第一章:こんにちは異世界
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
扉を開け、踏み出したと思ったら急落下。
訳わからないまま落ちていた。
「待って待って勢い凄い!ちょ、と、止まって!?やだどうしたらいいの、ねぇ女神さまぁぁぁぁぁ!」
そんなこんな言ってる間に地面が近づいてくる。
もう諦めて落ちるのを覚悟していると、意外なことに、凄くふかふかしたものの上に落ちた。
「......え?」
ゆっくり目を開けてみると、そこは花びらの山だった。
「えーっと、どうやってここから出よう...」
そう言うと、すっと花びらが動き、優しく私を下ろしてくれた。
「え、え???」
初めての現象に戸惑いを隠せない。
「これが、魔法って...やつなのかな?」
何呼吸か置いて、周りを見渡してみる。
「わぁ...。凄い。」
思わず、声がこぼれた。
目の前に広がっていたのは、地球では見たことのない光景だった。
自分が立っていたのは、丘のようになっている場所で、色とりどりの花が沢山咲いている。
そして、少し歩いたところには小屋が見える。
空は澄み切った青ではなく、淡く紫がかった色をしていて、雲はまるで絵の具を水に溶かしたみたいにゆっくりと形を変えている。
そして、どこまでも連なる山、山、山。
緩やかな稜線もあれば、空を裂くように鋭く切り立った岩峰もある。
谷底は深く、霧が溜まり、底が見えない。
木々は高く、太く、幹には淡い光の筋が走っていた。
「……でか……」
言葉を失うとは、こういうことを言うのだと思った。
空気は澄んでいて、肺の奥まで冷たい。
風が吹くたび、木々がざわめき、葉と葉が擦れる音が波のように重なる。
足元には、まだ花びらが残っている。
淡い色、濃い色、見たことのない形の花。
それらが地面に敷き詰められて、まるで歓迎のために用意された絨毯みたいだった。
「……生きてるよね、私」
深呼吸すると、空気が甘い。
花と、土と、少し金属のような匂いが混じっている。
そのときだった。
ざわり、と
空気が揺れた。
花びらが一斉に震え、風もないのにくるくると舞い上がる。
そして、私の前方、少し高い位置に、淡い光が集まり始めた。
「……あ」
知っている。
この感じ。
「おはよう」
光の中から現れたのは、
あの、儚くて無邪気な女神ウェルナだった。
「……おはよう、じゃないんだけど」
思わず、ため息が出る。
「最初から落下ってどういうこと!?普通、もっとこう……安全に来るものじゃないの!?」
「えー、だってちゃんと受け止めたじゃない」
悪びれた様子もなく、彼女は肩をすくめる。
「……花びらが?」
「そう。ヴェルネスの歓迎よ。あなたは“招かれた存在”だから」
そう言いながら、ウェルナは周囲を一瞥する。
すると、散らばっていた花びらが、ふわりと風に溶けるように消えていった。
……消えた。
「……すご……」
「でしょ?」
どこか誇らしげに言うその声に、私は改めて思う。
ここは、夢でも錯覚でもない。
「ここが……ヴェルネス?」
「ええ。あなたが救うことになる世界」
そう言われて、胸の奥がきゅっと縮む。
視線を遠くへ向けると、白い月がうっすらと浮かんでいる。
「こっちにも...月はあるんだ。」
「えぇ。今私たちがいるここは、先の救世主たちが最初に降り立った場所よ。あそこに小屋が見えるでしょう。あそこに住んで頂戴。」
さっき見えた小屋のことだ。
「今から1か月後くらいに教会の人たちがあなたを迎えに来るでしょう。それまでは魔法の練習とかしておくといいわ。小屋にはみなさんの日記とかがあるはずだから。あ、基本的に文字は読めるようになってるから。」
彼女がそう言うと、遠くで鐘の音が鳴った。
低く、重い音。
「ここから先は、あなた自身の足で進んで」
「……いきなり放置?」
「救世主でしょ?」
くすっと笑って、ウェルナの姿が薄れていく。
「さぁ、救世主さん。優しさを持ったまま進みなさい。この世界ではそれが、劇薬で、良薬だから」
そう言い残して、光は完全に消えた。
静寂が戻る。
私は、ひとり立ち尽くしたまま、
もう一度、周りを見渡した。
美しくて、整っている世界。
寧ろ整いすぎて冷たさすら感じてしまうほど。
「……来ちゃったんだ」
呟いて、拳をぎゅっと握る。
戻れないわけじゃない。
でも、ここに立った以上、見ないふりはできない。
私は、ゆっくりと小屋へ向かって歩き出した。
この世界の“正義”が、誰を救い、誰を切り捨てるのかを確かめる前に、まずは魔法に慣れないとだからね笑




