第一章 : 週1里帰り ~レイ視点~
「ふぅ、結さんは無事に元の世界に戻れましたかねぇ。」
彼女がここへ来てから、この辺り一帯の魔力の質がかなり上質になったように感じる。
「今までここへ何度か足を運んでいましたが、ここまで変わるとは思っていませんでしたねぇ正直。」
そう言いながら、小屋まで歩く。
「さて、結さんが帰ってくるまでに洗い物とかを済ませておかなければなりませんね。」
彼女は何処までも誠実な人だ。
たかだか一度魔物から助けただけなのに、こんな男を小屋へ招き入れることを承諾し、共に過ごしてくれるなんて。
それに、料理もとても美味しかった。
普段は自分が作る側なのであまり料理を楽しむということは考えていなかったのだが、彼女が作る料理は本当に美味で、いくらでも食べられるように感じる。
そう考え事をしながら洗い物をしていると、急にテレマギアリトスが光った。
テレマギアリトスとは、通信魔石がはめ込まれた所謂スマホのようなもので、コンパクト型をしている。
これを使えば、基本的に魔法を遮断でもされない限りどこでも通信ができる。
テレマギアリトスを開き、着信を承諾すると、大司教様が浮かび上がった。
”そちらの方はどうですか?レイ。”
レイは一瞬だけ手を止めたが、すぐにいつもの柔らかな表情に戻した。
「心配されるなんて心外ですねぇ大司教様。」
軽く水を切りながら答える。
通信越しの大司教は、静かに頷いた。
”……そうですか。流石貴方ですね。”
短い返答の中に、どこか安堵の色が混じっている。
”様子はどうでしたか?”
レイは少しだけ考えるように視線を落とした。
「……想定以上、ですねぇ。」
”というと?”
「精神性、環境への順応力、そして何より——」
少しだけ笑う。
「魔力適応能力が、突出しています。」
大司教は興味深そうに目を細めた。
”魔力適応能力、ですか。”
「えぇ。」
レイは窓の外、結がよく座っていた場所に目を向ける。
「彼女、異様に速いんですよ。魔力の習得が。過去の救世主の比にならないぐらいのペースですよ。」
レイは一呼吸おいてから付け足す。
「あんなのは、最初の救世主以来、初めてですねぇ。それこそ、生まれ変わりであったり、神かなんかだって言われないと納得できないくらいの。」
軽く肩をすくめる。
「……ああいうタイプ、一番厄介ですよ。」
”そう、厄介ですか。やはり、彼女は私たちの庇護下に置くべきですね。”
「んー、正直なところ、あまりおすすめはしませんねぇ。」
悩みながらレイはそう答える。
”何故。理由は?”
「単純ですよ。」
レイはタオルで手を拭きながら答える。
「彼女は従うタイプじゃないんですよ。きっと、一部の場所に留まらないほうが良いでしょう。」
”しかし——”
「無理に囲えば、離れますよ。」
きっぱりと言い切る。
大司教は沈黙した。
しばらくしてから、ゆっくりと口を開く。
”……では、どうするのが最善だと?”
レイは少しだけ考えてから、笑った。
「信頼、ですねぇ。まぁ、なるべく来てもらえるように私も仲良くしてますよ。」
”信頼。”
「えぇ。」
レイは窓に寄りかかる。
「彼女は、信じられた分だけ応えようとするタイプです。」
「逆に、疑われたり利用されると……」
少しだけ目を細める。
「静かに距離を取りますよ。」
”……なるほど。”
大司教は小さく息をついた。
”では、引き続き観察を。”
「了解です。」
通信が切れる直前、大司教がぽつりと呟いた。
”……レイ。”
「はい?」
”あなたにしては、随分と肩入れしていますね。今日も貴方が洗い物をしているなんてどこか面白い。話しかたも少し柔らかいじゃないですか。”
一瞬の間。
レイはすぐに、いつもの調子で笑った。
「気のせいですよぉ。」
”ま、そういうことにしてあげますよ。”
「相変わらず意地が悪いですねぇ。大司教様は。」
”貴方に言われたくはありませんよ。では。”
そう言いうと、通信が切れ、静寂が戻る。
レイはしばらくその場に立っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……困りますねぇ。」
ぽつりと呟く。
「これ以上関わると、余計な情が湧きそうで。」
そう言いながらも、どこか楽しそうに笑っていた。




