第五話:見切り発車の行く先は
今回、茂君が喋りまくります。
「嘘? まぁお決まりとして言わせてもらいますが、元々私は嘘など吐いていません、よって暴くなどそもそも不可能です」
そう御神は、右手で防人を制し、こちらへ言葉を投げかける。まぁ勿論、ここで、はい、そうですねなどと言うならば最初から言ったりはしない訳で。
「まず一つ暴いてやろう、その嘘を吐いた事が無い、その一言がまずは嘘だ」
「やれやれ、じゃあ長谷川さん。私がどんな嘘を吐いてると?」
どんな嘘吐いてるんでしょうね? 皆さん、分かります? などと言っても、返事は来ない。だったら、精々理論立てた当てずっぽうを吐きまくるだけだ。
「ふん、取り敢えず俺が一番最初に気になったのはだ、お前が満場一致で"神の神"とやらになったって言う事だ」
「何かおかしい所でも?」
「何でも、神は俺達……じゃない、人間にそっくりって言うじゃねぇか」
ここで全否定されたらそこではい、終了。俺は馬鹿な事をほざいただけの格好つけ野郎になる。判断を急ぎ過ぎた、そう思うのが遅れ過ぎだね。
「ええ、そうですね。違いと言ったら、数ぐらいですね」
幸い、否定されること無く、話は進んだ。こんな気持ちをずっと味わいながら話さないといけないのか……御免、ちょっとトイレ借りていいかな? 大丈夫、大丈夫、ちょっと胃の中身を流すだけさ。
「ふぅん、だったら、あんたらには失礼かもしれないが、神と人間、力の差はあれど精神的なもの……例えば、ものの考え方などは人間と同じとさせて貰おう」
「ええ、構いませんよ。事実その通りだと、私は思ってますから。どうぞ、話を続けてください」
私は思ってる、か。多分、大多数の神はそう思って無いんだろうな、その態度が人間みたいに感じれてしまうのは、ちょっとした皮肉だな。って、余裕扱いて、考えてる暇じゃないな。
「それじゃあ、お言葉に甘えて……"源神"とやらの力、一部とは言え、強大な力みたいだなぁ?」
「そうですね。普通の神でも優劣はありますが、"源神"様の力は一部でも相手にならない程の強大な力です」
僅かに違和感。だがまぁ、強力な力と言う証言を引き出すことが出来れば、違和感なんてどうでもいい。
「その強大な力を、満場一致でほいほい他神に譲る訳が無い。勿論、これはさっきも言った通り、神と人間を云々が間違いなければの話だが」
「成程、貴方の言う事は分かりますが……私が全ての神を纏める力があると認められた……そうは思えませんか?」
御神は余裕だ、表情はにこやかな笑顔、内心も冗談めかして話すぐらいだ余裕綽々だろう。その笑顔が、その余裕が――異様に癪に障る、この笑顔に一発かましてやりたい、そんな気持ちを原動力に、口と頭は狂ったように回転し続ける。
「例えそうだったとしてだ、その力には監視する能力があるんだろう? つまり、ほかの神様方は、四六時中、三百六十五日! 監視下に居ないといけない訳だ」
人生一度だけの家出をした後は、一時両親にほぼ監視されてたからな、その窮屈さは僅かにわかる。俺の場合は監視者は血縁者、ずっとって訳でも無く、時期も一時期。あの窮屈さがずーっとだ、俺には絶対耐え切れない。
「それは嫌でしょうが、さっきも言いましたが、私だって全ての神を同時には……」
「自分で言ってて分ってんだろ、監視されてるか否かは本神には分ってない、分ってたら監視の意味無いしな、常に緊張状態と言う状況は変わらない」
「ふぅむ、それは確かに、だけど疚しい事が無ければ……」
「それだったら尚更、『なんで何もやっていないのに監視されないといけないのか』なんていう奴らが現れる」
これまた、俺ならばと言う感じだがな、ほかの奴らがどう思うのなんて知るか! だがまぁ、あながち間違っては無いと思うけどな。
「しかし、事実として私は選ばれてる訳で、そうですよね? 防人」
「ええ、勿論です。私も、その場に居ましたから……投票権はありませんでしたが」
「ああ、あなたはまだ成神してませでしたからね」
成神ねぇ……やっぱり二十歳なのだろうか? だがまぁ、なんであれ……
「正式に選ばれたかどうかはどうでもいいんだよ、投票する奴らが裏で示し合わせて、都合のいい奴を"神の神"とやらにしちまえばいい、即ち」
「私は傀儡……という事ですか」
「ああ、そう言う事だ」
「しかし、証拠は……?」
「ある訳が無い。神様方はやはり人類などとは格が違い、嫉妬などせず、権利を追い求めず、保身にも走らない、崇高かつ純粋であり、監視されても全く動じないいなら、俺が言った事は只の戯言だ」
「人間と当て嵌めた場合に、余りに私たちが出来過ぎている。それだけで、今までの話を? いや、その想像力の高さは買いますが、陰謀論もいいところですね」
「まっだけど、ここまで来たら俺の話を最後まで聞いてくれよ、人から神になって粋がってる馬鹿の戯言。話の種にはなると思うぜ」
「まぁこちらも聞いてて面白いですから、どうぞ、続けてください」
何処まで行っても、余裕で上からな雰囲気を感じるのは俺の気のせいじゃ無い筈だ。
「ありがとよ。まぁなんだ、長々と話したが、俺はあんたの言う不穏な動きという事は嘘はついて無いと思うんだよ」
「ほぉ? 私の曖昧に言った、"絶対不変の勘"なんて曖昧なものは信じると?」
「ああ、信じるさ。事実、俺もそうとしか言えないものを味わってる、今まさにだ」
「どういう事ですか?」
「俺だけなのか、ほかの神もなのかは知らないが……俺は嘘を見抜く能力を持っている」
言った、言ってやった。よく分らん、神の能力とかいう奴を騙ってやった! ここまで来たら、いやもうすでにだが後には引き返せない!
「便宜上名前を付けさせてもらうなら……そうだな"偽を見て為さざるは勇無きなり(ブレイブ・オブ・ディテクト)"とでも言わせて貰おうか」
そこ、『なんて言う恥ずかしい名前を……』とか言わない! 恥ずかしいのは俺とて分ってるんだよ! だけど、こういう時はいかにそれっぽく、自信を、余裕を見せつけながら披露するかで、場を吞めるか否かが決まる! と言うのが、俺の持論だ、故に恰好つけた訳では無く、説得力を出す為である、証明終了!
脳内会議がエクスクラメーション・マーク (所謂、びっくりマークだ)が飛び交う中、こちらの超したり顔が気に障ったのか、僅かに御神の顔が曇る。
「それをどう信じろと?」
こちらを僅かに睨みながら、御神が言う。威圧感凄いからやめてくれ。
「それを言えば、あんたも同じだろ? あんたが信じないなら、俺もあんたの事は信じない。さっさと、ここ出て先に行くだけだ」
負けじとこちらも目を見ながら言う。内心で負けようとも、表面では負けたくない、人これを見栄と言う。
「さっきから聞いていれば!」
いい感じに火花を知らせていた俺と御神の間に、苛立ち混じりの声が掛かる。
「防人、良い加減にしな「御神様は甘すぎます!」
おっ、御神がたじろいだ。こりゃ、俺に畳み掛けられるな。
「貴方様は"神の神"……私達神のトップです! 私のような若輩では、会うのすら畏れ多い方……それがこんなぽっと出の神、いや、その神未満! 人間と神の中間に居るような者に此処まで言わ「長い!!」なっ!?」
「長いわ! しかも、話をぶったぎってまで言う事じゃないし……何が、私達神だぁ? お前、もう神じゃねぇから! 人だから! 神未満の俺以下! そこら辺しっかり頭に叩き込んでから発言しろ。あと、ぽっと出とか何とか言ってたな、ぽっと俺を神にしたのは、お前だからな? さっきから言う事全てが、ブーメランだから、自分の発言で自分追い込むのも大概にしろ、あれか、精神的被虐趣味でもあんのか? あ~だったら悪かった、いや、神……じゃなかったもう人だったな、御免御免。人様の趣味に口出すのは人として……おっと神未満として最低の屑野郎だったな、悪いな~いや、もう俺マジ反省」
防人よりも長い台詞を一気に叩き付ける。思えば、入った時から無礼者オーラが邪魔で仕方が無かった、何時もの俺なら女性相手には縮こまるだけだが、今の俺には性別などなんのそのだ。後半に関しては、防人への挑発に尽力して言葉をひねり出した、まだ小さかった頃、挑発しながら逃げ回ると言う遊びをしていたあの頃に戻れた気がした、戻っちゃいけない気もした。
「き、貴様……! 身の程を「知れぇ! ってか?」
「悪いけどさぁ、身の程とか言ってる場合じゃないの、分かる? あのね、あんたを嵌めた犯神はさぁ、神な訳、犯神って言ってるから当たり前だけど。要するに、神を追う訳、神と話さないといけない訳、神を問い詰めないといけない訳。そもそもぉ? 俺の認識では、御神含めた神様方の認識は人間の上位互換ぐらいなのさ」
一息、さすがに一気に喋り過ぎた、相手が怒りで顔真っ赤、口をパクパク、まさに怒りで何も言えないと言った様子、それじゃあ今の内に畳み掛けるか。
「俺の世界での人間はな、全員が全員じゃないし、程度の差もあるけどな、顔はスマイル、頭はクレバー、騙して、誤魔化して、保身に走って、人切り捨てて、そんな奴らの上位互換? 身の程知って、そういう奴らに遜ってたら何もできないだろうが、せめて一噛み、噛めなくてもキャンキャン吠えなきゃ、やり込められて終わりだろうが!」
はぁーはぁーみ、水飲みたい……って良く考えたら、遜った振りして騙すのもありだよな、うん、それはノーカウントでお願い。
「お疲れ様です、長谷川さん。はい、水です」
「ありがと、御神」
僅かに痛む喉を通り抜ける清らかなる水、過剰に熱を持った頭が程よく冷やされ、話がずれてるのを感じる、だが、これ以上割り込まれないためにも、ここで叩いておいた方が良いだろう
「お、お、お……」
「お?」
おい、御神そう言う事言うと……
「お前はなんなんだ!!」
ほら、こうやって怒鳴られる。お前はなんなんだって多分、本人も何言ってるかよく分ってないんだろうな。
「確かに、私はもう神では無いし、お前を神にしたのも私! そこは認めるし、目上の神に向かって対等に話そうとする理由も分った! だが、御神様は敵ではないだろう!」
おっ、ちゃんと認める所は認めるんだな、人格者だね~俺だったら、絶対すぐには認められない、何かしら反論してしまうと思う。感心、感心、だけど……
「いやさ、嘘を吐いた時点で敵か味方かで言えば、敵だろ」
「だから、それはお前の言い掛かりで……」
「はいはい、防人、話を中断させないで。貴女はもっと余裕を持ちなさい」
仲裁に入ってくる御神、まぁ確かにこれ以上は泥沼だな、良いタイミングだ。
「そうそう、あくまでこれは俺の陰謀論、暴走妄想、過剰な想像なんだから」
そうは思っても、挑発してしまう俺、回る口は止められない。
「貴方も防人を挑発しないでください」
「へいへい」
委員長に怒られて喧嘩腰になるクラスの餓鬼大将みたいだな、俺。さしずめ御神がそれを諌める教師って所か?
「さて、もう一度話を戻しましょうか」
「……御神、あんたが感じた不穏な動き、それは確かに防人を陥れる動きだったと思う、だっが……良く考えてみて欲しい、特に防人」
「何が言いたい」
「お前を蹴落としてメリットがあるかと言いたいんだ、俺は。今までの話を聞いててもお前はまだ神としてペーペーだったみたいだな」
「……ああ、そうだ。神としての業務を始めて二年になる」
に、二年……予想以上に俺達の世界は新人に管理されていたらしい、と言っても神の仕事がよく分らんから、案外そんなのでも大丈夫なのかもしれない。
「そんなお前蹴落として何になる? 神の間に法律があるかは知らんが、人間に合わせてみれば、間違いなくご法度だ。そうでなくても、工作やらなんやらで面倒臭いだろう」
「そ、それはそうだが……」
「だとした、犯神の狙いはお前じゃないと考えるのは当然と思わないか」
「それは……思う」
「俺が想像するに、犯神……犯神共の狙いは御神……と言うより"神の神"あんただと思ってる、そしてその事にあんた自身気付いてるってな」
「私ですか?……気持ちよく喋って貰った所悪いのですが、防人の世界を崩壊させることで、私に失態は無い気がするのですが」
「そりゃそうだろ、一つの世界が崩壊それだけだったらな。だが、これが個人のミスでは無く、他の神による工作だったなら、話は別だ」
「と言うと?」
「あんたは"神の神"、神のリーダー、神を管理下に置く存在、それが建前だったとしても、神による工作を見逃してしまったとなれば、目の前で犯罪を見逃す警官のようなもの、居ても居なくても問題ないよな。いや、力がでかい分、居ない方がありがたい」
「私が"神の神"の座から降りるのではなく、神の神と言う立ち位置そのものを排除する気だと?」
「そうなればベスト、少しでも力をそげればベター、最悪、不信感だけでも与えられるからな。"神の神"排斥派、今勝手に作った派閥だが……そういう奴らにしてみれば、リスクに見合う価値はあると言える」
「成程……しかし、それも」
「お前が傀儡と言う事実が無ければ、今までの俺の発言は全部無駄って事だ」
「……仮に全部認めるとして、何故私が嘘を吐く必要が?」
そうなんだよ、この状況、明らかに俺達の協力が必要なはずだ、なのになぜ嘘を吐いて猜疑心を煽る様な事するのか……考えていたのだが、どう考えても俺の頭には一つの陳腐な答えしか思い浮かばない。
「ズバリ……俺がどれほどの力か知りたかった。犯神を捕まえる事が可能か、裏切ったりしないか、自分がどれほど力を貸せばいいのか……そんなところだろう。」
「成程……では、仮に私が全部否定したら?」
「さっきも言っただろう、少しでも不信感が生まれた相手の話なぞ信じない、さっさと扉を出て、階段を上るさ」
沈黙。先程噛みついてきた防人も、張りつめた空気を感じたのか、微動だにしない、それは俺も同じだ、今のこの空気を少しでも動かせるのは、"御神 神一"ただ一人だった。
そして、沈黙は――破られる。
「とんでもないのが来ましたね……」
ため息ともに口から出た言葉、ため息とは対象にその顔に笑みが浮かぶ、その顔は先ほどとは違い、実に人間らしくて悪いくて良い、そんな矛盾した笑顔だった。