第六話:テスト
地の文なんてなかった
「み、御神様……?」
僅かに顔に汗を浮かべ、防人が動揺した表情で御神を見る。どうせ何時もはあの薄っぺらい表情しかしていなかったのだろう。
「茂君の言った通り、私は茂君がどれほどの者か見極めようと思って、ここに呼びました。陳腐な考えですいませんね、しかし、私にはどうしても必要だったんですよ、茂君の実力を知ることが」
「それはなんでですか、御神様」
「茂君の引用なってしまいますが、私は傀儡なのですよ、防人、悲しい事にね。そう言う立場上、あまり目立つことをしたらこれな訳で」
首を手刀で斬る動作、まぁつまりはそう言う事なのだろう。
「そ、そんな……」
「だから私には手足が必要だった、私が自由に動かせる手足が、なんて良く聞く話でしょう?」
「ああ、そうだな」
「かといって、その手足が使い物にならないなら意味が無い、むしろ繋がってる分、こちらにまで悪影響が出る可能性がある。だからですよ、茂君の実力を見極めようと思ったのは」
「それで? 俺は御眼鏡にかなったのか?」
「言ったでしょう、とんでもないのが来た、と。嘘を見抜く能力なんて、推理小説に居たらそれこそ犯罪的です」
ハッタリだけどな!
「本当かと思ってちょっと心を覗いてみれば、内心は動揺、焦り、混乱……心は口以上にものを言ってましたよ」
なっ心を読むとかできるのかよ?! っと言っても、相手は神の最高位だ、それ位はできるか。
「けれど、ハッタリをそれらしく見せる話術、"神"を自分に分かり易い"人間"に置き換え、心情から論理を構築する発想、その論理の構築速度、どれをとっても素晴しかった」
なんか……そこまで言われ得ると、不信感が沸いて来るな。
「その反面、堪え性が無いですね、茂君。私は始め、前半に殆ど嘘を吐かず信用を得て、後半に嘘を多分に混ぜて話をして、嘘を見抜けるかどうか試すつもりでした。だけど貴方は、自分に湧き上がる奇妙な違和感、それから来る焦燥感から話を遮り、問い詰めながらも論理を構築する、それ自体は凄いですが無計画にも程があります」
両親からずっと言われてきた欠点を改めて他人に言われるのは気分が良くないものだ、それこそ小さい頃はずっと座ってるという事が出来ないガキだったからな、俺は。
「しかし、私の内情を殆ど当てたのは事実です。あと、私は余り重要視しませんでしたが、貴方にとっては嬉しい誤算でしょう。貴方は"嘘を見抜く能力"を持っていますよ、茂君。まぁその能力に神としての力のほぼ全てが注がれていますが」
「なんでわか「み、御神様……その話は本当なのでしょうか?」
「防人、貴方は若いからそのような事情をまだ知らなかったでしょう、茂君じゃ言うまでもありません。だがしかし、現実として今神々の間では、"源神支持派"と"源神廃止派"に分かれています。そして、今回の事件は廃止派の中でも過激なグループが起こした事件と見て間違いありません」
「そ、そんな……」
「無関係の貴方達二人を巻き込んでしまった事を、神々を代表して謝らせていただきます、本当に――申し訳ありません」
およそ、このような光景を見る事はもう無いだろう、世界を支える神、その頂点に居る神が――土下座をしている光景など。顔は憤怒により朱に染まり、地に付けてた手には青筋が立つほど力が籠められ震えていた、決して恥辱などによるものでは無かった、それは紛れもないこの事件の犯神への怒り、そして、自分の不甲斐無さに対する怒り。頂点に居る神と、下の下まだ新米の神が取った行動は、全く同じだった、姿勢こそ違えど、そこにある怒りは一緒であった。
「あ、頭を上げてください! 例え他の神による犯行だったとしても、それに気付けなかったのは私のミスなんですから!」
「いえ、違うのですよ。私には分っていたのです、分っていて――見逃した」
見逃した? 俺の世界が崩壊するのを、数多の人が死ぬのを、見逃した?
「どういう事だ、御神……!」
「茂君、貴方は私を問い詰める際に一つ僅かな違和感を感じた筈だ。私の言ったどの言葉に違和感を感じたか、思い出してみてください」
御神はそう言ったきり、口を閉ざし何も言おうとしない。くそっ! 面倒臭い! 思い出せ、違和感が起きたタイミングを、思いつけ、御神の言った『見逃した』と言う意味を!
……もしかして、そう言う事か? だとしたら、なんでこんな事をって……そりゃそうか、出来るはずないか、となると……!
「成程、そう言う事か」
「どういう事なのじゃ、人の……茂!」
ちょっとは、こちらの事を認めてくれたのだろうか、俺の名前を初めて呼ぶ防人。悪いな防人、今回認める認めないを決めるのは、俺だ。
「落ち着け、防人。俺がきっちり説明してやる、仮説だけどな。説明前に聞きたいんだが、お前、今後も犯神共を追う予定なんだよな」
「ああ、勿論じゃ」
「だったら、まず人に聞く前に自分の頭を働かせるようにしろ。俺の考えではこの事件に探偵は必要ない、必要なのは審問官だけ、殺害現場に立ち寄る必要一切なし、やる事は聞き込み、取り調べだけだ」
だからこいつを試す必要がある、御神が俺にしたのと同様に、まぁ俺の仮説が間違ってたら、試すも何も無いのだが。
「回りくどいのう……」
「俺もそう思うさ、だがな防人、ここに来てからお前の台詞数は激減だ、それ即ち会話に入り込めていない、話の場に立てていないって事だ。それじゃあダメだ、そんな奴、今回の事件には必要ない」
切り捨てる様に言い放った俺に気圧されたのか、のけぞる様な素振りを見せる防人。意識して威圧する様に言った甲斐があった、此奴にはもっと悪賢くなってもらう必要がある……筈だ。
「だが、今の情報量じゃあ、仮説を立てるのも、論理を構築するもままならないだろうから、俺が持ってる情報を提供してやる、それから考えてみろ」
「わ、わかった」
「まず、俺が感じた違和感――つまりは、嘘が含まれている部分は、今回の事件を"勘"で分ったと聞いた時。そして『そうですね。普通の神でも優劣はありますが、"源神"様の力は一部でも相手にならない程の強大な力です』と御神が言った時だ」
「成程、他には?」
「無い、これだけだ」
「こ、これだけで、仮説を立てろと言うのか!?」
「ああ、やれ」
「そ、そのような事を言われてものう……」
防人がその小柄な体をより一層縮こませる。……我ながら、甘いとは思うが、仕方がない。
「ヒント一だ。勘で分ったと言ったんだぞ御神は、それが嘘となれば、どうやって今回の事件の事を掴んだか? それを考えてみろ」
「他の神々からの報告を聞いたのではないのか?」
「勿論、その可能性もある。が、却下だな、それならそう言えば良い話だ、嘘を吐く必要性が無い」
「いや、御神様は『前半は殆ど嘘を吐かない』とおっしゃったじゃろ? つまり、全く嘘を吐いていない訳じゃないという事じゃ、だからテストの一環としてじゃのう……」
驚いた、予想以上にこいつは話を聞いていた、確かに俺もそう思って仮説を立てた。だが、まだまだだな、って俺よりも年上かも知れない人物に言う台詞ではないが、あっ言って無いからセーフか。
「おい、聞いておるのか?」
「聞いてない」
「お主のう……!」
「そうかっかするな、いくら言われようともその案は却下だ」
「どうしてなのじゃ!」
「仮にこちらの実力を測るための嘘だったとしたら、勘なんてものにするべきじゃない。"勘"で分った、なんて、嘘を吐く吐かないの以前に胡散臭いだろ。それよりも、神々からの報告と言った方が、連携が取れている、下から信頼されている、と言うプラスイメージが沸くし、信頼も勝ち取り易い上に、御神自身が認めた通り、実際は傀儡なんだから分かり難い嘘、つまりはテストの中でも難題として成立する」
「うぐぐ……」
「ほら、早く考えろ。勘なんて言う曖昧なものでは無く、他の神々からの助力無しに事件の情報を得る方法、俺もお前も、その方法を御神自身の口から聞いてるんだから」
「聞いているじゃと……? という事は、いや、そのようなはずは……」
――思い出したか?
「取り敢えず、言って見ろ防人、先生怒ったりしないから」
「だれが先生じゃ……」
「ぶつぶつ言って無いで、言って見ろ」
「……"神を管理する力"」
「正解だ、防人、俺の仮説の中じゃな」
一瞬、その言葉に嬉しそうな笑みを浮かべるが、すぐに元の眉間にしわ寄せた顔に戻る。女性になると、表情が豊かになるのか、此奴は。
「し、しかし、それでは傀儡になっているという事と矛盾してしまうではないか!」
「そうだな、俺もそう思った。ここで、俺が感じたもう一つの違和感を思い出せ。『そうですね。普通の神でも優劣はありますが、"源神"様の力は一部でも相手にならない程の強大な力です』、この言葉で嘘じゃないと断言できるのを削って行け、そうすれば御神がどの部分で嘘を吐いたのか分かるだろ」
「りょ、了解じゃ。う~んと、神の優劣は確かにあるしのう、"源神"様の力は確かに強大じゃし……そうすると、"源神様の力の一部"と言う言葉が残るのう」
「そうだな、そこに何らかの嘘が紛れ込んでることになる。その事と、傀儡の筈なのに"神を管理する能力"で事件を把握した、この仮説を組み合わせれば、嘘は簡単に――浮かび上がる、分かるよな、防人」
傀儡となって居る筈の御神が、何の束縛も無いとは到底考えられない。監視、盗聴、封印……方法は色々ある、だがそれも、圧倒的な力の前では無理なのではないのか? 監視も盗聴も偽造することが出来、封印されていようが力が有り余るほどの強力な力。それこそ、数多ある神の始祖――"源神"の力をもってすれば。
「受け継いだ"源神"様の力は一部では無いという事か……!?」
「そう、そう考えれば見逃したと言う言葉にも納得が出来る、"神を管理する力"で犯神を捕まえたなんて事になったら」
「能力が使えた事に疑念を抱かれ、不信感を与えてしまう……!」
「そう、その結果起こるであろうことは、クーデター」
「つまり、御神様は自分の保身の為に世界を見捨てた、という事か……!」
防人の目には、裏切り、失望、動揺、およそそんな感じのが映っていた。ダメなんだよ、それじゃあ……!
「はぁ……良いんだな、防人」
「何がじゃ!」
「御神は保身の為に世界を、数多の命を見捨てるような神だった。それが、お前の結論か? だとしたら、お前は付いて来るな、人間としてどっかの世界で生きて行くか、両神の所に戻って、一生箱入り娘してろ」
「なっ……! お前の世界が見捨てられたのじゃぞ!?」
「ついさっき見た、御神の謝罪を見てみろ! あれが世界をよりも自分をとるような奴に見えたか! ああ! もしかしたらあれも演技かも知れないな! だけどな、俺はあの土下座を疑うような奴にはならない、なってたまるか。ヒント二だ! 数多の神々によるクーデター、これが意味するのはなんだ、御神の失脚だけか!? 良く考えろよ、防人! 次にお前が言う答えによってはお前を見限って、俺は犯神を追いかける、お前は俺が居ないとこの部屋からすら出られない事を理解しとけよ」
空気が今にも張り裂けんばかりに緊迫しているのが分かる、その空気を作りだしたのは間違いなく俺だろう、しかし、こうしないといけなかった。自分で考え、自分で答えを見つけ出せる奴じゃないと……ダメなんだ。
時間にして一瞬であっただろう間も、俺には一時間に感じられた、延長された時間の中、ゆっくりと防人の口が開く。
「神々のクーデターが意味する事は……」
どうも、学校が始まって若干憂鬱な生意気ナポレオンです。
あの、筋がちゃんと通っているでしょうか? もう、本文を書いてる時は本当に勢いだけで書いてるので(汗)、すいません、読んで頂いてる方に聞くものじゃありませんでした。
相も変わらず、もっさり進行、もっさり更新で申し訳ないありません、こんな自分ですが、読み続けてくだされば、幸いです。
ではでは