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渡り世の詭弁者  作者: 生意気ナポレオン
序章:いわゆる発端編
7/16

第七話:交渉成立

お待たせしました、なんてレベルじゃなくて申し訳ない!<(_ _)>


「神々のクーデターが意味する事は……数多の世界崩壊……!?」

 ゆっくりと紡がれた言葉がか細く響く、その呟きに返答する者はいない、しかし、その沈黙こそが答え。

 そう、考えてみれば簡単な事なのだ。何度もやった事だが、ここでまた神を人間に置き換えてみよう。

 人間は未だに各地で戦争を引き起こしている、塹壕に身を屈め、空襲を恐れ、引き金を引く。当然、その中にペンを持つ者も、物を売る物も、給料の少なさを嘆くものもいない。日常における"仕事"は戦争状態においては"戦闘"に置き換わるのだ。それと同じで神々が戦争をしている間本来の仕事である"世界の管理"も"戦闘"に置き換わる、戦場で電卓を叩いてる馬鹿は居ない、そんな状態が長く続けば、一人の神の内一つは世界が崩壊するだろう、上位の神であればあるほど管理する世界が増えるとしたらさらに多いかもしれない。その事を御神は憂いていたのだ。

「そこまで分ったら御神に言う事があるだろ、ほら。俺も一緒に謝ってあげるから、せーの」

「ごめんなさい!」「申し訳ありませんでした!」

 お辞儀の角度は仰角四十五度の最敬礼、謝罪を込めたものとしてはベストに近いだろう、しかしっ!

「ごめんなさいだろ! 普通!」「って何処のお母さんなのじゃ!」

「二人とも急に崩れましたね」

 ごもっともな突っ込み頂きました。いや、ずっと気を張り続けるのも疲れますって。

「まったく……それで、『この事件には探偵が』云々行っておったがあれはどういう意味じゃ」

「ああ、それはだな、簡単な話、今回の事件で犯神は"証拠を残していない"って言う事さ」

「なっ……んで分かるのじゃ?」

 驚こうとした自分を無理やり抑え、冷静を装った上での『なんでわかるのじゃ』くそ、少し可愛いと思ってしまった。

「"源神"の超強大な力を持ってるなら証拠位、余裕で見つけ出させるだろ。証拠ならこんな面倒臭い事をせず、どこそこに何があるから持って来いって言うだけで良いだろうが。それをしないっつう事は証拠が無いって事だ」

「ぐぬぬ……」

「だとしたら、犯神をひっ捕らえるには"証拠"じゃなくて"証言"が必要だ。人間と違って証拠は残さずとも、防人を見る限り人間と同じで揺さぶりは効く、証言を絞り出すのは不可能では無い」

 だからこそ話術に長けた人間を選抜する腕試しならぬ口試しをした訳だろう。

「な、成程。って儂を見る限りとは……」

「以上仮説終わり、てんではずれだったら言ってくれ、どこかに穴掘るから」

 俺が入るための。

「話を……」

「ほぼ全問正解、ここまで言い当てられると気味が悪いぐらいですよ」

「ほぼ? どこが違うんだ」

「もう良い……」

 悪いな、防人、おじちゃん達ちょっとまじめな話してるから。

「力を見せつけるようで嫌なのですが……仮に神全員が私に挑んできた場合、私は一日も掛けず返り討ちにすることが可能です」

「「え゛っ?」」

 おいおい、凄すぎるだろ"源神"、俺が得意げにベラベラ喋ってたのが馬鹿みたい、いや、馬鹿だ、馬鹿! この馬鹿! あー穴掘ろう、スコップ何処だ?

「あーでも安心してください『正解だ』なんて言っていたのもあながち間違いじゃないんですから神全員を滅ぼしたら、数多の世界崩壊は免れません、全ての世界を一人で管理するなんて出来ませんからね」

「え、ええーっと、茂」

「なんだ?」

「証言を集めると言ったが、どうやってじゃ? 全部の神に聞き込みなどしておったらキリが無いぞ?」

 スケールの大きさに圧倒されたのか、聞かなかった事にして防人が話を進める、まぁ俺としてもそっちの方が都合が良い。

「まぁそこら辺は御神様に土下座でも何でもして、頼み込んで何処に行けばいいか指示してもらうしかないな」

 若干ずるい様な気もするが、これは推理小説でもサスペンスでも無い、どちらかと言えば魔王を倒すオーソドックスなファンタジーなのだ、決してお使いなどと言うこと無かれ。

「まぁ指示自体はするつもりでしたが……茂君、急に様付けし始めましたね」

「何を言ってるんですか御神、最初から付けてたじゃないですか」

「今外れてますよ」

「わざとですよ、御神様」

「……言っておきますけど、貴方が今そこまで脅えずに話せているのは能力のお陰ですからね?」

「……本当か?」

「本当です」

 そうだったのか、近くに女性が居ても大丈夫なのも、初対面の相手に此処まで言えるのも能力のお陰なのか……そこはかとなく悲しくなるな。

「あっ安心してください、その思考速度は自前のものみたいですから」

「これまで能力だったら、俺の存在自体が能力なんじゃないかと疑う所だよ」

「おい、茂。話がまた逸れておるぞ」

 このメンバーというか、俺と御神が話してると脱線が多くてしょうがない。なんかテンポがあってるんだよなー。

「それじゃあ、犯神を追ってくれるという事で良いのですね?」

 急に真面目になったな、だがまぁここまで強引に行かないとすぐに脱線するからな。

「元よりそれ位しか選択肢が無いしな」「元よりそれ以外の選択肢はありません」

 被ったな。まぁここで「真似をするな!」などと言うベタな事はしないと言おうとしたらいう奴がいたよちくしょう。

「見返りは俺の世界の復活。まぁあんたに掛かれば無理矢理でも言う事を聞かせる事は出来るんだろうけどな」

「ははは、そんな事はしませんよ。分りましたその条件を飲みましょう。それじゃあ、防人は何がいいですか?」

「わ、私は別に……」

「ふむ、茂君だけに報償を与えるのも不公平ですし……そうですね、貴女は神への復帰で如何でしょうか?」

「あ、ありがとうございます!」

「それじゃあ、二人ともこちらへ」

 促され、御神に近寄ると御神は俺達の頭に手を翳し、何やら呟き始める。


[我は慈しもう、汝らの心を]

 力が放たれる、それは全ての生き物を優しく抱擁する森を思わせる力。その力の前で空間は只々穏やかに過ぎ去っていく。

[我は敬おう、汝らの志を]

 力は質を変え、今度は決して揺るがぬ大木を思わせる力となる。その力は決して時間などでは衰えない。

[我は信じよう、汝らの可能性を]

 力は微小となり、酷く頼りが無い。しかし、その力はどの力よりも強く光を放ち、ありとあらゆる概念を超えようとしていた。

["神にも見えざる種"]

 力は根源たる神から離れ、完全なる人と不完全なる神へ溶け込む。力は体の一部であったかのように自然に馴染み、痛みも違和感も無く、只漠然と力の残滓を感じる。

 

「なんでだ……?」

 あれほどまでに感じていた力が殆ど感じ取れなくなっている、何かが変わった気がするのだが何も変わってるとは思えないと言うのは矛盾だろうか?

「ふー……久しぶりにやりましたから疲れました」

「おい、御神。今のは何なんだ?」

「"神にも見えざる種"。人を神へと変える、御神様にしか出来ない源神様の秘術じゃ」

 御神に尋ねたのにどうしてか防人がこれみよがしのドヤ顔で答えてくる、まぁまたも殆ど会話に入り込めなかったからな、解説位はやらせてやるか。

「っても神になった実感が無いんだが、お前から力を譲ってもらった時もそうだったけど」

「それはそうじゃ。この術は種と言う名の通り、本人の成長と共に育ち、花開くことで神へとなれるのじゃからな」

 成長って何を基準に言ってるんだよ。あれか、経験値か? EXPなのか?

「まぁ成長と言っても、本当は時間経過で開くようになっているのですがね」

「そ、そうなのですか?」

 御神の言葉に防人の体勢が僅かに崩れる、内面が外面に出やすぎだろ、やっぱりこいつは家で謹慎させておいた方が良いかもしれない。 まぁドヤ顔してたぶん、これは恥ずかしいよな。俺も中学生の頃にこれ以上ないドヤ顔をしたことがあるが、あれは今でも黒歴史だ。

「そうですよ、成長なんてどうやって感じ取るのか私自身さっぱり分りませんから。経験値なんてものが目に見えれば、別なんですけどね」

 おい御神、俺の思った事と若干ダブってるぞ。

「それじゃあ、もう行っていいか? もう話すことも無いだろ」

「ああ、ちょっと待ってください。茂君、貴方にはもう一つ貸しておくものがあります」

「貸しておくもの?」

「ええ、これです」

 そう言って御神は自分の左薬指から指輪を取り、こちらの手に乗せる。いやいやこれって所謂エンゲージリング、結婚指輪じゃないですか、なんで俺に渡してるんだ? この人は、いや、この神は。

「それを薬指に付けてください。いやいや、違います右手じゃなくて左手に」

「なんだ? 遠回しに俺にプロポーズしてるのか? もしそうなら、残念ながら俺はお前の想いには答えられないんだが」

「違いますよ。まぁとにかく付けてください、今回絶対に必要になる物なんですから」

 そこまで言われたら止むを得ない、指輪を手に取りゆっくりと左の薬指につける。

「なんだ?!」

 指に付けた途端、眩く発光しながら指輪は消え去り、代わりに茨で出来た指輪が焼印の如く肌に焼き付いていた。

「おい、これは何だ?」

「"求めよ、さらば束縛せん(エキスパンション・マリッジブルー)"とでも言いましょうかね、貴方に合せるなら」

 合せんでいい、合せんで! 恥ずかしくて顔から火が出そうだ。くそ、誰だ"偽を見て……"とか言いだした奴は。

「大丈夫ですよ、今も貴方は能力発動中で顔には出てませんから」

「さらっと心読むの止めろ。まぁいいところで、その"求めよ、さらば束縛せん"とかも気になるけど、さっきも言ってた俺の発動中の能力ってなんだ?」

「絶対に表情に出さない、幾ら動揺しようと絶対に行動に出ない、苦手意識の希薄化ざっとそんな感じの能力です。言っておいてなんですが、また地味で無駄に説明が長い能力ですね」

「喧しい。それじゃあ、ついでに名前付けとくか」

 いや、名前付けとかないと面倒臭いからね? 

「"絶対麗怒(アブソリュート・フェイス)"と言うのはどうじゃ? 絶対に表情を崩さない訳じゃし」

「アブソリュートは禁止だ、異論は認めない。うーんと……」

「"不闇顔(ダーク・フェイス)"というのは? 闇に包まれたように表情が見えない、と言う意味で」

「ダークはもっと禁止だ、語感が好きじゃないんだよダークは。そうだな……」

 二つの案を蹴っておきながら中々言い名前が出てこない、大体端的に言えば凄いボーカーフェイスなのだ、捻るのが難し……あっ

「"消無私(ザ・ベスト・ポーカーフェイス)"。うん、これでいこう」

「なんか微妙じゃのう……」

「まぁ本人が納得してるなら良いじゃないですか」

 ネーミングセンスが無いのは自覚している、これの前に思いついたのは"感情消し消しフェイス"だったからな、嘘だ。

「ネーミングセンスが無いのは自覚してるよ、それで"求めよ、さらば束縛せん"の効果ってなんなんだ?」

「簡単な話、一つ願いを叶える代わりに一つ願いを叶えてもらう術ですよ。最も一人の相手に対して一回しか使えませんがね」

「成程、こいつを使って交渉の場を無理やり作れと」

「ええ、いくら私が誘導しても、話してもらえなければ意味が無いですからね。貴方を潰したい神は幾らでもいますから、無茶な条件を貴方に出す事でしょうから……」

「それを達成して代わりに交渉の場を、あわよくば証言をとれって事か」

「そう言う事です。さて、とりあえずは防人の両神の所にでも行って来てください。御両神も心配してらっしゃるでしょうから」

 ? なんとなく引っ掛る、言葉としては不自然では無い気がするのだが……

「ありがとうございます、おい、茂」

 感じた違和感をはっきりとする事が出来ぬまま、防人に手を引かれ入って来た白い扉をくぐらせられる。


◆◇◆◇◆◇


 扉を出て階段を歩き続ける内に、段々と体に異常が起こり始めた。にじみ出る汗、熱くなる顔、固くなる体。これは……

「"消無私"が切れた……!?」

「どうしたんだ? 茂」

 軟らかい手のひら、鈴の鳴るような声、どことなく良い香り。漫画の主人公の様に体に異常をきたすことは無いが、改めて意識してしまったことさらに体が固くなっていくのが分かる。

「落ち着け……! 落ち着け……!」

 此奴にその事が伝わったら非常にヤバい、散々御神の所で苛めたつけがここに来て回ってきた。困った時の神頼み、祈る様に階段の先を眺めるが、ああ無情なるかな、そこには只々階段が続くだけ。大体にしてこういうパターンは……

「御神様の所に行く前と言い、今と言い……さてはお主、女子が苦手じゃな?」

 ばれるのが定番、お約束、しきたりなのだ。そして、ここで『そ、そんなこと無いし!』などと男が明らかに動揺しながら言うのもパターンの一つだ。それじゃあダメだ、だったらどうする!? 

「おい、何とか言ってみい」

 何か新しい事を言わなければ、何か、何か……そうだ! 

 『ああ、だから男が好きなんだ』 この一言で俺は新しい境地を切り開く! 二つの意味で、って駄目だろ! と言うか俺今自分の才能を全力で無駄遣いしてないか?

「ふん、つまらぬのう」

 なんだか考えている内に勝手に飽きられてた、成程、こういう時は無視するのが一番の選択肢だったのか! これはまた一つ成長できた、という事で種発芽しろ。

「今、明らかにほっとしたのう」

「ぎくっ」

「やっぱりか貴様! 御神様の所でよくも散々言ってくれおったな……!」

 態度に出ない様言葉に出してみると言う、俺の新しい試みは無駄に終わる。結論、こういう時は諦めた方が早いけど諦めない事が大事なんだと思った。


◆◇◆◇◆◇


 その後、散々馬鹿にされたりやらなんやらされながらも俺は無事に白い扉の前に居た。扉には表札がかけられ、それぞれ"葺 雄蔵"、"藍野 香美"、"防人 桔梗"と書かれている。

「あれ、全員名字が違うんだな」

「ふん、神の名字はどういう類の神かである程度分類されるようになっておるからの」

「そ、そうなのか」

 こいつの両神が何の神が気になるが、とにもかくにも俺は早く手を放したい、一分一秒一フレートでも早く放したい。

「それじゃあ、開ける……ぞ……」

「何を突っ立ておるのじゃ、只の私の実家じゃ……ぞ……」

 隣で防人が固まっているのが分かる、それはそうだ、俺も諸手を上げてのハンズアップだ。日本語がおかしくなる程に動揺してる、だけど仕様が無いと思うんだ。

 だって、俺達の周りは刃物に銃器、火器に長物、弓矢に兵器、ありとあらゆる武器に囲まれていたんだから。

今回の話で序章終了! やっとこさ終了! ええ、旅立つまでが長過ぎです。

主な原因としては……(活動報告に続く)


と言う訳で、こっちの更新を放棄した訳じゃありません!


ではではー!

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