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第8話 なんかまた色々出てきたな……あっ、更なる強敵の出現――!

 奈子が振り返ると、そこに立っていたのは、格闘技とおぼしきいかにもな道着を身につけた大男――そういえば奈子がこの競技場に訪れた際に見かけた人物だが、まさかサッカー(袋詰めする方)の選手だったとは思わなかっただろう。


 そんな筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)で格闘家風の大男が、開いた大口おおぐちと同様の大声で自らを主張し始めた。


「オレっちは大嵐――人呼んで《暴威の大嵐》! そこの《激情の大門》を倒したのァ、このオレっちだぜ! どうだァ、驚いたか!? ぐわーっはっはっは!」


「倒したっていうか、大門さん勝手に自滅しただけでは?」


「ぐわーっはっはっは! 吠えるじゃねェか可愛らしいお嬢ちゃん! だがよォ、これを聞いてもビビらずいられっかァ……?」


 ニヤリ、大口の端を吊り上げて笑いながら、《暴威の大嵐》が告げた。


「ダークホースの女子高生、アンタの二回戦の相手は――この《暴威の大嵐》よ。どうだ、ビビっただろォ……? ぐわーっはっはっは!」


「そうですね……すごいイヤです……暑苦しいし……」


「ぐわーっはっはっは! ビビってる顔もなかなかキュートじゃねぇかァ~! こいつァ試合で負かすと、どんなイイ声で鳴いてくれんのか楽しみだぜェ~! ぐわーっはっはっは!」


「……はあ、ノリが……なんかもう、しんどいですね……」


 さすがに激戦を生き抜いたサッカー選手(袋詰めする方の)を前にすると、そのオーラに気圧されているのだろうか。元々が内気で気弱な奈子が、意気消沈していくのが見て取れる。


 と、続けてその場に響いたのは、どことなくしわがれた声だった。


『ほっほっほ……これこれ、お若いお嬢さんを、あまり怖がらせてはいかんぞい』


「! その声は……出やがったな、妖怪ジジイ……!」


《暴威の大嵐》が揶揄やゆする通り、現れたのは老人――だが、深く刻まれたしわは歴戦の証か、笑みの奥で光る眼差しは鋭く輝いている。


 見るからに好々爺(こうこうや)という風情の老人が、自身の顎先から延びる長い白髭を弄りつつ、何者なのかを明かした。


「ほっほっほ……名乗るほどでもありゃせんが、ワシは《おきな》……人からは〝名伯楽めいはくらく〟などと呼ばれとるが、何の変哲もない、ただのジジイじゃよ。ほっほっほ……」


 そう名乗った《翁》に、しかして《暴威の大嵐》は舌打ちした。


「チッ……何がただのジジイだ、前回の対戦でオレっちを完封かんぷうした化け物がよゥ……オレっちはなァ、アンタにリベンジするために修行を重ねてきたんだぜェ~~~エ!?」


「ほ。そりゃご苦労さん。そんなことより、ふむ……栄海さかみ奈子なこちゃん、じゃったかの?」


「え? あ、はい、私ですか? えっと……《翁》さん、でしたっけ?」


「なに、ジジイでもなんでも良いよ。それより……ふむ」


 暑苦しい大男は、ほぼ一言で流し――《翁》は奈子をしげしげと眺め、うんうん、と頷いた。


「なるほど、木郷きざとくんがコーチングしておるだけあって、良い目をしておる……キミからは確かに、サッカー選手の素質を感じるのう……」


「いえこの人、ロクにコーチングしてくれてませんし、私も袋詰めの素質とかにそこまでこだわり無いんですけど。……それよりおじいさん、立ちっぱなしだと疲れませんか? 良かったら、座ってお話しても大丈夫ですよ?」


「しかも老人に優しい……最高の素質じゃな……!」


 感銘かんめいを受ける部分がサッカー(袋詰めする方)と関係ない気もするが、さて《翁》への態度が(比較的)柔らかい奈子を見て、晃一が腕組みしたまま問う。


「フッ……奈子よ、どうやらキミも《翁》が只者ただものでないと見抜いているようだな。そう、《翁》は〝名伯楽〟と呼ばれるほど人を見る目も確かだが、本人のサッカーの実力も一流……何せ《色欲の大罪》を下したのは、提出台の上にちゃんとレジ袋を置いた彼なのだから……!」


「なるほど、比較対象がアレな方々ばかりなので、ちゃんとした方式で勝ったっていうのは比較的すごいですね。……あと別に実力だかを見抜いてるとかじゃなく……他の落ち着きのないアレな方々に比べれば、だいぶ落ち着いてる方なので、安心するだけですよ。……あとコーチさんも、安心できない人の枠組わくぐみですからね、いまだに」


「フフッ!」


「笑いごっちゃないんですよ」


 奈子と晃一が師弟の会話を交わしていると、今しがた自己紹介を終えた《暴威の大嵐》と《翁》が、次の試合の準備へ向けて去っていく。


「そんじゃァ、オレっちはコレで失礼すっぜ……首を洗って待ってな、ダークホースの……女子高生! さんよ。その男心を惑わす狂おしい称号ごと、オレっちのモンにしてやるぜ! ぐわーっはっはっは!」


「死んでも絶対イヤです」(本日二度目)


「ほっほっほ。ではの、奈子ちゃん……決勝戦で会えることを楽しみにしておるぞい」


「あっ、はい。お体には気をつけて~」


 次の対戦相手である《暴威の大嵐》には一切目を向けず、一方で《翁》には和やかに手を振り、別れていく。

 そんな二人が去って少しは静かになったところで、晃一は奈子に尋ねた。


「……どうだ奈子、キミの次の相手は、あの《暴威の大嵐》……見ての通りのパワーファイターだが、何か思うところはあるか?」


「……そうですね、思うのは……」


 ほんのちょっぴりだけ考えた奈子が、素直に口にした言葉は。


「〝オレっち〟とかいう一人称が本気で鼻につくのと、あと全体的に心の底から生理的に受け付けない感じです」


「フッ……余裕だな、さすが未来の《サッカーの女王》だ!」


「あと色んな異名いみょうを持った変な人達を見てきた今となっては、その《サッカーの女王》とかいうのも呼ばれたくないんですけど」


 さすがは奈子、《サッカーの女王》となる女――まだ道半ばの身で呼ばれたくはない、呼ぶならじつを得てからだと、そういう心意気の表れであろう。


 間違いない。


 ……さて、《卑劣なる蛇助》は倒れている《激情の大門》に肩を貸しつつ、いやらしいニヤけ顔を浮かべつつ去っていく。


「さァ~て、あっしもこれにて退散しやすかねェ。ダークホース女子高生の実力、観客席からたっぷり拝見させて頂きやすよォ……せっかくならパンチラの一つでも拝みてェもんでゲスがね、イヒヒッ!」


「卑劣っていうか、ただのスケベ野郎ですね。そのツラ二度と見せないでください」


「イヒヒッ……イイでゲスね、内気な美少女の蔑んだ眼差し……たまらんでゲス♪」


「あっはい、別に美少女じゃないですけど、ただ確かに私は内気で気弱ですが……でも何でそれが知られてるんです? まさか他の人も周知を? やめてくれませんか人の情報を勝手に、気持ち悪い」


 ……内気で、気弱……。

 ……とにかく! 二名の負け犬(オブラートな表現など不要)がそそくさと退散した後、残った《色欲の大罪》ことイロカが奈子に語りかける。


「ウフフ……それじゃワタシも、失礼しようかしらァ? 奈子ちゃんの試合、楽しませてもらうわ……いいえ、一回戦突破の強者だものねェ……これからは奈子お姉様とでも呼ぶべきかしらン♡」


「ちょ、や、やめてくださいよ……年上のお姉さんにそんな風に呼ばれるの、本当に居心地が悪くなるんですけど……」


「へ? アナタ女子高生ってコトは、高校生よね? ワタシ、中学生よン?」


「は? ……は!? え、いや待っ、だっ、は……は!!? ちょ待っ、だっ……スタイルとか、雰囲気……中学生!? ……うちの妹と同じ!?」


「ウフフ、それじゃ応援してるわねェ~ん……奈子お姉様♡」


「…………」


 ちょ、待てよ。……ちょ、待てよ!! …………。


 すいません取り乱しました。さて奈子が今日一番の絶句を見せている折、晃一は構わず問いかけた。


「ほう、奈子、妹がいるのか?」


「……あっはい、中二と小五の二人が……あっクソっまた個人的な情報を迂闊にも!」


「ほほう、未来の《サッカーの女王》の妹か……サッカー選手(袋詰めする方)の素質に期待が高まるな……!」


「一歩たりとて近づかせませんからね!? 絶対ヤメロくださいよ!」


 奈子、言葉遣いが心配。


 ……それにしても《色欲の大罪》、中学生……中学生か……。

 …………。

 ……ええ……?


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