郎が。
自分で自分を罵倒し、完全に死を受け入れていた俺。あとはマグマに焼かれるのを待つだけであった。しかし、いつまで経っても死を舐め続けたガキへの洗礼は来ない。さすがヘタレと言うべきか、恐る恐る目を開ける俺。
「が・・・・っ」
見えたのは何者かと鍔迫り合いをしているパーシヴァル。目を血走らせ耐えているように見える事から劣勢な事は確かだ。そしてパーシヴァルと競り合っている者。それは
「なっ!!」
俺は目を見開いて驚いた。出なかった声も驚きのあまり出てしまったようだ。パーシヴァルと競り合っていたのは金髪の少女だった。いつもはツインテールの髪を運動の時は邪魔になるからと言ういかにも真面目な理由で後ろに纏めている学級委員女。ミカヤだった。ミカヤの手に握られているのはミカヤがいつも模擬戦のとき使っている直刃直剣(木)ではなく、モノホンの直刃直剣だった。そして俺はその直刃直剣に見覚えがあった。それはいつもモルドレッド先生が使っていたなんの変哲も無い剣。
「クッ・・・なんだ娘ェ・・・何故邪魔をする!」
怒りを剥き出した声でパーシヴァルが力を加える。その力に耐え切れなかったのかミカヤが押され気味になる。しかし。
「ミカヤちゃんご苦労!」
聞きなれた優しく、低い声と共に飛んで来た突風が。パーシヴァルを吹き飛ばした。
「ふう、間に合ってよかったよ。立てるかい?シュラ坊。」
俺が後ろを振り向くと不適に笑うモルドレッド先生の姿があった。




