第一章 : 手紙
翌朝、起きてリビングへ行くと机の上に一通の手紙が置いてあった
”明日で1週間経つから、来たときのあの丘に来てね!あの時の天使に迎えに行かせるわ! by ウェルナ”
「そういや......もう1週間経つのか。濃いようで早い1週間だったな。」
魔法というものに初めて触れ、狩りをし、魔物に追われ、レイさんに出会う。
たった一週間なのに、起こったことが濃すぎてまるで何ヶ月もここで生活しているような感覚だった。
「……迎え、か。」
手紙をもう一度読み直す。
来たときの丘。
つまり、あの最初に落っこちた場所だ。
地球の皆......どうなってるのかな。
あの1軍女子たちが暴れてないといいけど。
私は手紙を机に置き、少し伸びをする。
「とりあえず……」
小屋の中を見回す。
レイさんの姿はない。
「また朝からどこか行ってるのかな。」
ここ最近、朝早くから森の中へ行くことが増えていた。
狩りの準備だとか、何か調べているとか言っていたけれど、詳しくは教えてくれない。
「まぁいいか。」
私は台所へ向かう。
朝ごはんくらいは作っておこう。
昨日のアゲーダの肉が残っている。
それと干し肉、パン、それから森で取れたきのこ。
フライパンに火をかけると、じゅっと油が弾ける音がした。
その時。
「わぁ、いい匂いだ!」
後ろから声がした。
振り返ると、レイさんがいつの間にか入口にもたれている。
「おはようございます。」
「おはよぉ~結ちゃん!」
レイさんは机の上の手紙にちらっと目をやった。
「なにそれ?」
「女神さまからのお迎えの手紙です。」
私は淡々と伝える。
「明日、最初に着いた丘に来てって。ここから見えるあの少し小高いとこですよ。」
レイさんは「あー」と小さく声を出した。
「あそこに、何の用で迎えに来るのぉ?もしかして、救世主辞めちゃうとか?」
「違いますよ。地球では守ってた人とか、家事を回したりとか、色々あったんで1週間に一回は帰ることにしたんです。」
「地球でも守ってたんだ!救世主らしいねぇ。」
椅子に座りながら言う。
「じゃー結ちゃんは根っからの救世主なんだ!」
「そんな大層なものじゃないですよ。これくらい、ごろごろいますよ。」
私は焼けた肉を皿に乗せながら言う。
机に置くと、レイさんはすぐフォークを手に取った。
「いただきまーす。」
一口食べて、満足そうに頷く。
「うん!今日もおいしい!」
「ありがとうございます。」
少ししてから、私は聞いた。
「レイさん。」
「ん?」
「明日……」
少し言葉を探す。
「レイさんも一緒に丘まで来ますか?」
レイさんは一瞬だけ手を止めた。
けれどすぐ、いつもの調子で笑う。
「んー。」
パンをちぎりながら言う。
「俺は良いかな!多分俺が行くべきものではない気がする。あ、明日何時に丘に行くの?」
「朝......ですかね。」
「じゃー丘の近くまでは行くね!」
フォークをくるくる回す。
「でもさぁ。」
レイさんは少しだけ目を細めた。
「この料理が食べられなくなるのは悲しいなぁ。」
フライパンから追加で肉を皿に乗せると、レイさんは嬉しそうに受け取った。
「結ちゃんの料理、ほんとすごいよねぇ!」
「昨日から褒めすぎですって。普通ですよ。ほんとに料理に目がないんですね。」
「いやいや、この世界だと革命レベルだよ!」
「そんな大げさな……。」
苦笑していると、レイさんがふっと窓の外を見る。
丘の方向だ。
そして何かを考えるように、少しだけ黙った。
「……。」
「レイさん?」
「ん?」
すぐいつもの笑顔に戻る。
「なーんでもない!ね、また戻ってくるよね?」
「また戻ってきますよ。日帰り弾丸帰省なんですから。」
「ほんと?」
「はい。」
そう言うと、レイさんは満面の笑みで言う。
「そっか!じゃー俺楽しみに待ってるね!」
なんかこのところレイさんが大型犬に見えてくる。
数日前はミステリアスな道化って感じだったんだけどな......あれ、おかしいな。
「よーし!」
レイさんは勢いよく立ち上がる。
「じゃあ今日は特別メニューにしよう!」
「特別メニュー?」
レイさんは森の方を指さす。
「結ちゃん2日分実地訓練。」
「ふ、2日分!?」
「うん。」
ニヤッと笑う。
「明日は訓練できないでしょ?」
そして軽く肩を回す。
「だから今日は——」
少し間を置く。
「森の決めたルートを2周してきてね!15分以内に!」
「……え。」
嫌な予感がする。
「そのコースの長さって......?」
レイさんは楽しそうに続ける。
「安心して!2周で4kmだから!」
親指を立てる。
なにも安心できない。身体強化なんて5分も持たないのに。
嘘でしょう?
「だーいじょうぶ!俺もちゃんと近くで見てるから!」
その笑顔が、なぜか少しだけ怪しく見えた。




