第一編 1−1
不完全って、悲しいよね・・。
黄金の膝まである長い髪。
それを、鮮やかな赤いリボンで左右後方両サイドで結っている。
背は、とてもといわんばかりにい小さい。
透き通った青い眼に、細い手足。
透明な白い肌。
大人っぽい、白いくしゅっと、しわになっている長袖のトップス。薔薇の刺繍が目立つ。
短いデニムのスカートの中に、短いズボンをはいている。
彼女――東宝真紅は、大きな自分の家の敷地にある、池の前にいた。
東宝家は、山を何個も持っているような大きな家柄である。
その中の、令嬢なのだから当然おとなしいイメージを持つ。
――いや、それは一時の思い込みなのだ。
全ての令嬢が、おとなしい・物静かだと思うのは間違っている。
真紅の場合、一度脱走したことがあった。
そのときは、家の者全員で追いかけたが、とうとう捕まらなかった。
まだある。
真紅はなんと、家の周りに、ありえなく深い(大体7〜8m)の落とし穴を10個以上は創った。しかも一晩で。
そして、まだある。
真紅の場合、料理が下手であった。
小さい頃から英才教育を受けてきた真紅。
頭は、小六の体で東大の学力はある。
なのに、料理などの家庭科はどうしてもダメであった。
クッキーでハートを作っても、絶対に岩形になってしまう。しかもマズイ。
家のメイドさんが一度食べた。
すると、そのメイドさんは1ヶ月間苦しんだそうだ。
まだあるが、説明していると、時間も生きている時間も消える。
真紅は、池に写っている月を見ていた。
なぜか、ホンモノよりも面白かったからだ。
風が吹くたびに、月が揺れる。
「――――・・・様・・!」
ピクッ、と真紅の体が揺れる。
「お嬢様―――!どこですか――!?」
ワイワイとざわつきが近づいてくる。
――家の者だ・・!
真紅はそう思った。
だが、動きはしない。
ここは、絶対に見つからない。
――ここは、異世界・オーリエンだからだ。
常人じゃ見つけられない。
真紅がここを見つけたのは「あの日」の直後であった。
「あの日」とは・・真紅の両親が死んだ日である。
真紅の両親は、まだ、真紅が幼い頃に死んだ。
謎の炎に焼かれ、死んだ。
真紅が、光を失い、彷徨っていた時である。
突然、魔方陣が現れた。
この魔方陣は普通の魔法陣に、もう一つ、周りが付いていた。
真紅が近づいたと同時に、周りが回った。
その瞬間、謎の扉が現れ、それがここへの入り口というわけであった。
「はぁ・・・」
真紅は見飽きたのか、近くの木に腰掛けた。
ホンモノは完全だ。
ニセモノは不完全だ。
真紅はどちらかというと、不完全のほうが好きである。
実際、真紅は普通の人間とは違う。
「失敗作」である。
生まれる前の真紅は、もう、自分の父親の手によって力を埋め込まれていた。
不思議な力・謎の力・可笑しな力。
――失敗作は使えない。
そう、真紅は聞こえた。
「――――――――?」
どこからか、人の気配がした。
・・・・・・気のせい?
真紅はそう思った。
ガサ・・ガササッ!
確かに、人の気配がしたし、音も聞こえた!
真紅は不思議と怖くは無かった。
むしろ、殺人鬼ならば、殺してほしいと思っている。
が、殺人鬼でもなんでもなかった。
ただの――少年であった。
真紅より、1歳ほど大きいらしい。
少年は、オレンジ色の頭をしていて、少し長い髪だ。
眼は、髪の色よりも少し濃い、オレンジ。
服は流行という感じの服であり、真紅を見つけると、大きいフードを深くかぶった。
「・・・・誰?」
真紅が聞く。
少年は顔が見えなくても、驚いているようであった。
「オマエ・・ここの住人じゃねーだろ・・むしろ・・オマエ・・男・・?」
「・・はあぁ?」
真紅は、眉をしかめた。
「何言ってんの?大丈夫?あたしは、女だよ。正真証明の、ね」
「女・・・・・・・?」
「そう、女」
しばらく二人の、間に沈黙が流れた。
真紅は、首をかしげる。
何?この人・・可笑しい。女も知らないなんて・・。大丈夫かな?
真紅はそう思ったが、口には出さなかった。
その時、ガサ、ガササッ、と茂みが揺れた。
「!」
少年が、揺れたほうを見る。
灯りがちらほらと見える。
「やばっ・・」
少年は、素早く木の上に隠れる。
真紅の口を塞ぎながら。
「ふぐ〜〜!?ふぐ〜!」
真紅はわけの分からないまま、叫ぶ。
「黙れ。殺されるぞ」
少年が声を押し殺して言う。
「!」
真紅の体がその言葉を聴いて、止まった。
が、すぐに後悔の念に襲われた。
なんで?あたし・・死にたいのに・・。
何で、止まってるの?
可笑しいよ・・もしかして・・まだあたし・・
「・・・嘘」
真紅は、すぐ傍にいる少年にも聞こえないようなとても小さな声で言う。
「何か言った?」
真紅は首を左右に振る。
少年はそれを見て、「そうか」といってすぐに、灯りの方を見る。
――ナンデ?
真紅は、硬直した。
今のは、真紅の声では無い。
似ているけど違う。
もっと、冷たい、押し殺したような声。
真紅は、上を見る。
ゾクッ!と、背筋に冷たいものが走る。
真紅が見たのは、とても冷たい、怖い顔であった。
眼には光は無く、ただ、赤く・つまらないものを見るような眼であり、一つ一つの動きは、まるで何かを切っているかのように、動いている。
大きなフード付きの、黒いマントの下に、赤いタンクトップと、赤くベルトが付いた、かなり、だぶだぶな長ズボン。
真っ赤なほど赤く、長い髪。
髪についている、小さな鈴が、風に揺られ、リンッと、鳴る。
――危ない。
真紅は、一瞬でそう感じ取った。
しかし、今は逃げられない。
「ダイジョウブ・・・イマハオソワナイカラ」
少女が冷たい声で言う。
「えっ・・?」
「イマハオソワナイ・・でも、次は・・・覚悟しておくんだね」
少女・・いや、よく見れば少年が真紅の前に一瞬で現れそう言った。
「―――――――誰?」
真紅はこの状況の中でも、名を聞いた。
「・・ボクは、グレン。この世界をいずれ支配するものだ」
少年――グレンは、薄く笑うと、消えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
真紅は一気に体の力が抜けたのが分かった。
「どうした?」
「・・・・・・・・・なんで・・・も・・・無い」
真紅はそういったもの、ひどく動揺していた。
少年は、心配そうな顔をした。
それに気づいた、真紅は「大丈夫だよ」と小さく言った。
灯りもようやく言った頃、少年は言った。
「今日は、家に来い。オマエ・・精神的に危険だから」
精神的というのは、今の真紅にピッタシの言葉であった。
真紅は、ひどく動揺していて、動けはしない。
というより、気を失いかけていた。
「はあ〜〜〜〜〜・・」
少年は、大きなため息をつくと、真紅のほうへ向いた。
今の真紅は、まさに「壊れた人形」であった。
少年は、真紅を抱きかかえると、またフードを深くかぶり、木をわたり、家に向かった。
ガチャ、と街角の少し古びた家のドアが開かれる。
「ただいま・・」
少年はぶっきらぼうに言う。
「おっ、おかえり〜!キセ!」
「・・やっと帰ったか・・遅かったな」
「ホントだよ〜!捕まったかと思ったじゃん!・・・ありぃ?」
家の中に居た4人の少年は、少年―キセのドアを開けた音により、いっせいにドアの方を見た。
そしてその中の一人、がキセが抱いている、少女――真紅に気づいた。
「・・およよ?誰?コイツ〜・・・まさか、浮気!?オレという存在がありながら〜!!」
「なんでだよ」
キセは、飛び掛ってきた少年――ミゼルを、ピンッと、でこピンで弾き飛ばす。
「うぅ!!この浮気モン!」
「・・キセ、誰だ?」
「・・・さあ?さっきあったばっかし。ただ、男じゃない」
「・・・・?男じゃない?どーいうこと?」
「さあ?」
中に居た少年4人は、顔をしかめる。
キセは、相変わらず、ぶっきらぼうに言う。
そしてキセは、近くのソファーに、真紅を置いた。
その時、なぜか、ソファーから飛び出ていた、針金に真紅の胸元の服が引っかかった。
「・・・・?」
キセはそれに気づいていなく。
横に寝かせようとする。
ビリビリビリッ!と、真紅が起きていたら、やばいことになりかねない音が部屋に響いた。
「あっ」
少年――レージが、「やっちゃった」という顔をする。
「!」
キセは、思わず眼を大きく開けた。
「どうした?」
少年――ナキアが聞く。
「いや・・これ・・薔薇の・・あざ・・?」
「薔薇のあざ?」
その瞬間。
ブワアッ!
と、辺りを輝く赤いものが覆った。
「・・薔薇の花びら・・!?」
その瞬間、薔薇の花びらが一斉に消え、中から赤く光る、神秘的な小さな少女が現れた。
『こんばんは・・我が主人の秘密を知った者』
少女は、にっ、と笑って言った。
「我が主人の秘密!?」
『そうです。私の主人・・真紅様は、人間ですが、人間ではありません。そう、例えて言うならば・・・「ドール」・・「生きた人形」です』
「生きた・・・人形?」
『そうです。この力は、真紅様のお父様・ミゼラール様が埋め込まれたものです』
「父親に・・・・・」
『このあざは、その証拠』
少女はそう言うと、すうっ、と消えていった。
その刹那、真紅は目を覚ました。
そして・・。
「!?・・・・み・・見た?・・スイラーム・・を・?」
キセはコクリと頷く。
「―――――――――っっ・・」
真紅は言葉を一瞬失った。
悲しみに満ちた顔であった。
「スイラーム・・・・」
真紅は眼をギュッと、瞑った。
そして、
「お願い・・・忘れて・・」
真紅の眼からは、透明な雫が落ちた。
「お父様・・・なんで、あたしだけ・・こんな「不完全」なの・・?」
真紅はポツリと言った。
そして、真紅はとうとう泣き出した。
「お父様・・なんで?お父様・・」
そう小さく何度も呟きながら。
そのとき、真紅の前に手が差し伸べられた。
「泣くなよ」
キセであった。
「そうそう!人生明るく!」
異常に明るい少年――ミゼル。
「そーだよ。ほら、食べる?」
お皿を持った、
レージがスープを差し出す。
「これうまいよ、絶対元気出るって!」
ミゼルまでとはいかないが、明るい少年――ナキア。
「泣いてちゃ、ダメ。明るくいかなきゃ」
この中で、キセの次にしっかりしている少年――ルイーゼ。
「あっ・・・・・」
真紅はいつのまにか、涙が止まっていることに気づいた。
真紅は服で涙を拭い、5人のほうを見る。
「・・・・ありがとう・・」
「どういたしまして」
ルイーゼが軽く、挨拶をする。
「でもさ、お礼に・・いいよね?」
ミゼルが、おいしそうなものを見るような目で真紅を見た。
「?」
「別にいいんじゃない?」
「そう?じゃあ・・」
ミゼル達が、真紅の周りに寄ってきた。
「いっただきま〜す★」
5人は、真紅の頬にキスをした。
「うわっ!おいし〜い!」
「うん・・すごいじゃん」
「え?え?えぇ!?」
真紅は何がなんだかわからなかったが、キスされたことはしっかり覚えていた。
一体何なの!?この人たちぃ〜〜〜〜!!!
ちなみに、「グレン」は、「グ」にアクセントをつけて
・
「グレン」と呼んでください!