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私は悪を犯す、故に、世界は救われる  作者: 神月佑奈
第一章

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第一章 : 王宮と聖殿

ーー一方その頃、王宮ではーー


王宮内を見回りしていた王の元へ、王の右腕であるイカノスが駆け寄る。


「エレフセリア殿下!!たった今、聖殿より啓示が下ったとの報告が!」


兵士かと思うくらいの勢いで走ってきたイカロスに、苦笑しながらエレフセリアは答える。


「こらイカノス。そんな勢いだとびっくりしちゃうから。で、啓示はなんて?」


エレフセリアに宥められているにもかかわらず、興奮冷めやらぬ勢いでイカノスは続ける。


「ようやく、救世主の園に救世主様が降り立ったようです。すぐに使いを出すように、と。」


イカノスのその言葉に、エレフセリアだけでなく、周りにいた護衛の者もどよめく。


「それは誠か!そうか、やっと神様方がヴェルネスに救世主様を派遣してくださったか。分かった。すぐに救世主の園へ使いを出そう。って、イカノス、なんで泣いているの笑」


気づけばイカノスの目からは涙が溢れていた。


「今まで、殿下がどれほど努力してきたか...!これで少しは殿下も休めると思うと、ほんとに一安心なんですよ!このままでは殿下が倒れてしまうのではと怖くて怖くて。」


その言葉にエレフセリアは少し微笑みつつ、すぐに顔を引き締めて伝える。


「ありがとうイカノス。だけどね、救世主様がどこまで協力してくれるかまだ分からないから。それに、救世主様がいて良かったと思える力を持っているといいんだけれど...。とりあえず、私は使節団を構成してくるよ。」


そう言い、エレフセリアは見回りをイカノスに任せ、自身は執務室へと戻っていった。




ーー聖殿ーー


「ようやく救世主様がいっらっしゃいましたねぇ。にしても、使節団を王宮に任せてしまってよかったのですか大司教様。」


「いいんですよ。その方が後々いいことがありますから。これでやっと聖殿の地位をあげることができますね。啓示が示すステータスはによると、彼女...ユイは今までにない大きな力と可能性を秘めていますから。彼女をこちらで育成できれば、王宮に変わって国を治めることも容易になりますね。」


そう言いながら聖殿を歩く狐目で緑髪の少しチャラそうな道化みたいな雰囲気の青年と、穏やかな雰囲気をもつ青い瞳を持ったベージュ髪の青年。


聖殿の天井は高く、色硝子から差し込む光が、床に複雑な紋様を描いている。


狐目の青年は、くすりと喉を鳴らした。


「王宮は“保護”と称して囲い込みを図るでしょうねぇ。あのエレフセリア殿下のことです、まずは丁重に扱うはずだ。」


軽やかな声音。だが目は笑っていない。


大司教と呼ばれている青い瞳の青年は、穏やかに問いかける。


「では我々は、奪うのですか?」


「奪う? 人聞きが悪いなぁ」


狐目の青年は振り返り、肩をすくめる。


「導くだけですよ。彼女が“正しい場所”へ来るように」


大司教は足を止めた。

静かな視線を、遥か山の方角へ向ける。


「啓示は、こう告げています。“彼女は光をもたらす。均衡を壊す。その先に新たな秩序が生まれる”と。」


狐目の青年が、わずかに眉を寄せた。


「……均衡を壊す、ですか」


「ええ」


大司教の声は穏やかだが、その奥には冷たい算段が滲む。


「この国ヴェルネスは、長く“均衡”で保たれてきました。弱者の淘汰制度、資源配分、階層秩序……すべては崩壊を防ぐための選別です。ですが、民の不満は限界に近い」


狐目の青年が笑う。


「そこで救世主様のご登場、というわけですね。“神が選んだ存在が改革する”となれば、誰も逆らえない」


「王宮が主導すれば、王の威信が高まる。我々が主導すれば、神の威信が高まる」


大司教は淡々と続ける。


「さて、どちらがこの国を握るに相応しいでしょうね」


「ねぇ大司教様。きっと王宮は彼女のすることに異を唱えることになるよね!」


狐目の青年は嬉々として言う。


「そうですね。だから、今くらいは王宮に花を持たせてあげたっていいでしょう?我々は、あくまで神の意志に従うまでですから。」


一瞬、沈黙。


狐目の青年が、くっくっと笑う。


「異界から突然放り込まれた少女ですよ?右も左も分からぬ土地で、大司教様の腹黒を見せられたらどうなるんですかねぇ」


大司教はドン引きした顔で狐目の青年を見る。


「神の意志に従っているまで。腹黒はあなたの間違いでは?」


「えー大司教様ひどーい。俺は心の赴くままに動いてるだけなのに。」


大司教はそんなことどうでもいいと言った風にあしらう。


「はいはい。とりあえず、まずは接触前に情報を集めなさい。彼女がどこに立ち、何を選ぶのか」


狐目の青年は軽く礼をする。


「御意。では私は救世主の園へ。少しばかり、“誘導”の種を蒔いてきましょう」


「任せましたよ。道化のようなあなたなら、きっと上手くやれるでしょうから。」


そう言い、狐目の青年は出かけて行った。

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