序章:地球 ---“いざ、異世界へ”③
「それではこれより、旭月さんの会見を始めます。司会・進行を務めさせていただきます、財前美麗と申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
総理官邸に呼ばれたあたりから何となく察してはいたが、結構大ごとらしく、会場にはカメラマン含め200人程の記者の方がいる。
それに、司会に日本一可愛いアナウンサーと言われている財前さんを配置しているあたり、完全に大物扱いのようだ。目...くりくりでさらつやのポニーテール、真っ白の肌...可愛い。
目立ちたくなかったんだけどなぁ......。
「まず最初に旭月様より今回の概要をご説明いただきます。よろしくお願いいたします。」
「は、はい。初めまして。ご紹介を承りました、旭月、と申します。この度はわたくしの為にお集まりいただき誠にありがとうございます。」
話し始めた瞬間、全てのカメラがこちらに向く。
「まず、この会見が何のための会見かと申し上げますと、わたくしが異世界へと救世主として訪問することによる会見でございます。先日、私の夢に異世界の女神と名乗る者が現れ、異世界へ救世主として来てほしいと勧誘を受けました。私はその申し出を受け、異世界へと向かうこととなりました。」
異世界というワードに反応して会場中がどよめく。
「今回は我が国代表として異世界へ向かうこととなりますので、高校はそのまま進級します。そして1週間に1度こちらの世界へ戻ってきます。説明は以上となります。」
「今現在分かっている情報の説明はこちらで終了とさせていただきます。ここからは質疑応答の時間へと移らせていただきます。」
財前さんのその言葉により記者が一斉に手を挙げた。
財前さんが一人を指名するよりも早く、
前列の記者が立ち上がった。
「――全国紙・東都新聞です。
異世界、女神、救世主。
正直に伺いますが、それは国家として公式に確認された事実なのでしょうか?」
会場の空気が、ぴんと張りつめる。
「はい。現在、政府内での確認および検証は進行中です。
本会見は、その前提のもとで行われています」
なんとか落ち着きを保ったまま答える。
別の方向から、すぐに次の声が飛んだ。
「民放テレビ局です。
旭月さんご本人は、その“異世界”が実在すると、どこまで確信しているのですか?」
私は一瞬、言葉に詰まった。
確信――。
それをどう説明すればいいのだろう。
夢だと言えば、逃げになる。
現実だと言えば、嘘になるかもしれない。
「……正直に申し上げますと、
科学的な根拠を提示することは、私にはできません」
会場がざわつく。
「ですが」
私は、ぎゅっと手を握りしめた。
「そこには、確かに“救いを求める声”がありました。それに、夢であったらこのように国にも別の形で伝わることはありません。私はそれを、無視できなかった。ただ、それだけです」
その言葉に、
納得したような、していないような空気が漂う。
「こんにちは童心文集の暁と申します。よろしくお願いいたします。旭月さんって....旭月蓮斗さんの娘さん、ですよね?お父様からは何か一言あったんですか?」
「あ...父とはまだ話せていません。」
「そうですか、こんな娘さんがいていいですね。ありがとうございます。」
こんな娘さんがいていいですね、か。
目立ちたくないなぁほんとに。旭月蓮斗の娘って言う目で見られる。
「ミランダ週刊誌です」
後方から、少し刺のある声。
「旭月さん。旭月さんが伺う異世界からはどのようなSOSがあったのでしょうか。」
言われてみればわからない。
胸の奥が、ひくりと揺れる。どうしよう。
その時、脳内に声が響く。
”ごめんなさいね。伝え忘れてしまっていたみたい。貴方に来てもらう世界は、わたしたちのせ世界は、弱者を見捨て、強者だけを保護する、そんな最悪の世界よ。作った私が言うのもあれなのだけれど...。”
それを聞いた瞬間に、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。
学校で感じていたようなあの気持ちを、異世界へ行っても感じなければいけない。
いや、女神さまと話すうちになんとなく察してはいたけれど、やはり実際に判明すると衝撃が大きい。
「弱者を、見捨て、強者のみが残る、弱者は見向きもされず、淘汰されゆく、そんな、せ、世界です、。」
上手く言えていたかわからない。
それを聞いた記者の人が重ねて質問をする。
「弱者を犠牲にすることが“正義”だと言われたら?
それでも、あなたは救世主を名乗れるんですか?」
会場が静まり返る。
カメラのシャッター音すら、遠く感じた。
私は、ゆっくりと息を吸う。
「……まだ、分かりません」
正直な言葉が、口から落ちた。
「私は、誰かを見捨てることが正しいとは思えません。
でも、見捨てなければ救えない世界があるなら……
その現実から、目を背けることも、できないと思っています」
一瞬、言葉を選ぶ。
「だから私は、
“正義”を押し付ける救世主にはなりたくありません」
ざわり、と空気が揺れた。
「もし行くのなら、
その世界の人たちと同じ高さで悩んで、迷って、
それでも、可能な限り多くの命が救われる道を探したい」
話しているうちに頭の中で考えが明確になる。
自分でも驚くほど、声は震えていなかった。
「つまり――」
別の記者が続ける。
「必要悪を、受け入れる可能性もあると?」
私は、ほんの少しだけ、視線を下げた。
「……“必要”だと言われる前に、
それが本当に必要なのかを、問い続けたいです」
顔を上げる。
「切り捨てる前に、
“切り捨てなくて済む方法はなかったのか”
それを考え続けることが、私にできる唯一のことだと思っています」
沈黙。
そして、
一斉に、シャッター音が鳴り響いた。
「皆さん、こちらで指名するまで発言しないようお願いいたします。」
そう財前さんが注意をする。
その中で、私はふと気づく。
――ああ。
もう、引き返せないところまで来てしまったんだ。
でも、不思議と後悔はなかった。




