第一章 : 身体強化
「で、話を戻すと、今日の身体強化は~」
「はい……」
「じゃぁまず脚から!」
レイさんは私の前に立ち、軽く地面を指した。
「ここからあの木までダッシュ。」
視線を向ける。
……遠い。
ざっと見て50mくらいはある。
「え、普通に走るんですか?」
「違う違う。」
レイさんは人差し指を振る。
「身体強化を使って。」
「脚に魔力を集めてぇ、エンジン掛けたみたいに、爆発させるイメージで踏み込む!」
レイさんは簡単そうに言うが、まずまず手以外のところから魔力を放つのが難しいのに。
「よし!やってみて!」
深呼吸をし、腹の奥の魔力を感じる。
それを脚へ集める。
太もも、ふくらはぎ...そして、足。
「……いきます。」
意を決して地面を蹴る。
すると、ドンッと思った以上に体が前に飛んだ。
「うわっ!?」
思った以上の加速で、バランスを崩しながらもなんとか走る。
転びそうになったので、十歩ほどで止まり振り返る。
「……え?」
たったの10歩なのに、もう半分以上進んでいた。
「おぉ~!」
後ろでレイさんが拍手している。
「いいじゃんいいじゃん!」
息が上がり、心臓がすごい速さで打っている。
運動した後すぐ止まるのはよくないので、ゆっくり歩きながらレイさんのお話を聞く。
「でもねぇ。」
レイさんはゆっくり歩いて近づいてきた。
「魔力使いすぎ!」
「……やっぱですか?」
「うん!最初の一歩でほとんど使ったでしょ。」
普通に図星だった。
残っている魔力がほとんどない。
「身体強化はねぇ、ずっと少しずつ流さないと!手じゃなくともコントロール必須!」
レイさんは私の横に立つ。
「じゃぁ~見てて。」
そう言って軽くしゃがむ。
次の瞬間、シュッと風が揺れたかと思うと、気づいたらレイさんは木の横に立っていた。
「……は?」
50mを、一瞬で。
「今の、魔法ですか?前にレイさんが言っていた瞬間移動?」
「ん~ん!身体強化だけ!」
こんなことが可能なのだろうか、とドン引きしてしまう。
レイさんは何事もない顔で戻ってくる。
「魔力は~瞬間的に一気に放出するんじゃなくて、流れを保つ感じ!」
さらっととんでもないことを言う。
「……できる気がしません。」
正直な感想が漏れた。
するとレイさんは笑う。
「大丈夫大丈夫!」
そして軽く私の頭をぽんと叩いた。
「結ちゃん、才能はめちゃくちゃあるから。」
「え?」
「魔力量、普通の人の十倍くらいあるし。」
さらっとまた爆弾発言。
「……それ、やばくないですか?」
「うん!やばい!」
レイさんは楽しそうに笑った。
「だから俺が来たんだよ。」
「結ちゃん狙われやすいんだもん!結ちゃんが死なないように鍛えるためにね。」
青い目が、まっすぐこちらを見る。
「……」
言葉に詰まる。
そんなこと、急に言われても実感が湧かない。
けれどレイさんはいつもの調子で笑った。
「そんな難しい顔しないの~!」
そして私の肩を軽く叩く。
「今はとりあえずぅ」
レイさんはさっき私が走った方向を指した。
「あそこまで~もう一回!」
「えっ。」
反射的に声が出る。
「今度は猪ダッシュ禁止ね?」
レイさんは、唇に手を当てて頭をこてんとさせながらなんともかわいらしいポーズで言う。
「猪言わないでください!」
レイさんはくすっと笑う。
「まぁまぁ~いいじゃないの!で、さっきみたいに最初で全部使うんじゃなくて。」
人差し指をくるくる回し、そのまま足を指さす。
「魔力を脚にずっと流す!」
「流す……」
「まぁ~川みたいな?」
手でゆるやかな線を描く。
「そこから少しずーつ放出するの。傷口からにじみ出る血みたいに。」
正直、言うほど簡単には思えない。
さっきだって、かなり集中してやっとだったのに。
「……できる気がしません。」
するとレイさんは肩をすくめた。
「最初はみんなそう言うよねぇ。てか、集中力がみんな雑すぎるんだよねぇ!」
そしてにやっと笑う。
「まぁ結ちゃんは猪だったけど、でも感覚はつかめたでしょ?」
「それもういいです!まぁ、感覚はつかめましたけど......。」
「よし、じゃあやってみて!」
レイさんは腕を組んで少し下がる。
少しだけ間を置いて、
「はい、スタート!」
急に始まった。
私は慌てて深呼吸をする。
腹の奥にある魔力を感じる。
それをゆっくり脚へ流す。
太もも。
ふくらはぎ。
足。
さっきみたいに爆発させないように、少しずつ流して......。
そして一歩踏み出す。
ドンッ。
「うわっ!?」
思わずバランスを崩す。
「はいストップー!」
後ろからレイさんの声。
振り向くと、笑いをこらえている。
「今の。」
レイさんは指を立てて、いたずらっ子のように笑う。
「猪!」
「違います!!」




