七話 ルールを学んでいざバトル
よし、大体分かったぞ。フェーラルの声が平坦で機械みたいな声で何かの本の文章をそのままコピーしたように約20分程説明してくれた。ご苦労さんですっ!
「・・・なんだったのよ、今の」
「まぁ、気にしない方がいいですぜぃ。さっさと戦闘再開と行きましょうぜ」
ぜぇぜぇ、と息を漏らしながら問いかけるフェーラルを華麗にスルーして穴から這い出ようとする俺。フェーラルは相当説明するのに疲労したらしい。・・・らしいと言うか、まず疲労しないヤツはいないと思う。日常的に例えるとフェーラルはスポーツの本格的なルールブックを休まずに音読をしたのだ。更に自分の意思にないのに勝手に舌が動き出したワケなので頭が混乱していたりもするのだろう。
「よいしょっ!」
腕の力でフェーラルがブチ空けやがった穴から這い出る。ふぅ、と息を吐き空を見上げてみると真っ暗・・・と言うワケでもないが、高い木々が影となっているためもう十分真っ暗だ。戦闘に集中していて考えていなかったが、俺達が山篭りを開始してから約4時間あたりが経過しているのだ。(2時間彷徨い1時間半戦闘でその後20分くらい説明により。)ちなみに村を出たのは午後2時だった。この世界に時計は無いが、生まれてすぐに体内時計を仕込む事によって時間をなんとかしているらしい。
「シュラハルト君、あまり君の戦いに口を挟むなとモルドレッドさんから釘を刺されてましたが、これだけは言わせてもらいますよ。逃げているだけじゃ勝てませんよ」
もうほとんど空気状態だったカルゴが言う。
「安心したまえ、これからもうガンガン攻めてやりますぜぃ」
「フフッ、そうですか。では期待して見ているとしますか。」
口に手を当てて微笑するカルゴ。どんな恐ろしい反応が返って来る事が予想できるので口に出せないが、そのザ・ノーキン外見で不適な紳士さんキャラはやめてほしい。マジで。寒気がする。と言うかこれ思うの何度目だ。
「さーて、戦闘再開よっ!」
さっきまで息を上げていたがもう回復したらしいフェーラルが穴から飛び出て来る。
「・・・獣属性さんは元気なのですな」
「・・・っさい!!」
言った瞬間、棍棒を俺に向かって振るうフェーラル。しかし、馴れてしまった俺はバックステップで避ける。次言ったらルール無視して殺すからね!と叫んでるフェーラル。どんだけ気にしてるんだ。あの獣っ娘が。
「さてさて、戦闘再開だぜぃ。フェーラル!何度も言うけど殺す気で来てOKですぜぃ!」
「折角、殺さないであげようと思ったのになー、ま、それで強い敵と戦えるならいいんだけど・・ねっ!」
まさかの言葉溜めからの不意打ちで来るとは。しかもコイツが転生者だと分かって俺は気付いたがキャラを完全に作ってやがるな。元気系コンバットガールのキャラを。実際では家でネコミミ着けて、キャピキャピしてやがる痛い娘だったに違い無いクセに!ん?待て、転生って頼めば性転換とかできたのか?んー、無いよな。無い。無いに決まってる。もしそうだったら俺はこの世界で出会う転生者の女性全てを信じられなくなるぞ。オッサンが女性に転生してまーす☆なんて考えたくないぞ。ヤダぞ。これ考えた俺もヤダぞ・・・・って言うか棍棒がっ!
「せいっ!」
俺は振られた棍棒を少し詰まった掛け声と共にヒョイと避け、反撃をするべく俺のから一番近くにあるフェーラルの身体の部位・・・棍棒を振って伸ばしっぱなしになっている腕を狙い、木曲刀を振り下ろす。ヒュッと子気味の良い音で空気を切り裂き、振り下ろされる木曲刀。
「っとアブないな!」
しかし、そう簡単に当たるハズもなくシュピッ!と完全なる超反射で手を引っ込めて俺の一撃を躱すと同時にバク宙で俺から距離を置くフェーラル。
「今のは4mくらい跳んだか」と呟く俺。さぅきフェーラルにむりやり説明させたルールによると試合は6×6mの長方形型の石畳の上で行うらしい。そこから出れば場外出たから失格!ってなるようだ。基本剣を振り合うだけなので、そんなに広さはいらないからとのことらしい。
「おっしゃ!次はこっちから攻めますぜぃ!」
俺はいつも村での模擬戦の時によくやっていた低く構えて突進攻撃をする。別にただ短単に突っ込んでるワケじゃない。俺はルールを聞いて頭の中で色々考えてこの戦法が良いな。と思い、使っている。2回相手に剣を当てれば勝ち。とのルールらしいのでまずは1本を速攻で取るのが良い。と考えた。
「はんっ!ただ闇雲に突っ込んでるだけじゃない!今までの経緯からなんも学習してないの!?」
俺がフェーラルに相当近づいた時、彼女はそう言い棍棒を俺の頭上に向かって振り下ろす。
「残念デスガ、アナタノ攻撃ハ見切リマシター」
「何よそのキャラ!」
俺のボケにツッコんでくれたフェーラルの声にグッ!と親指を突き出して答えたあと、サッと横に身を躱す。
「フッ・・・」
「ムカつくわねそのドヤ顔!」
「他所見していいのかな!?」
「えっ!?」
フェーラルが俺の声に反応したと同時に俺は棍棒振り下ろしたままの体制だったフェーラルの手首を木曲刀でポンと叩く。
「フッ・・・」
精一杯のドヤ顔で俺はフェーラルを見てやったら、フェーラルが怒りしか無いような顔で俺の手首の辺りを狙って棍棒を振って来たのでサッと手を引っ込めたら俺の木曲刀が高く宙に弾き飛ばされた。
「シュラハルト君、一点先取ですね。」
カルゴが言う。コイツに審判任せれば良かったな、と俺は思った。試合では審判がいるらしいのでその辺も本格的にやりたかった。たかったと言うのはもうすでに決着が着いているからである。
「さあ、アンタ元に位置に着きなさい。一本取ったらの位置ってルールでしょ。」
「いやおや、違う違う。実際には一本取って、そこから十秒以上お互い剣を握ったまま、だったらだろう。」
「・・・って、えぇ!?」
「そうだぜぃ、今十秒以上経っているけども俺は剣を握っていない!でこのまま俺が剣をキャッチすれば元の場所だし、しなければ俺は失格だけど・・・。」
ちなみに自分が何も持っていない状態になったら失格と言うルールがある。
「剣の落下に関してのルールはもう一つあっただろう。」
「・・・え?」
「そう言う事だよ。」
俺の言葉を同時にフェーラルの肩に落下して来た俺の木曲刀がヒットする。
「はい、俺の勝ち。」
「え、ちょ、ちょっと!」
「アレだろう?剣の落下で一本とっちゃダメなんて聞いてないし、一本取って元の位置に戻るまでの十秒間に一本取ったら無効であるなんて聞いてないし、最も俺はその間に剣は握ってなかったからね。俺は二本取った事になるんですぜぃ!」
ビシッと指をさして言ってやった。
「・・・・・まぁ、そう言う事になるわね・・。」
しばらく納得してないような顔をしていたが、認めたようだ。
「まあ、シュラハルト君の戦い方は戦う者としてどうかと戦士として思いますが、他の参加者達と経験で劣る分、技能で挑むのは良い選択かもしれませんね。」
カルゴが思う程俺は考えていなかったが、我ながら良い方法だと思った。曲刀の性質を生かした不意打ちからの投擲フィニッシュは。
「さて、カルゴはん。俺はこの通り一日でコボルトを負かしたんだけど・・・。どうすんの?」
俺が聞くとカルゴはくすっと笑い、言った。
「当のコボルトさんはまだ負けてるように見えませんが?」
「へ?」と俺が後ろを向くと殺意しか無いような目で俺を睨みつけてよく分からん闘気を発しているフェーラルがいた。これが漫画ならゴゴゴゴッ!と言う効果音があるだろうと言うくらいに。
「ほら、構えなさい?もう一戦よ。セコ野郎」
「いやいや、アナタ様はさっき負けを認めたでショウ?」
「異論は認めないッ!覚悟!」
「コボルトは割と穏便だって聞いてたのにな・・・・って、ぎゃあああ!」
鬼の形相で遅い掛かって来るフェーラルを前に俺の頭の中にはこんなのが浮かんでいた。
結論:勝負は正々堂々と勝った方が良いね☆ by俺