第一章 : この世界に来た理由
トレーニングが終わった後、二人で小屋の前で大の字になって日向ぼっこしていた。
「そういえば、結ちゃんはなんで救世主になったのぉ?」
レイさんが軽い調子で聞いてくる。
私は少しだけ考えてから答えた。
「……なった、というより。」
少し早く流れる雲を見ながら言う。
「ならざるを得なかった、が正しいかもしれないです。」
レイさんは「ふーん?」と相槌を打つ。
「ある日、急にウェルナ様が夢に出てきたかと思えば、何故かお茶会して。」
レイさんは聞いてるのか聞いてないのかよくわかんない「んー。」という相槌を打ちながら聞いている。
「すっごい懇願されて、こちらのお願いも結構聞いてもらったんですよ。そこまでして貰って行きませんはなんか違うかなって。それに......困ってるようだったので、見捨てられなかったんですよね。」
「なんか......テンプレ召喚と全然違うね!楽しそう!」
「テンプレなんですか……」
思わず苦笑する。
「でも。」
私は少し言葉を探す。
「最初は正直、上手くやっていける自信なんてなくて。」
「まぁ普通そうだよねぇ。」
「けど……」
自分の手を空に掲げ、見る。
「もし本当に、この世界が困ってるなら。」
少しだけ息を吸う。
「やっぱり見て見ぬふりするのも、違うかなって思って頑張ってます笑」
レイさんは黙って聞いていた。
「だから......救世主って言われても、まだ実感ないですけど。」
私は小さく笑う。
「できることくらいはやろうかなって。なんて言ってみても実際は魔物に追われるあの有様なんですけどね笑」
数秒沈黙が落ちる。
するとレイさんは急に吹き出した。
「結ちゃんさぁ。」
「はい?」
「めちゃくちゃ救世主っぽいこと言うじゃん!」
「え?」
「そういうとこかぁ!」
レイさんはにやっと笑う。
「神様が結ちゃん選んだ理由!」
そして肩をぽんと叩く。
「なるほどねなるほどね!確かに結ちゃんみたいな人が必要な世の中だもん!女神さまもよくこんなにいい人見つけたなぁ!」
そして少し間をおいてつぶやく。
「これは大司教様も離さないでしょうねぇ。」
「……え?」
聞き慣れない言葉使いに、思わずレイさんの方を見る。
「なぁ~んでもない!それよりさ、お昼ご飯食べようよ!日向ぼっこ飽きちゃった!」
レイさんはふっと起き上がってこちらを見る。
「救世主ってさぁ、結ちゃんが思ってるよりずっと……」
少し言葉を探すように間を置く。
「価値が高い存在なんだよねぇ。」
「価値……?」
私はゆっくり体を起こして座る。
「この世界ってさ、魔物もいるし、国同士もまぁまぁ仲悪いし。」
「はい。」
「そこに救世主が現れました、ってなると。」
指で空に円を描く。
「どこの国も欲しがるってわけ!」
「……」
なんとなく、嫌な予感がした。
「一応北の国って国以外は協力して魔物討伐するんだけどさぁ」
「一応何処かの国に滞在はしなきゃいけないから、住所は持つんだけどね。その国は神様の加護も強くなるしぃ。」
「政治的にもめちゃくちゃ強いってわけ!」
レイさんはあっけらかんと言う。
「そんな結ちゃんは~料理が上手だからどこの料理人よりも美味しい!」
今までの神妙な面持ちはどこへやら。
ほんとに食に目がないのだと思う。
「結ちゃんのご飯は食べられるうちに堪能しておかないと!さ、お昼お昼~!」
そう言われ、私は持ってきた調味料などを駆使してアヒージョを作る。
オリーブオイルがなかったけれど、近くにオリーブの木ならぬオーリブンの木が生えていて、ほぼオリーブと同じだったのでレイさんに作ってもらった。
そうして午後は座学をし、気づけば日も少し傾き始めていた。
小屋の中には、紙をめくる音と、たまにレイさんが木の棒で床を軽く叩く音だけが響く。
「はい、じゃあ復習〜。」
レイさんは椅子を後ろ向きにして座り、背もたれに腕を乗せた。
「魔力の流れは?」
「体の中心……主におへその辺りを起点にして、全身に循環しているもの。」
「うんうん!」
「で、それを意識して流したり、集めたりすることで魔法や身体強化ができる。」
「よくできました〜!」
ぱちぱちと適当に拍手される。
「じゃあ次。」
レイさんは机の上にあった石ころを一つ取った。
「魔力操作の基本は三つ。」
「流す、集める……」
私は少し考える。
「……放つ?」
「正解!」
石をぽいっと上に投げる。
そして落ちてくる石に軽く指を向けた。
ふわ、と。
石の落ち方が一瞬だけ遅くなる。
「今のは?」
「魔力を流して……干渉?」
「おーいい線いってる!」
石をキャッチして机に置く。
「魔力を外に放って、物体に触れさせる。それができると、物を動かせる。」
「……!」
「火も水も風も、結局はそれをちょー難しくして応用してるんだけどね!その辺は数式まみれだから俺ぜーんぜんわかんないw」
私は少し身を乗り出す。
「じゃあ……これも私もできるんですか?」
「できるよ〜。」
レイさんは顎で石を指す。
「やってみて!」
私は石を見つめる。
腹の奥の魔力を感じ、それを指先、そして石へ向かって伸ばす。
……。
…………。
石は動かない。
「むむむ……」
さらに集中する。
すると、カタッと石がほんの少しだけ揺れた。
「お!」
レイさんが声を上げる。
「今動いた!」
私は目を丸くする。
「ほんとですか!?」
「ほんとほんと。」
レイさんは楽しそうに笑う。
「結ちゃんやっぱり覚えるの早いねぇ。」
褒められると純粋に嬉しい。
けれど次の瞬間。
ぐうううう……と静かな小屋に、盛大な音が響いた。
その音の正体は私のお腹だった。
レイさんが一瞬止まる。
そして
「……ぷっ。」
吹き出した。
「結ちゃん。」
「……はい。」
「めっちゃいいタイミング......www」
「忘れてください。」
「無理ww」
レイさんは机を叩いて笑っている。
「よし!」
立ち上がって伸びをする。
「座学終了〜!」
その声に私も立ち上がる。
するとレイさんは窓の外をちらっと見た。
夕焼けが森を赤く染め始めている。
「じゃあ結ちゃん。」
にやっと笑う。
「夜ごはんにしよっか!お腹の猪が飛び出してきちゃう前にね!」
私はその言葉に豆鉄砲を食らったような顔をした後、すぐに赤面する。
「なっ誰のお腹が猪ですか!!てか、いつまでそれ言うんです!?」
小屋にはレイさんの笑い声が響いた。




