第一章 : MP切れ
「はぁっはぁっ......レイさんっ、きっついですって、今筋肉痛なのに......!」
持久力もへったくれもない女子なのに、小屋の裏にある森の中2kmを15分以内に2周しろとか言う畜生みたいな課題を課され、身体強化も使いながらなんとかギリギリで戻ってきた。
「えぇ~?だって出来たじゃん!昨日の今日だけど、上出来!」
にっこにこの笑顔で言うレイさんに対し、私は息切れしながら答える。
「いやいや......まだ、訓練始めて、3日ですよ!?正気の沙汰じゃ、無いっ......ですって......ゲホゲホ」
息切れしてるのに喋ったから最後むせてしまった。
でも本当に3日目なのにこんな難題課してくるのは鬼畜だと思う。
やばいよこの人。
「でもさぁ?これくらいかっ飛ばさないと追いつけないよ?周りに。」
「え?」
「弱肉強食の世界だからさぁ~強くならないと。救世主だとしても、使えない人判定されちゃうよ~?そしたらスラムに捨てられてぇ~......あ、結ちゃんは自分の世界に返されるだけか!」
そっか、忘れていたけれどこの世界は弱肉強食。
弱者は淘汰される運命にある敵なことをウェルナ様が言っていたっけ。
今更地球に返されたって世間から白い目で見られるだけだし。
「結ちゃんはぁポテンシャルは人の何倍何十倍ってあるけど、今の実力で言ったら良くて中の下ってところ。きっと王宮に行ってもこれと同じかこれ以上の訓練を課されるはず!」
これ以上の訓練......わかってはいたけれど、心が折れそうだ。
「だからぁ!今のうちにある程度実力を上げておかないとだなって思って!」
「早くも心が折れそうです......。なんでこんな実力主義なんですか。もっと人の内面にだって目を向けてもいいんじゃないですか?」
そう聞いたとき、一瞬、レイさんは遠くを懐かしむような慈しむような、後悔するような、なんとも言えない目をした。
しかし、すぐにいつもの調子に戻り明るく言葉を連ねる。
「そぉーした結果、無くなっちゃった人が沢山いるからねぇ。」
「そう......なんですね。」
何か事情がありそうでこれ以上は聞くことが出来なかった。
二人の間を風がざぁっと駆け抜ける。
「ま!とりあえず結ちゃんには力をつけてもらわないと困るから!頑張ってね!」
「頑張ります...けど!今筋肉痛酷くて、ちょっと休んでもいいですか...?」
そう言うと、レイさんはびっくりした顔をした。
「動けないくらいに!?わぁ......異世界の人ってひ弱だねぇ......。」
「悪かったですねひ弱で。」
でもほんとに今の走り込み(なんかちっちゃい魔物もいたからついでに倒した。)で結構一気に体にガタが来た。
「も~仕方ないなぁ!じゃあ最後に魔法の使い込みだけして軽くMP切れ起こしとこっか!」
え......?聞き間違い?MP切れ?そんな軽く起こすとか出来るの?
「ほらほら!身体強化して、MPが5以下になるまで魔法で俺のこと攻撃し続けて!」
急に言われても......と、思いながらもなんとか身体強化して体を動かしてレイさんを攻撃する。
勿論レイさんには軽々とよけられる。
そりゃぁレイさんの方が実力は上だから当たり前なのだけれど、一ミリも掠らないとなると結構むなしい。
「まぁーたく!当たらないよ!頑張れ頑張れ!」
合計何回ぐらいだろうか。
おそらく100発以上は打ったと思うけれど、本当に当たらない。
し、杖使ってるから全っ然MPが消費されない。
「あとっMPがっ《ファイアーボール》40位余ってるんですけどっ!《ウィンドカッター》これほんとに5以下にするんですか!?」
私は魔法を発動させながら聞く。
「もっちろん!ま、理由はあとで説明するからとりあえず消費して!ほらほら、喋ってると魔法が雑になってるよ!」
動きながら魔法を発動するのは結構大変で、時々魔法がわけわかんない所に飛んだりする。
「レイさんすばしっこすぎです...!」
「結ちゃんの魔法遅いねぇ笑」
「......煽らないでください!!!」
そんな会話をしながら+20発後くらい、ようやくMPが4になった。
私はドサッと倒れこみ、肩で息をする。
「はぁっはぁっようやくっ....MPがっ5になりましたっ!」
「おーお疲れ様!疲れてるねぇ。身体強化にもMP使ったしねぇ。結構体に来てるでしょ!」
レイさんは息切れしてないどころか疲れたそぶりを一切せず、にっこにこで話している。
「さ、小屋に戻るよ!」
そう言ってレイさんはひょいと私を抱えて歩き出す。
「ちょっっレイさん!!これ、お姫様抱っこ!!」
「へぇ~結ちゃんの世界ではそんな言い方してるんだ!でもほら、これが一番体にしんどい思いさせずに運べるでしょ?それとも担がれた方がいい?」
「担がれるのは......ちょっと......。」
そう言うと、レイさんは、でしょ?と言わんばかりの顔で歩き続ける。
「さ、結ちゃんの寝室失礼しますよ~。」
そう言ってベッドに私を寝かせた後、近くの椅子にレイさんは座り、今日の説明をし始める。
「さ、MPを5にしてもらった理由なんだけど~。結ちゃん、今めまいしてるでしょ?」
そう、さっきからめまいと少しの吐き気がある。
飲んだこと無いからわからないけれど、二日酔いってこんな感じなのかな~なんて思ったり。
「はい、さっきから眩暈と吐き気があります。」
「それが軽い魔力切れの状態!0になったらなったで気失っちゃうからあんまりよくないんだけどね。MP5以下になると、MPの上限を増やしやすいんだよねぇ。」
日記からMPは使えば使うほど上限が増えていくってのは知っていたけれど、5以下で増えやすくなるとは知らなかった。
「だから魔法使いまくってもらったの。まぁ後、筋肉痛なのに動かせたのは、それまたHPが増えやすいから!」
「私のいた世界では......そんなの無かったです。HPだって数値で見れなかったし。」
「えぇ!?それ、結構不便じゃない...?」
レイさんは本気で心配するようにマジトーンだった。
「まーそんな不便とは思わなかったですね。」
「そんなもんなんだなぁ。意外としぶといんだね笑」
「レイさんに言われたくないですよ...。」
そんな会話をしていると、段々眠くなってきた。
「あれ、結ちゃんおねむ?いーよー寝てて!その間に疲労回復の魔法と簡単にマッサージだけしておくねぇ!」
「じゃあお言葉に甘えて......変なことだけはしないでくださいよ!」
「だーいじょぶだって!聖職者がそんなこと出来るわけないし笑」
聖職者って...?と、レイさんの言葉に疑問を持ちながらも私は眠りについた。




