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渡り世の詭弁者  作者: 生意気ナポレオン
序章:いわゆる発端編
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第二話:回想と現実

「茂ーまだー」

「悪い楓、待たせたな」

「はいはい、それじゃあ行ってきますおばさん!」

「はい、今日もありがとうね。はら、茂も何時も来てくれてるんだから」

「それこそ今更だろ、母さん。それじゃ、行ってきます」

「全く、行ってらっしゃい」


 ほとんど毎日繰り返されていたやり取り。この日もそれは変わらないと思っていた。取り戻したはずだった。


 変わらない毎日、怠惰な日常、ただ穏やかに流れる時間、その中に入れる幸せ。それを知ったはずだった。命を以て理解したはずの、日常の尊さを。


 よく、本当に大事な物は、それが無くならない限り分からない、などと言われるが、俺は無くなっても分からなかった、理解しなかった。

 

 真、阿呆とも愚者とも言われても、何も言えない。むしろそれ以下、自らの無能さで全てを崩壊させた加害者、罪人、咎人、ならず者、極悪人! およそこの世にある全ての蔑称が当て嵌められるだろう。


 俺がなぜ,こんなにも愚だ愚だと言っているのか."それ"を知るには僅かに時を遡らなければならない."それ"は黄泉返ったあの日の,三か月後に起こった.



◇◆◇◆◇◆◇黄泉返った日から三か月後◇◆◇◆◇◆◇



 目が覚めた時には、すでに何かがおかしかった。一切の物音が、人の気配が、命が感じられなかった。


 不審に思い、服を着替えてダイニングに行けば、体中にひびが入った母さんがそこには居た。ヒビが入ったその姿は、精巧な石像にしか見えなかった、そうとしか見たくなかった。

 

 慌てて玄関に行ってみれば、そこには同じようにヒビが入った楓がいた。訳が分からなかった,分かりたくも無かった。


 この時の俺は家を出て,ありもしない命ある者を探した,探し続けた.そして,何時の間にか俺は意識を失った.


「はっ!」


 目が覚めると、そこは何時ぞやの純白に包まれた世界だった。だが、その美しい世界にもヒビがそこらじゅうに入り、台無しになっていた。


「目は覚めたか?」


 酷く落ち着いた声が、俺に投げかけられる。その落ち着き様が酷く気に入らない。世界は今あんなにも――!


「どうなってるんだ! あれは!」

 靄に包まれたような寝起きの頭も、自分の見た光景を思い出し、速攻で覚醒する。自然現象とは到底思えない、ひび割れ、生気を感じれなかった人々なぞ、完全んに常識外。

 この"神"が関わっているのは間違いない!


「落ち着くんだ、人の子よ」

「落ち着け!? そんな事出来る訳…」

「"落ち着け"と言ったのだ、人の子よ」


 "落ち着け"と二回目に告げられた瞬間、自分の昂ぶった感情が、力ずくで押さえつけられるを感じる。

 鎮静と言うには余りに暴力的、鎮圧と言うには余りに論理的。まさに"言葉の暴力"、この言葉はこの一言の為にあるのではないかと錯覚させられる。


「……落ち着いたようだな。なら、話を始めよう。まず初めに、一つ事実を告げよう。三月二十三日、午前七時四十四分。私の世界――お前の住んでいた世界は崩壊した」


 『崩壊した』その言葉が頭で鳴り響く。じゃあなぜ俺は生きている? なぜ俺はここに呼ばれた? なぜ神は俺にそんな事を話す? 疑問符が頭の中で溢れだす。

 気付かないようにしていた事に嫌でも気付かされる。人や空間にひびが入ると言う異常、人がよみがえると言う異常。これに関連性が無いと考えるのは、余りにも都合がよすぎる。

 

 良く考えてみればおかし過ぎる。生きている死者、死んでいる生者、矛盾した存在だ。矛盾を抱えたまま、世界という物は成り立つのか? 再びパニックに落ちかける俺、その耳に神の残酷な一言が突き刺さる。


「崩壊の原因はお前だ。人の子よ」


 あっさり告げられた事実、溶けた疑問、当たってしまった推測。体が異常に寒く感じる、震えるからだを抑えきれない。そんな俺を、叩き落とすように神は事実をまた告げる。


「本来死んでいたはずのお前が黄泉返った。それが原因だ」


 俺の所為? おれのせい? オレノセイ? チガウ! ちがう! 違う!


「黄泉返らせたのはお前だ! 俺は何も悪くない!」

 

 今思い返せば、余りにも醜い、醜すぎる。だが、それは矮小な人間の本質なのかもしれない。自分が傷つかぬために、他者を傷つける。生物として当然の行動だ。などと、今更俺が言うほどでも無い、昔から言われてきた考え。この時の俺は、その証明に全力で加担していた。


「そうだな。確かに私が、お前を黄泉返らせてしまった。お前は原因であろうと、罪は無い」


 滑稽だ。神と人間を比べること自体おこがましいのかも知れないが、あえて比べ、例えるならば。まさに、大人と子供だ。自己弁護を喚き散らす俺と、それを寛容に認め、許す神。だがまぁ、生きとし生ける者の全ては、この神の創作物、いわば子供なのだ。神の前では、あらゆる生物が子供なのではないだろうか?


「そ、そうだ! 俺は悪くない! 神、お前の所為だ! こうなると知っててなんでこんな事を!」


 最悪。そん所そこらの屑と何ら変わりない。人は追い詰められるとその本質を曝け出すと言われるが、これが俺の本質だとしたら、全く持って見るに堪えない。


「私とて、やりたくてやった訳ではない! お前は何処か、別の世界に転生させる気だった!」


 初めて垣間見せた感情は怒り、紛う方無き怒り。何者かに向けられる怒りと、己自身への怒り。体が否応なしに委縮する、だがそれは、同時に、俺の頭を十分に冷やし、冷静にさせた。そんな俺を知ってか知らずか、感情を再び無くし、神は淡々と話し始めた。


「私に罪が無いとは言わない。だが、今回の世界崩壊は、他の神の策略だ」


「策略? 他の神?」


「人の子よ。お前は知らなくて当然だが、神はお前達人間程ではないが、多数いるのだ。その誰もが、感情を持ち、独自の考えを持ち、各々違う概念の神となってる。お前の居た、地球ではギリシャ神話という物が合ったはずだ、あれと同じ。神とて、対立したり、愛し合ったりするのだよ」


「それで、なんで俺の世界崩壊なんてさせるんだ。お前には何の関係も……!」


「大有りだ。この世界を見ろ。お前の世界と同じように、ひび割れているだろう」


「あ、ああ」


「ここは私が創りだした私の世界だ。ここの崩壊はつまり、私の消滅を意味している」


「どういう事だ」


「私はな、支え過ぎたのだよ、お前の世界を。良く考えてみろ、お前が黄泉返ったのに気付いてから三か月。私は矛盾を抱えた世界を、必死でつなぎとめた。そのの結果、私の世界、そして私自身がお前たちの世界に限りなく同化してしまった。つまり……」


「俺達の世界が崩壊したら、あんたも消滅する……ってことか」


「そう言う事だ。もう、半分近く神の力は削がれた」


「なら、どうして俺を此処に呼んだ。俺をどうするんだ?」


「……お前には三つの選択肢がある」


「三つ?」


「一つ目は、再び転生し、今度こそ他の世界で生きる事、今度は記憶を消させてもらう。二つ目は、崩壊した世界に戻り、そこで消滅するのをただ待つ。そして、三つ目は――」



◇◆◇◆◇◆◇静寂に包まれ、問題は起こらず、心は通わない。この虚しい世界にて◇◆◇◆◇◆◇


 回想は終わり、現実が動き出す。時が刻みだし、現在は未来へと進みだす。


 瞼をゆっくりと開き、見つめる先は静寂な闇。命が無くなった世界。崩壊とはつまり、ただの闇と化すことなのだろう。崩壊した世界でそう思う。


「気は済んだのか?」


 後ろから声が聞こえる。闇の中、地面など無いはずなのに踏みしめることが出来る空間、矛盾した空間。そんな場所で俺は、左足を軸に声の方向へと振り返る。


「ああ。済まなかった、我儘言って。だがまぁ、お陰で散々自責は出来た、後悔も出来た、反省は……出来たかどうかは分からないが」


 三つの選択肢を聞いた時、俺が迷わず選択したのは最後の選択肢だった。だが、その前に俺が壊した世界を落ち着いて見たかった、自分の罪を心に刻んでおきたかった。


「そうか。ならば、創るぞ?」


「ああ、創ってくれ」

 

 神がゆっくりと両手を上に掲げる。その様子は、さすがに神、神々しくて思わずこちらの息が止まるほどであった。そして、神はゆっくりと瞳を閉じ。何事かを呟き始めた。


[我、継承者を見出したり]


 俺に提示された、最後の選択肢は目の前いる神の力を継ぎ、自らが新しい神となり、世界を再生する事であった。


[我が神格よ、具象化せよ]


 力を譲り渡せば、神は人間となり、この世界の崩壊ともつながりは消え、自らが死ぬことは無くなる。俺はそのまんま世界を再生することが出来る。お互いに利がある、選択肢であった。


[我が力よ、具現化せよ]


 だが、神の力は言っていた通り、半分……あれから時間がたった今ではそれ以下になっているだろう。故に、力を継いだとて、俺は神なれない。だが、過去に人間が神になったケースが無い訳では無い。生前善行を積んだものや、人々を大量に救った者、神への敬虔な祈りが認められてたもの、そう言う偉大な者は神になったらしい。


[我が祈りよ、顕現せよ]


 そして、俺に与えられた神になるための試練は、目の前の神の無罪を、今から人間となる神の無罪を、彼女と共に証明する事。つまりは、俺の世界を崩壊させた、俺を黄泉返らせた神の罪を暴く事だ。そのための力は、すでに右手に宿っている.


["最終神託:継承の果実"]


 神から噴き出る力の奔流が、その手に凄まじい勢いで収束していく。集まって行く力は、ある一つの果実を模って行く。俺達の世界では知らぬものなど殆ど居ないであろう、あの有名な果実――


――林檎。原罪の象徴へと、その力は姿を変えていた。

いやー疲れた…正直,こういう重い話は苦手です.

もう,シリアス一辺倒!って感じですもん.

次回でやっと,この雰囲気から逃げれます.


さて,今回みたいなのがお好きだった方には申し訳ありませんが,


次回からは雰囲気ががらりと変わる……と思います.


ではでは

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