第一章 : パンケーキ
翌朝、私はいつもより早めに目が覚めてしまい、そのまま寝付くこともできないまま小屋の外を散歩していた。
朝の少しひんやりした空気はとても澄んでいて美味しい。
結界のギリギリまで行き、遠くに連なる山々を眺めていた。
「今日、地球に戻るんだなぁ......。」
なんてしみじみしながら伸びをし、寝っ転がって空を見る。
「「あ。」」
寝っ転がったら空が見えるはずなのに、何故かレイさんと目が合った。
私は動けずにそのまま口をパクパクさせる。
「あ、あ、あ、い、いつから居たんですか!?」
「ん~10分前くらいから?何してるのかなって思って!」
まさかそんな10分も気づかなかったなんて。
ほんと、私は人の気配に鈍感なのかもしれない。
私は座りなおし、レイさんと話す。
「私、本当に地球じゃない所にいて、本当に地球に帰るんだなってちょっと...物思いにふけってました。」
「なるほどねぇ♪……あ!今日の朝ごはんパンケーキにしよっか!折角だし作るよ!甘いのとご飯系、どっちがいい?」
なんかレイさんがいつもよりルンルンな気がする。
まぁ、作ってくれるって言うなら甘えちゃおうかな。
「じゃー......折角なんで、どっちも1枚ずつお願いしてもいいですか?あ、後、私もう少しここに居てもいいですか?」
「どっちも?なるほど~結ちゃんは欲張りと見た!じゃ、出来上がったら呼びに来るねぇ!」
そう言ってレイさんは小屋に戻って行った。
「......で、居るのはわかってるんですよ。」
そう言うと、どこからともなくいつぞやの天使が舞い降りてきた。
「あれ、いつからバレてたの!?俺、結構ちゃんと隠れてたんだけどなぁ。」
「結構最初の方からわかってましたよ。地味に風が変わったので。」
「へぇ~凄いなぁ。ま、いいや迎えに来たんだけど、いつ出発する?」
その天使は少し暇そうにしながらぷかぷか浮いている。
「ただ感情に少しだけ敏感なだけですよ。出発は......朝ごはん食べた後でいいですか?それまで天使さん、あそこの丘で待っててください。」
そう言うと、天使はどこか寂しそうな、物足りない顔をして気だるげに言う。
「えー天使さんって呼び方仰々しくて嫌だからさ、カラって読んでくんね?それが俺の名前だから。」
どうしてこうもこの世界の神様とか天使とかは名前で呼ばせたがるんだろう。
不敬じゃないのだろうか。
「嫌ですよ天界の人々を呼び捨てなんて.......。」
「えぇ?かたっくるしくて嫌なんだよ。それに、救世主って別にこの世界の人間じゃねぇじゃん。」
それはまぁ確かに。
「わかりましたよ。......カラ、これでいいですか?」
「ん、上出来。」
なんかなんか、この世界の人たちは顔がいいうえにチャラくて嫌だ。
地球の方がチャラくないし、言い方悪いけど普通の顔が多かったよ。
「あ、そうそう、地球に戻るとき、どこに戻りたい?扉の出口を決めなきゃなんないんだけど。」
「あー私の家がいいです。色々家でしたいこともあるので。」
「おっけー。じゃ、俺は丘で待ってるわ。ほら、そろそろあの青年が戻ってくるぞ。」
「あ、ほんとだ。ありがとうございます。」
そう言って、天使さん......カラが丘に戻りかけたとき、ふと振り返って言う。
「そういや、お前あいつと仲良くしてんだね。よくあんなやつと仲良くできるな。」
「.......?カラも知ってるほど凄い人なんですか?」
「あー......知らない感じ?なるほどね。まぁいいや何でもない。」
そう言って、カラは丘へ消えていった。
「結ちゃーん!朝ごはん、出来たよぉ~。」
そのすぐ後くらいにレイさんは呼びに来た。
「ありがとうございます。今行きますね。」
そうして、小屋に戻ることにした。
「わぁぁぁ!美味しそう!」
レイさんが作ってくれたパンケーキは、本当においしそうだった。
パンケーキ自体は少しふわふわしていて、上に山菜と干し肉が乗ったものと、何かの木の実だろうか、がジャムのようになったものが乗ったものの2種類があった。
「こっちは~山菜と干し肉と、塩とごま油?とか使って料理したやつ!こっちは森に生えてたベルベリーをジャムにしたやつ!ベルベリーってすっごく美味しいんだよぉ!」
そう言いながら自分の分も用意するレイさん。
私は美味しそうな匂いに、食欲を我慢できないといった顔でレイさんを待っていた。
「わ、結ちゃんすっごい顔!いいよ先食べてて。」
「いただきます!」
私はまず、山菜と干し肉が乗った方のパンケーキに手を伸ばした。
フォークで切ると、外はほんのり香ばしく焼けているのに、中はふわっと柔らかい。
一口食べる。
「……!」
思わず目を見開く。
パンケーキのほんのり甘い生地に、塩気の効いた干し肉の旨味が重なって、そこに山菜のほろ苦さがふわっと抜ける。
さらに後から、ごま油の香ばしい香りがふっと鼻に抜けた。
「ん~~!美味しすぎる!」
「でしょぉ?」
レイさんは得意げに笑う。
たまらず私はがっつくようにもう一口食べる。
干し肉は小さく刻まれていて、噛むたびにぎゅっと肉の旨味が出る。
山菜のしゃきっとした食感も残っていて、ふわふわのパンケーキとよく合っている。
やばい、美味しい。美味しすぎる。
「じゃあ次、甘い方も食べてみて。」
言われるがまま私はもう一枚のパンケーキを切る。
上にかかっているベルベリーの濃い赤紫色のジャムがとろりとする。
一口。
「……!」
今度はさっきとは全然違う味だった。
「甘い……!」
ベルベリーのジャムは、ただ甘いだけじゃなくて、少しだけ酸味がある。
その酸味がパンケーキの甘さと混ざって、口の中が一気に明るくなる。
「これ、美味しすぎて、とにかくすごく好きです!」
「ほんと?」
「はい。ジャムがすごく美味しいです。」
レイさんは少し誇らしそうに言う。
「実はね、ベルベリー結構レアなんだよ。」
「えっ。」
思わず手が止まる。
「そんな貴重なもの使ってよかったんですか?」
「いいのいいの!あるものは使わないと!」
レイさんはあっさり言う。
食に目がないレイさんらしい返答だ。
「ん~!やっぱ美味しいねぇ!」
そう言いながらレイさんも食べる。
正直、家事がうまく回っているのか、学校で私を慕っていてくれた子たちは大丈夫なのか心配だらけだったけれど、今はこのパンケーキを楽しむことにした。




