第一章 : 週1里帰り①
「ふぅ……食べた食べた!」
私もレイさんもパンケーキを平らげ、少しゆっくりしていた。
「誰かに料理を作って貰ったの、昨日今日が本当に久しぶりで。凄く美味しかったです。ありがとうございます!」
そう言うと、レイさんは満面の笑みで返す。
「これで元の世界行っても頑張れそ?」
「はい!」
「じゃー行けそ?そろそろ行かないとなんじゃない?」
ふと時計を見ると8時だった。
「あ、確かに。そうですね、行きますもう。」
必要なものは全部マジックボックスに入ってるし、どうやら地球でも使えるらしい。
気づいたらウェルナ様の書置きにその旨の内容が増えていた。
私は身一つで丘へ向かう。
丘ではカラがぷかぷか浮きながら水で遊んでいた。
「あ、いらっしゃ~い。もう地球行く?」
「さっきぶりですね、カラ。もう行きます地球。」
「ん、りょーかーい。じゃあ俺ちゃちゃっと扉召喚しちゃうね。」
そう言うと、手を空にかざし、振り下ろした。
と、同時に扉が出現し、ゆっくり降りてくる。
あの時と同じ、大きな白い扉で息を飲む美しさだ。
唯一違ったのは、扉が開いた先の景色。
「地続き、なんですね。家の庭と。」
「そ。流石に地球で魔法を頻発するわけにも行かないじゃん?てか、庭大きいね。まず家自体が大きいじゃん。俺でもこんな家住んだこと無いんだけど。」
カラの言葉に、思わず苦笑する。
「普通の家ですよ。親が少しお金持ちなだけの。」
「へぇ~。」
カラは扉の向こうの庭を覗き込みながら、感心したように言う。
「まぁいいや。ほら、行ってきな。」
私は一度だけ後ろを振り返る。
丘の向こうには、いつもの森の景色が広がっていた。
たった一週間しかいなかったのに、不思議と少しだけ胸がぎゅっとする。
「……また来ます。」
小さくそう呟いて、私は扉をくぐった。
次の瞬間。
ふっと空気が変わる。
森の匂いではなく、どこか懐かしい土と草の匂い。
足元を見ると、そこは本当に家の庭だった。
「……帰ってきたんだ。」
後ろを振り返ると、扉が消えた名残か少しキラキラしたものが浮いていたけれど、それ以外には扉と思われるものは何もなかった。
家を見上げると、カーテンは閉まっているけれど、いつも通りの家だ。
静かな朝の空気。
どうやらまだ家族は起きていないらしい。
というか、どうせ両親は仕事に行っているだろう。優羽は寝ているかもしれない。
私はそっと家の中に入る。
「ただいま……。」
誰もいないリビングに、小さく呟く。
そのままキッチンへ向かった。
冷蔵庫を開けると、案の定、食材はそこそこあるけれどすぐ食べられるものはあまりない。
「……よし。」
腕まくりをする。
マジックボックスから、森で取ってきた干し肉やきのこ、香草を少し取り出す。
「作り置き、いっぱい作っとこう。」
まずは大きめの鍋に火をかける。
冷蔵庫にあった野菜を刻んで、スープを仕込む。
別のフライパンでは肉を焼いて、甘辛いタレで絡める。
炊飯器にも米をセットして、混ぜご飯の準備。
気づけばキッチンは、朝ごはんのいい匂いでいっぱいになっていた。
「……こんな感じかな。」
タッパーに料理を詰めて、冷蔵庫に並べる。
スープ、炒め物、混ぜご飯の具、卵焼きと、一週間くらいは回せるくらいの量になった。
そのとき、ガチャとドアが開く音がした。
「……ん?」
リビングの方から、眠そうな声がする。
「なんか……めっちゃいい匂いするんだけど……。」
私は振り向く。
そこには、寝癖だらけの優羽が立っていた。
「おはよ。」
そう言うと、弟は一瞬固まった。
「……え?」
目を何度かこする。
「……姉ちゃん?」
「ん?」
「え、ちょ……異世界は!?」
「1週間に一回帰ってくるんだってば。」
弟はまだ半分寝ぼけた顔のまま、キッチンを見回す。
鍋、フライパン、並んだタッパー。
「……え、これ全部作ったの?」
「1週間分の作り置き。」
「朝から?」
「うん。」
弟はしばらく黙っていたけれど、ふっと笑った。
「相変わらずだなぁ姉ちゃん。」
そして椅子に座りながら言う。
「でも助かる。最近マジで飯適当だったし。」
私はスープを一杯よそう。
「はい、朝ごはん。」
弟は受け取って、一口飲む。
「……うま。」
そしてぽつりと呟いた。
「やっぱ姉ちゃんの飯が一番うまいわ。」
その言葉を聞きながら、私は少しだけ肩の力を抜いた。
家に帰ってきたんだな、と実感した瞬間だった。




