第四話:確信
今回、説明回です、申し訳ない。
白い扉を抜けた先は、雪国……に近い、扉と同じ純白な部屋、いや、広間と言った方が良いだろうか? まぁとにかくそんな感じだった。純白、純白、純白……正直、俺は白と言う色は余り好きではないのだ、理由は無いが、ともかくそう言う理由で俺は人並み以上にうんざりしていた。
「うん? 理由は無いのに理由が無い……面白い表現だな」
「何をぶつぶつ言っておるのじゃ、神の……"神の神"の御前じゃ! 頭を垂れぬか!」
「はは、いいのですよ、防人。変に畏まれるより、こちらの方が話をしやすい」
「しかし……」
……なんかムカつくな、この神様。見た目は上の上、神は…もとい、髪はさらさらの金髪(ブロンド)、嫌味を感じさせない口調、その他諸々。ここまで言えば、ムカつく要素はありそうもない(完璧すぎてムカつくと言う事すら感じそうもない)。
「だっが……なーんか、腹に一物持ってそんなんだよな~」
「おい!!」
うわ~大人の対応、対応。ホント、何考えてるか……って、この態度は我ながら良くないな、"信頼無しに話無し"良く親父に言われたなぁ。
「人の子……では無いですね、お名前は何と?」
「名字は長谷川、名前は茂だ」
「失礼、私は奉人成乃神……貴方達に合わせますと――そうですね、"御神 神一"、神一とでも呼んでください」
「御神にしんいち……どんな漢字でだ?」
「ゴッドの神に、漢字の一で神一ですよ」
ちょっと空気を和らげる為か、笑顔でやや茶化すように言う。その笑顔は、どこかのネロも犬を置いてけぼりで昇天してしまいそうだった。
だがやはり、その笑顔は偽物臭い。
「はっ言うなぁおい。神の中でトップ張ってますってか?」
「いえ、そんなつも「無礼なるぞっ!!」
「ここにおわす方を誰と心得る! 奉人成乃神様の成るぞ!」
……と言われてもなぁ、此処まで言うからには偉いんだろうけど、どれ位えらいか見当つかん。なんつってたけ? 神の神? つまり、神の中の神って事か? それなら、神の神の神も……際限ないじゃねぇか。
「防人」
「ですが!!」
「防人。三度目は無いですよ」
「っ!……承知しました」
「宜しい。すいませんね、お恥ずかしい所を……」
「そんなのは良いから早く始めてくれ」
また、防人が顔に血を上らせ、こちらを睨んでくるが知らん知らん。今の俺は、なんだか変に気合が入って、先程の様な女性への苦手意識などが欠落しているのだ。
「分かりました。まず、結論から言わせてもらいましょう。今回の事件、一人の神で行われた犯行ではありません」
区切り、何かうかがう様にこちらを見る。そんな仕草もまた、なぜか気になる。
「そんな風に見られても、つい先ほどまでは哀れな子羊、今は罪深い神未満となった俺には神の世界管理の仕方なんかさっぱりなんだ、もっと詳しく説明してもらわんと、ノーコメントだ」
この時点で、かなりコメントしてると言う突込みは禁止だ、俺がコメントしてるのは、事件に関してではなく……止めよう、長くなる、。
「申し訳ない、それもそうでしたね」
そこで御神は息を吸い込む、少し、話が長くなるのですが、そう前置きし一呼吸。その呼吸は、この後に続く話の長さを嫌が応にも感じる、眠ってしまわないか心配だ、嘘だが。
「まず、神と言うのは、そこの防人から多少は聞いたとは思いますが。数の大小はあれ、人間と同じと言いでしょう。そして、最初の"神の神"は少なくとも四桁以上の世界を持っていたと言います」
四桁!? そう言いたくなる気持ちをぐっ堪え、御神の声を聞く。
「勿論、と言う言いでは語弊を招くかもしれませんが、初代"神の神"……"源神"はそのような数の世界を管理できず、持ってた世界の殆どを崩壊、滅亡、消滅させてしまいました、神も万能では無いのです。そして、"源神"は気付きました、一人で出来る限界を。その事に気付いた彼……彼女かは分かりませんが、とにかく"神の神"は、残っていた世界に、何時の間にか誕生していた自分と同じような存在、貴方達"人間"の思想や、信念そう言ったものの塊から神を創り、ごく稀ではありましたが、人間を神にそのまま創り変えました」
どの宗教の信者も聞いたら腰抜かすだろうな、今の話。すらっと言ったが、今の話、人間は神による生成物では無く、自然発生……類人猿より進化したという事が証明されたわけだ。神に会って、神を信じてる者では無く、信じぬものが笑みを浮かべるか、げに皮肉かな。まぁ世の進化論を研究している人間が全員無宗教者かは知らないが。
「そして、創った神等に自らの世界と力を分け与え、自分は管理していた世界の一つに人として堕りて行きました」
「ちょっと待て、じゃあ"神の神"と言うのは?」
「ああ、それは"源神"が決めた事ではありません。残った"神の神"の子等……言いにくいですね、便宜上ここでは"神"で統一します。神は一人、リーダーを決めようとしました、そちらの方がまとまりが出来るだろうと」
「それは多数決で?」
「いえ、満場一致以外は認められませんでした。なんたって、"神の神"の選定です、ちょっと失敗すれば各世界がどうなる事やら、あなたの国みたいにトップを頃と変える訳には……」
「国民として耳は痛いが……あんたも随分と暇なんだな、末端の神の世界なんて見てる暇があるなんてな」
「ははは……そんな事言われると、こちら方が耳が痛いですね、と言っても私の場合はそれなりの理由があるのですが」
「どういう事だ?」
「"神の神"に選ばれ神は、"源神"の力の一部を継承します。一応、その力の詳細は一神相伝となってるので言えないですが」
どこの暗殺拳の継承者なのだろうか? あの顔でオアタァ! とか言ったり――いかん、ちょっと集中力を欠いてるな、いくら話が長い上に説明的とはいえ、しっかり聞かなくては。
「簡単に言えば"神を管理する力"、とでも言っておきましょうか、大きな、大きな力です」
そうやや小さめな声で呟く、その声には憂鬱の気が八割できている様だった、何時もなら演技臭いと感じるその言葉は、なぜか嘘偽りは無い気がした。
「まぁとにかく、そのような力で修学旅行の先生みたく、神の動きを監視しています。と言っても、"源神"と違って、同時に監視出来るのは精々十が限界と言った所ですが」
「でっ? 本題は」
何処まで行っても俺の態度が不遜な事に、三度防人が……あっ御神に目で制された。
「その力で見張っている時なのですが……実は、前々から防人の周辺で不穏な動きがあったのです」
「不穏な動き……どのような?」
「いえ、何と言いますか"勘"の様なものです、防人の周囲で良くない動き起きているという」
勘。その様な言葉を使った割には、御神の顔は何かが起こっていた事を確信している。そう思った瞬間、自分にも同じ様な直感から生ずる確信、揺るがすことの出来ない、絶対不変の直感。此奴は――
嘘を吐いている。
「どうしました?」
「いや、何でもない」
今の確信を悟られてはならない。俺は一切見た目には動じることなく、返事をする。
「奉人……」
「御神、と呼んでください、防人。一々"神名"を言っていたら、お互いに面倒でしょう。貴女も、ご両親から頂いた、立派な"防人 桔梗"と言う名前があるではないですか」
「は、はい! 御神様!」
「そのように固くならずとも……」
と言う、良く聞くやり取りをバックグラウンドミュージック(BGMの事だ、つい最近なんの略か知ったので使いたかったなんてことは無い)に、根拠のない確信を信じ、嘘を吐いてる事を前提に思考開始――まずは、俺は何を嘘だと思ってるのかだ。
勘では無く実際に分ってると確信したのは"源神の力"によるもの? あり得るが、この嘘はどっちでも正直構わない、一神相伝とか言ってたし。ならば、これは考えなくてもいい可能性。
不穏な動きを起こしていたと言うことが嘘? 嘘を吐く理由が分からない。俺には分からないメリットがあるのかもしれないが、分からないなら考えても無駄、よって思考放棄だ。
いった事全てが嘘? 可能性として充分にあり得るが、それを考えたら終わりだ。よって、思考保留と言った所か?
他にも様々な可能性が浮き出ては消える。その中で、唯一これだと言えるのは一つだけ、では無い当然だ、扉を抜けて初対面、それから今まで何分だ? 此奴の人――神柄なんて分かる訳も無し、そもそも神自体がよく分らない。
「……御神様、勘と言うのは余りに曖昧過ぎるかと思うのですが……?」
気付くと畏まって、俺も気になっていた疑問を防人が御神に投げかけている所であった。その態度はやはり固い。
「確かにそうですね。恐らく、長谷川さんも気になった事と思います」
「いや、防人の言葉を聞いて、初めて疑問に思った」
「ふふふ……そうですか」
「何だ?」
「いえ、なんでも。話を戻しますが、この私の言った"勘"ですが……私の言い方が悪かったですね、すいません」
「い、いえ、そんな……」
「これも、"源神"の力です。詳細には言えませんが、そうですね根拠のない確信、それが間違って無いと思い、かつ実際に間違っていない。絶対に的中する勘、そのような力です」
俺が思ったのと同じ力……だが、当然"源神"の力など俺が受け継いでいない、そもそも呆気なく受け継いだ神の力も不完全なものの筈だ。
もしかして、人間と不完全な力が合すことにより強力な力が! ふん、御砂糖にスパイス、素敵なものイッパイに余計な薬品を混入ってか? 言っててなんだが無いな。ふう……考えるだけじゃ、埒が明かない……か。正直、仮説なんてさっぱり立ってない。だが、もういい、もう見切り発車でゴーだ、仮説? んなもん喋りながら構築すれば問題ない。どう考えても、賢いとは言えない選択だ、しかし、この妙な確信溜めこむのは気持ち悪くて仕様が無い。
「な、成程。では、その不穏の動きと言うのの詳細には分からない、と?」
「ええ、その通「そろそろ、嘘つくの止めないか」……嘘、とは?」
あ~あ、言ってしまった。俺の心の中は早くも後悔の二文字で埋め尽くされつつある、もういっそこの心中を公開したいって、ああこんなどうしようもない事を言う事自体が……
「またまた、恍けちゃって~悪いけど、俺に嘘は通用しない」
完全なハッタリだ。心と口が俺の場合は分離しているようだ、俺の心を無視して口は回り続ける。俺の心はこの口とは友達にはなれそうもない、だがどちらも自分の体の事の様に知っている俺から言わせてもらえば、この口はとても心に親切だと思う。絶対不変の直感と言う違和感を抱える、心の鬱憤を、口を動かし真実を明らかにして晴らそうとし、意思に反して動く口、動揺する心をハッタリで自信を付けさせる。ああ、我が口よなんてお前は心優しいのか。
そんなくどい茶番を内心で繰り広げる。だがまぁそれ位の酷い茶番が前座にはふさわしいだろう? 心は前座、真打は
「分らないか? お前の嘘は暴いたってんだよ、御神 神一」
震える声帯、噛みあう歯、回る舌、この三つから構成される我が口、お前だ。しっかり騙ってくれよ。