八話 はい出たKY!
俺が走り着く頃にはもう遅かったようだ。「ようだ」と言う曖昧な表現なのは俺がイマイチ状況を飲み込めていないからである。しかし、この状況は誰が見ても手遅れと思うだろう。燃え盛る簡素な藁の家に血を流して倒れている犬耳の人間達。そして一人の犬耳娘を連れ去ろうとしている男達。彼等のリーダーと思われる金髪の男の腰には毒々しい赤色の直刃直剣が下げられている。
「おいおい・・・、なんですかぃ?コレ」
「・・・・いつもの事よ。」
俺の問いかけに、何かを抑え込んでいるような声でフェーラルが答える。
「いつもって?どういう事ですかぃ?」
フェーラルは俺が続けて言った問いに答えるかどうか、しばらく悩んだらしいが、フェーラルは静かな声で言った。
「人間が・・・アタシ達コボルトをさらいに来るのよ・・・」
そこで一回言葉を区切って続けるフェーラル
「王都にある競売場の品物として出されるのよ・・・・・奴隷用として」
奴隷と言うキーワードは俺に痛みと言って良いくらいのショックを与えた。この世界に来て・・・俺は村から一歩も出た事が無く、その村の中でも特に何の事無く育ったものだから、俺がこの世界に対して向けていたのは「割と平和」と言うクソ甘ったれた考えだったのだ。俺はこの世界に来て初めて自分の甘い考えに嫌悪した。
「更に女のコボルトは金持ち共に人気が高いようよ、鑑賞用とか色々な使い方があるらしいからね」
「もしかしていつものように連れ去られてるのですかぃ!?コボルト達は」
「そんなワケないじゃない・・・コボルトは人間よりも運動能力が優れているから負けるハズ無い・・いつものように撃退して来たわよ・・・」
「・・・じゃあ、コレはどう説明するんですかぃ?」
俺がフェーラルの言葉に矛盾しているこの惨劇を指すとフェーラルが叫んだ。
「そんな事アタシが知りたいわよ!なんで、みんながこんな目に遭ってるか!」
俺がこんな状況にいるハメになったのはついさっきの事だ。
俺がフェーラルにセコイ勝ちをしてフェーラルがなんかキレて俺に襲い掛かって来て俺が逃げ惑って10分くらいしたとき、俺を夢中で追い駆けていやがったフェーラルの動きが止まり、犬耳をピクピクさせながら「集落の方だ!」と言って俺を連れて駆け出したのだ。おかげでこの場にいたらめっちゃくちゃ頼りになるカルゴもいない。
俺はここまでの経緯を思い出した後、フェーラルに問う。
「さて、どうするんですかぃ?フェーラル」
「決まってるでしょう、アイツらを倒すのよ」
「そう言うと思っていましたぜぃ!」
俺が言うとフェーラルが俺を驚いたような目で見る。え、俺なんかしました?となる俺。別に俺はあの悪人達をヤッツけて女の子コボルトを助けようとしているだけなんだが。別に変な事は考えていないよ?純粋にそう思っていますぞ!疑わしい言い方に聞こえるかも知れませんが本当ですぜぃ!
「なんで・・・アンタが戦うのよ・・・」
「え・・・駄目か?」
「アンタは関係無いじゃない!何の関係も無いアンタが何で戦うの!?」
「理由を言う前にさ、一つツッコみたいんだけど・・・」
「何よ・・・」
「何で俺を連れて来たんだ?」
「そんな事、不可抗力よ」
割とバッサリ斬り落とされた俺の指摘。こっから上手い事響く言葉を作ろうと思ったのになぁ。
「まあ、理由を言うと『死んでも転生できるって分かってる状態でぐらい命を張らないと』、って言う俺の自分勝手な考えですぜぃ。」
「確かにアンタの言ってる事は正しいかも知れないけど・・・惨殺されたりするのは怖くないの!?しかも、殺されるとは限らないし、アンタが奴隷になる確率だってあるのよ!?」
俺はそんなフェーラルの-思考言葉連打にハァッ、と溜め息を吐き言ってやった。
「うるさいなー!良いか!?この-思考獣属性オタク野郎が!俺が折角ヒロイックにキメようとしてるんだから俺の意思くらい尊重しやがれ!」
なんか明らかに逆ギレだ。うん。格好良い事言おうとしたけど俺の性格では無理だったようだ。と言うか、なんか今日、逆ギレ2回目だ。人生初だな。1日に二回以上逆ギレしたのって。
「・・・アタシは獣属性オタクじゃ無いわよ。勘違いしないでよ」
フェーラルは言うと俺の方を向き再び口を開く。
「アンタがどうしてもって言うから言ってあげるわ・・・・お願い、アイツらを倒すに協力して!」
おっとツンデレ!?なんて思ったが、決して口には出さない。まず殺される。言ったら。マジで。ボッコボコだ。
「あい、オーケー!多少気持ちが篭もっていなかった気がしますが分かりましたぜぃ!じゃ、パッパ悪人退治と行きますか。」
と俺は言って
おっしゃああ!と俺は集落の入り口から悪人達のいる方へダッシュで突っ込んで行く。勿論何も考えていない。考えているのは「助ける」と「やっつける」だけだ。とりあえず「助ける」の方を優先しようと思う。2年前のカルゴの時のようにあの女の子を人質としてとられたら厄介だ。勿論だがチートは使う。容赦無く使う。非常事態には仕方無いよね?
まず狙うは女の子を担いでいるゴツい男。幸い悪人5人全員余所見しているため、楽に俺のゾーンに入れてやる事ができた。そして俺は即、言う。
「我が領域に立ち入り敵は担いでる者を優しく俺に渡した後、仲間にダッシュで突っ込む!」
割とムリヤリな気がするが・・・と思っていたが、ゴツい男は俺にコボルトの女の子をホイッ優しく渡した後、余所見をしていた他4人に頭から突っ込んだ。大男さんの突進はかなりの威力だったらしく、リーダーをと思われる男を除く他3人をドミノみたいに倒した。
「ワオ、いつ見てもアホみたいだな」
ゴツ男から取り返した女の子を抱き抱えながら言うとリーダーと思われる金髪の男がこちらを向いて言った。
「なんだ?キミは。見た所、人間のようだが邪魔をするようなら死ぬと思いたまえ」
上から目線キャラかコイツ。確かにエリート生まれだよって顔してるもんな。コイツ。整った金髪さんに白い歯にイケメンと。キレイ過ぎて逆に気持ち悪い。
「俺の事ですかぃ?ヒーロー気取りのガキですぜぃ!」
「ふむ、キミはこの僕、パーシヴァルがやっている事が悪人だと。そう言いたいんだね?」
アッハッハッ!とパーシヴァルと名乗った男は笑い、言葉を続ける。
「確かに!何も知らない子供から見れば僕のしてる事は悪かも知れないが!でもねぇ、基本的にやっている事は同じなんだよ?君達の食っている肉だって豚とか動物が犠牲になっているだろう?基本同じだろう市場に売っている肉も、競売場で売られるコボルトの娘も!」
「いやいや、残念ですな。俺は生まれて肉なんて食べた事もありませんしウチの村に市場なんてありませんよ。小悪党さん!」
マジである。俺はこの世界に来て野菜とパンくらいしか食べていない。そんな食生活でよく12年病気無く生きてこれたなと思っている。なんとなく俺が思っただけだが、きっとアレだろう。この世界方々はみんな草食なのだ。きっと。
「クククッ・・・、小悪党だと?どうやらキミは身の程を知らないらしいね。」
シュランッ!と言う音と共にパーシヴァルは赤い色の剣を抜く。やはり、雑魚山賊や、ゴツ男の突進で倒れた雑魚悪党が持っているようなショボい剣とは違い、ヤケに棘々しい赤黒グリップに炎の形を鉄で作り、それを剣にしたような刀身の直刃直剣である。
「この神器級武器・・・大噴煙の剣の業火をよーく見たまえ、無知なる少年よ」
神器級武器だぁ!?意味が分からん中2?なんだそれ?なんかネーミングがカルゴの持ってる大地変動の斧に似てるな、よく見るとなんかカッコ良いし、あの剣。
なんて事を考えている間に、剣の切っ先を下に向け、腕を高く上げているパーシヴァルの腕に赤い稲妻のようなものがバチバチと音を立てている。今日、カルゴがフェーラルを呼ぶときに使ったような大地変動呪文とかいうのみたいに。
「カァァッ!」
パーシヴァルは俺が丁度良い所まで思い出したあたりで剣を地面に思いっきり突き刺した。その刹那、赤い稲妻が剣が埋まっている地面から放出され、当たりを赤く照らす。そして、赤い稲妻と呼応するように地響きが起きる。
抱えてる女の子を落とさないようバランスをとりながら両足立ちをしている俺のすぐ隣の地面がバキバキッと罅割れ、俺がそれに気付いた瞬間ドゴォッ!と言う轟音と共に火柱が噴出したのだ。
「・・・マジか」
この世界に来てから何十回目か分からないこのマジでか・・・。と言う台詞。
あの時・・・カルゴとの戦闘のときは、アイツが油断していただけであってカルゴが弱かったワケじゃないが、今回のコイツは油断もクソもなく子供相手にマジである。
・・・・・マジでヤバイかも知れない