第一章 : ノクスと使い魔契約①
レイさんにノクスの存在がバレた日の夜。
小屋の中は静かで、外の虫の音だけがかすかに響いていた。
私はいつも通り、日記を書き終えてからベッドに潜り込む。
「……ノクス、おやすみ。」
足元に丸くなっていた黒猫に声をかけると、
「みゃあ。」
小さく返事が返ってきた。
それが、なんだか少しだけ嬉しくて、幸せな気持ちで目を閉じた。
どれくらい時間が経ったのか。
ふと、目が覚めた。
暗闇の中目を凝らしてみるとノクスが居ないことに気づき、こっそり部屋を出る。
すると、真っ暗なはずのリビングから何やら話し声が聞こえる。
「君さ~~~~~~~しょ。」
扉があるせいで何を言っているかは詳しくわからない。
「……?」
誰に対して話しているのだろう、そう思った瞬間にふと気づく。
ノクスだ。
ノクスの居場所が分かったとこでもう一度眠りにつこうと自室に戻ろうとした。
その時。
「変なことしたら、止めるからね。」
そう言うレイさんの声が聞こえた。
その声はとても頼りがいのある安心できる声で、凄く嬉しかった。
そして私は眠りについたのだった。
翌朝、リビングへ行くと何やら不穏なものを用意しているレイさんが居た。
「おはようございます。何用意してるんですかこれ。」
「あ!おっはよ~!これねぇノクスを結ちゃんの使い魔にする為に必要なんだ!」
使い魔って......あの、漫画とかに出てくるような?
「使い魔......?」
「あぁ!使い魔はねぇ契約者が意思をもって従わせることのできる......お供みたいな?」
やっぱりあの使い魔だ。
「なんで使い魔に...?」
「やっぱさ、結ちゃん救世主なわけじゃん?多分使い魔にでもしない限り彼殺されちゃうよ。ノクスにも許可取ったし!」
そっか、ノクスは魔物......なんだもんね。
「まぁノクスみたいな上位種....本来は結構使い魔にするの大変なんだけど、結ちゃんなら大丈夫でしょう!」
レイさんは床にしゃがみ込み、持っていた袋からいくつかの道具を取り出した。
赤い粉末。
透明な液体の入った小瓶。
それから、見たことのない紋様が刻まれた大きな薄い板。
「えっとねぇ、まずは簡単な契約陣を作るよ~」
そう言いながら、紋様が描かれた板にさらさらと赤い粉を撒き、さらに円を描いていく。
円の中には、いくつもの線と記号が重なり合っている。
「これ……大丈夫なんですか?」
「ん?なにが?」
「いや、なんか……すごいそれっぽいというか……危なさそうなイメージで。」
正直に言うとちょっと怖い。
するとレイさんはくすっと笑った。
「大丈夫大丈夫、ちゃんと一般的なやつだから。暴走なんてしないよ~」
その言葉は軽いのに、不思議と安心感があった。
「ほら、ノクスもおいで~」
「みゃあ」
呼ばれて、ノクスがとことこと円の中へ入る。
相変わらず落ち着いていて、
むしろ少し楽しそうにすら見える。
「じゃあ結ちゃんも、ここ」
円の外、少し手前の位置を指さされるので、言われるままに立つ。
「まずねぇ、使い魔契約っていうのは――」
レイさんは少しだけ真面目な声になった。
「契約者と被契約者が触れ合ってる必要があるのね。で、その後、〇〇の名においてこの者と契約す、シムバシ。って唱えたらおっけ!」
そう言い、レイさんはノクスの頭を軽く撫でる。
「本質は、魔力と存在を繋ぐこと。」
その言葉に、少しだけ息を呑む。
「だから無理やりはダメなんだよね。どっちかが拒否したら成立しない。」
「結ちゃんがノクスを信じて、ノクスが結ちゃんを信じる。」
「それができて、初めて契約になる!まぁ、ノクスが嫌がることはないと思うけどねぇ。」
なんだろう、思っていたよりずっと重い契約なんだな。
私は自然とノクスを見る。
黒い小さな体に琥珀色の瞳が、じっとこちらを見ている。
「……ノクス。」
小さく呼ぶと
「みゃあ」
短く返事する。
その声に、不思議と迷いが消えた。




