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第3話 驚愕の四天王、現る! この競技にこんなに人が集まるんだっていう驚愕

 奈子と晃一の前に現れたのは、三人の男女――初めに声をかけてきた女性が、どこか艶めいた色気のある笑みを浮かべ、奈子を見つめる。


「ふゥん……有名コーチと一緒のトコを見ると、どうやら貴女が教え子みたいねェ……今回の大会に参加するのかしらァ? 楽しくなってきたじゃなァい……♡」


「いえ私、何も教えてもらってないので教え子ではないんですけど……あ、あの、あなた達は一体……?」


 ぺろり、舌なめずりを見せる妖艶な女性に、奈子が戸惑っていると――後ろで堂々と腕組みしている晃一が答えを出した。


「ほう、四天王が早速のお出ましとは――面白くなってきたな」


「え。……四天王? って……なんの、ですか?」


「サッカーのだ」


「それは、球を蹴ったりゴールを決めたりとかする方の?」


「商品を袋詰めする人たちのことだ」


「………………」


 理解が及ばないのか絶句する奈子に、けれど四天王と呼ばれた人物たちはお構いなしで――今はまだ三人組の内、まずは先ほどから話しかけてくる、唯一の女性が進み出た。


 起伏に富んだボディラインを惜しみなく強調し、妖艶な笑みを浮かべ、奈子を見つめて舌なめずりをしながら――彼女は右目でウインクする。


「ワタシは四天王の紅一点こういってん――人呼んで《色欲の大罪》イロカ――対戦相手も観客も、ワタシの魅力でイ・チ・コ・ロ……よろしくねェん♡」


 続いて前へ出てきたのは、まるで相撲取りを思わせる恰幅の良い大柄な男で――いかにも豪快であると示すように、威勢の良い大声を発した。


「ぐわっはっは! おいどんは大門――人呼んで《激情の大門》でごわす! パワーとフィジカルなら大会屈指! 可愛らしいお嬢ちゃん、逃げるなら今の内でごわすよ!」


 アッ更に更に、一見慎ましく控えていた男が――舌なめずりをしながら、イカにもタコにもいやらしい目つきで、薄ら笑いを浮かべて言う。


「イヒヒッ……あっしは人呼んで《卑劣なる蛇助》、四天王なんて大それた御方々《おんかたがた》と並ぶなんざ、烏滸おこがましくていけねぇでゲスなぁ……フェアプレーだけが取り柄のケチな男なんで、どうかお手柔らかにお願いするでゲスよ……可愛らしいお嬢さん♪」


「…………」


 四天王と呼ばれた三名から一通りの自己紹介を受けても、奈子は呆然と沈黙し続けているが――空気の読めねぇ男・晃一は奈子へと耳打ちする。


「いいか、奈子、特にあの《卑劣なる蛇助》には気を付けろ……フェアプレーなどとのたまっているが、その実は試合中に相手を妨害するような、反則行為を平然と行う危険人物だ。いいな……奴に気を許すんじゃないぞ」


「…………へっあっ、は、えっ? あ、えと、何ですか?」


「いいか、奈子、特にあの《卑劣なる蛇助》には気を付けろ……フェアプレーなどとのたまっているが、その実は試合中に相手を妨害するような、反則行為を平然と行う危険人物だ。いいな……奴に気を許すんじゃないぞ」


「あっすっすいません、ご丁寧に再度、しかも長いのに。……で、でもあの耳元で囁くのやめてくれます!? ぞわぞわして変な感じになるんですってば……もうっ!」


 若干、顔を赤くしつつ晃一を押しのけた奈子が、そそくさと耳元の髪を整える素振りをする。

 ……ちなみにそんなことをしている折、四天王(三人)も何やら会話していた。


「がっはっは、フェアプレーとは良く言ったもんでごわす。……というか発言内容が若干かぶってることに苦言を呈したいでごわす。可愛らしいお嬢ちゃんとかは、おいどんが言ったでごわすが? かぶせてくんの、やめてくんないごわす?」


「へっへっへ、こいつぁすいませんね大門のダンナ。でも、まあ……本当に可愛いじゃないでゲスか。なかなか見ない逸材でゲス……しかも女子高生って、ねえ……ねえ~?」


「おのれ、何たるゲスでごわす! ……でもまあ確かに、めちゃ可愛いごわすなぁ……おいどん、この大会で優勝したら、お近づきになりてぇでごわすわ~」


「いいゲスよね……」

「いいごわす……」


「男ってバカよねェ~」


 ちなみに奈子自身に全く自覚はないのだが、真実、彼女は〝美少女〟と呼んで差し支えない――どころか、その程度の呼称では足りないほどの容貌の持ち主である。


 落ち着いた性格は上品な顔立ちに現れているようで、流れるストレートの黒髪は清廉な印象を強く引き立てていた。大きくつぶらな瞳は吸い込まれるような魅力を持ち、もし気弱な性格でなければ、一体どれほどの浮名を流していたことか――


「ま、全くもう……本当に気を付けてくださいね? 耳はちょっと、その……弱いので。コーチさん、わかりました?」


「フッ……」


「あとその無意味に〝フッ〟とか言うの控えてくださいね。結構イラッとくるので。わかりましたか? コーチさん。聞いてますかコーチさーん?」


 ……まあ、あんまり気弱な感じじゃ、なくなってきた……気はしますけどぉ……。


 ……いや、これはサッカー選手としての一歩を踏み出しつつある、奈子の感情の変化が表れている証拠ではないか。ならばこそ、コーチたる晃一の指導の賜物と言えよう。

 本人が聞けば全力で否定しそうだが、それはともかく――奈子がそろそろ話を本題に戻す。


「というか……四天王と言いつつ、三人しかいないんですが……あと一人って」


『ファーッファッファ……余を呼んだかね、可愛らしいお嬢さん?』


「いえ別に……来ないなら来ないほうがありがたかったですけど……あとさっきから皆さん、特徴的というか……その、変な口調? 無いとダメなんですか……?」


 流れるようにツッコむ奈子だが、四天王最後の一人は待ってなどくれない。



 現れたのは、何やらエジプトの王族でも意識したような、アクセサリー(見るからに金メッキ)をジャラジャラと身に着けた男。顔は日本人である。

 何より印象的なのは――顔面部の開いたツタンカーメンを模したマスクを、兜のように被っている奇異な出で立ちだ。顔は日本人である(大事なことなので二度)。


「ファーッファッファ……余こそは人呼んで《鉄壁の守護者》! 余の鉄壁の守護の前に、対戦相手は成す術もない……嘆きの呪いを聞くが良いわ――!」


「そうなんですか。すごいですね」


「ファッファッファ……冷静ぶっているのも今の内だぞ、可愛らしいお嬢さん。其方そなたにとって恐ろしい事実を教えてくれよう……本日、飛び入り参加の謎の女子高生よ……其方の相手は、今大会の優勝候補の一と目される、この余なのだ――!」


「インドなのかエジプトなのか……どっちにせよ、凄まじく日本人じゃないですか……って、対戦相手、ですか? ……ええ、それは……純粋にイヤなんですけど……いえまあ、この中の誰に当たってもイヤだったと思いますけど……」


「恐れを知るか、殊勝しゅしょうなことよのう……だが最早、賽は投げられた――逃げられると思わぬことだ、ファーッファッファ!」


「ええ……帰りたい……私こんな良く分からない競技? で……こんな〝一人お祭り〟みたいな良く分からない人と対戦するんですか……? ヤダなあ、もう……」


 文句を言いつつ、問答無用で帰りはしない辺り、奈子は付き合いが良い気もする。

 さて、一方的な宣戦布告を終えた《鉄壁の守護者》が、奈子に背を向けて去って行く。


「では舞台で会おう、可愛らしいお嬢さん……まあその時は、キミが敗北する時だが……ファファファ、なに、安心するがよい――キミを倒した暁には、妃として迎えてやろうぞ! ファファファ……ファーラオファラオファラオッ!」


「死んでも絶対イヤですし、その妙な笑い方、やり辛くないんですか?」


「ファラオファッォ……ォゲッフ!? ゲホッ、ファゲッホゲホゲホウップ」


「笑いにくいんじゃないですか……喉を傷めて二度と高笑いできなくなればいいのに……」


 まあまあ辛辣な物言いの奈子――そうだ、既に戦いは始まっているのだと、奈子はサッカー選手の本能で理解しているのだ。間違いない、さすが未来の〝サッカーの女王〟である。


 さて、会場側へと消えていった《鉄壁の守護者》を追いかけるように、他の四天王の面々も去って行く。


「オイコラ《鉄壁の守護者》待たんかいでごわ~す! あの可愛らしいお嬢さんはおいどんが先に目ぇ付けてたんでごわすぞ~! いっちょ揉んでやろーかでごわーす!?」


「へっへっへ、背中に気を付けるんでゲスねぇ……可愛らしいお嬢さんを独り占めしようなんざ、ゲスの風上にもおけねぇでゲスよォ……?」


「後の祭りならぬ、アホの祭りねェ……あっ、それじゃねェ、可愛らしいお嬢さん――チュッ♡」


《色欲の大罪》イロカが特に意味のない投げキッスを送り、四天王たちはようやく去って行った。

 さて、そんな彼らを見送った晃一が、真剣な声色で奈子へと告げる。


「行ったか……さて、どうだった? 奈子……恐ろしいか?」


「はい、凄く恐ろしいです……あの異様な濃さとか、すごく無理して変な口調にしてる感じとか……〝なんで?〟という疑問が尽きず、恐ろしすぎます」


「フッ、無理もない……歴戦の猛者のオーラを、奈子は感じ取っているのだろう。そう、奴らは誰もが……一流のサッカー選手だからな!」


「球技のほうのサッカー選手の方達に謝りましょうね? はあ、もう……というか、参加者は今の四天王さん達ですか? 何だかもう見ただけで、おなか一杯で――」


「いや、この大会は総勢8名で行われるノックアウト制のトーナメント方式――だから四天王と奈子を含めて、合計八人いるぞ」


「はい? えっ、八……えっ他に三人もいて、そんな暇人が合計八人も!? あいたっ、私自身にも刺さった今のツッコミ……て、何ですかそれ、一体誰がそんな大会を見ると――」


「観客のことか? それなら――見ろ、ちょうど観覧席が開放される時間だ」


「えっ? ……えっ……え。…………えっ?」


 国立競技場の敷地内に、ぞろぞろと列を成して入ってくる人々――〝今から何か他の試合でもあるのかなぁ〟とやや逃避気味に考えていた奈子だが、向かう先はどうやら室内競技場。


 そこは今から、奈子も向かう予定の場所で――まるでサッカーチーム(球技の方)のサポーター達を彷彿ほうふつさせる人々が、口々に言葉を交わしていた。


『いやー、今日はどんな試合が繰り広げられるんですかな~。いやワシの生きがいなんですよ……サッカーの試合を観るのは!』

『今日は女子高生がダークホースとして飛び入り参加を決めたようですからねぇ……四天王たちもダークホースですし、他にも恐らく全員がダークホースだとか……いやー〝闇の大会〟と名付けて歴史に名を刻むべきですかなガハハ』

『要チェックでやんす……未来のファンタジスタの誕生を、要チェックでやんす!』


 やいのやいの、とりとめのない会話を交わしながらも、どうやら本当にサッカー(袋詰めの方)の観戦が目的らしく――大衆が、室内競技場の入り口へと呑み込まれていく。


 それを見送った奈子は、暫し呆然としていたが――やがて震える口から、声を漏らした。


「こんな……こんな良く分からない競技に、四天王だとか、観客だとか、そんなに人が集まるなんて……そんな、そんなのっ……」


 信じられないのだろうか、否――恐らく奈子が震えているのは、武者震い。自身が飛び込む〝サッカー〟の世界が、想像以上に大きいのだと、それを実感し――けれど恐れではなく、高揚による武者震いを抑えられないのだ。


 そんな未来の《サッカーの女王》と呼ばれるに相応しき、今はまだ少女たる奈子が――真っ直ぐに射貫くような目で、晃一を見つめて言い放った。




「正気ですか?」


「フフッ、奈子! フフフッ、奈子!!」


「なんですか、人の名前を変な感じで呼んで……やめてくださいよ、本当」




 あの、アレだ……正気にて大業は成し得ぬという、《サッカーの女王》らしき鼓舞を言葉にしたのだろう。流石だ。


 さて、ついに開催を目前とした〝サッカーの大会〟。

 波乱の幕が、今まさに開けようとしていた――!


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