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私は悪を犯す、故に、世界は救われる  作者: 神月佑奈
序章

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序章:ヴェルネスの暗転

誰も気づかなかった。

世界が静かに、しかし着実に崩れていく音に。

空はあまりにも澄み切り、陽光は過剰なほどに眩しく、白く均整の取れた城壁は、まるで罪を覆い隠すために磨き上げられたように輝いていた。街に響く人々の声は迷いを知らず、喜びと誇りに満ちている。


――この世界が、善に包まれているのだと、誰もが信じて疑わなかった。


だが、その“善”こそが、世界をゆっくりと締めつけていた。

正義と呼ばれたものが、最初に人々の心を殺し、次に自由を奪い、最後に命を奪っていた。


ここ、ヴェルネスには5つの大陸

ー北の大陸、南の大陸、西の大陸、東の大陸、中央大陸ー

と5つの国

ーフェデロ帝国、オルマンス民主国、エルナンド共和国、ドーリトイド独立国、フィリカロイド教国ー

があり、かつては和平を結ぶことで均衡を保っており、世界は平和に包まれていた。

魔力を宿す者、宿さぬ者。生まれつき強く生まれ落ちる種族、虚弱な身体を持つ者。努力が実を結ぶ者、どれだけ尽くしても報われない者。

差異は存在したが、人々は“違うこと”を恐れ始め、次第に「誰もが同じ高さに立たなければならない」と考えるようになった。

理想は平等ではなく、“公平”


能力差を埋める政策が進み、強者が弱者を保護する義務が制度化され、それは美徳として称えられた。

しかし、それは同時に――世界の均衡をわずかに歪ませていた。

やがて、世界に“違和感”を抱く者たちが現れる。

平凡を嫌い、画一的で均等な社会に疑問を持った学者や魔術師、貴族、思想家が密かに集まり、ヴェルネスの歴史と構造を研究し始めた。

彼らが暴いた真実こそが、崩壊の始まりだった。

いや、正確には──公平を求めたその瞬間から、崩壊は始まっていたのかもしれない。

ただ、それが表面化したのは、彼らの研究が世界に公開された時だった。

人々は混乱し、五つの国は互いを疑い、非難し合い、そしてついに戦火が上がる。


「均衡戦争」


この呼び名が示すように、争いは世界の均衡そのものを破壊し、弱者保護は機能しなくなり、弱き者は足手まといとして切り捨てられ始めた。

国同士は利益のために殺し合い、先に殺らなければ後がない――そんな地獄が常識になっていった。

しかし、その長い戦乱の中で、状況は決定的に変わる。


フェデロ帝国の力が、他の四国を圧倒してしまったのだ。

帝国に生まれる者たちは、なぜか生来高い魔力を蓄えやすく、肉体は強靭で、外見も他国とはどこか異なる。

その“異質さ”は、恐怖と偏見を呼び、やがて彼らは“魔族”と呼ばれはじめた。

帝国の王は“魔王”とされ、残りの四国は討伐の名のもとに手を結ぶ。

だが討伐は、始まる前から失敗していた。

進軍のたび、弱者を庇って足を止めた兵士が真っ先に死に、弱者を抱えて逃げた指揮官は背後から刺され、生かした者は必ず、死んでいった。

その積み重ねが、世界の価値観を瞬く間に塗り替えた。

―弱者は救えば、強者を殺す。

―弱者は国を滅ぼす。

戦争が終わり、最初の歴史書に刻まれた言葉は、あまりにも冷酷だった。


『強者が国を守る。弱者が国を滅ぼす。』


これが後に「正義」と呼ばれ、世界の教義のように語り継がれていく。


敗北を恐れた王族と高官たちは、国を守るという名目で“弱者の削減”を推し進めた。

魔力の弱い者は軍役免除となる代わりに社会保障から外され、働けぬ者は施設に送り込まれ、スラムと呼ばれる区画は爆発的に増えていく。

美しい理念は、いつしか醜悪な政策へと変質していた。


「強い国を作るために、弱者を減らすべきである。」


その思想は宗教のように広がり、誰も疑わなくなった。


城の最上階。深紅の絨毯が敷かれた玉座の間で、国を統べる者たちが列を成す。

王はゆっくりと立ち上がり、透き通る声で告げた。

「――〈均衡政策〉を、本日より施行する。次の十年で、弱者を三割削減する。これは“正義”の為の尊い犠牲である。皆、感謝して弱者を見送りなさい。」

広間に並ぶ誰ひとりとして息を呑まない。反論もしない。

むしろ恍惚としたように頭を垂れ、その言葉を崇める。

「正義のための大切な犠牲だ」

「弱き者を救えば、国が滅ぶ」

「国を守るために、弱者を減らさねばならない」

それは聖歌のように統一され、異様なほど調和していた。

かつて“同じであること”を憎んだ人々は、いつの間にか再び“同じ正義”を作り出していた。

会議が終わり、高官たちが去っていく中、遠くの空が少し鳴った。

わずかすぎて誰も気づかない。


だが確かに、世界は軋んだ。


まるで天が怒りを覚えたかのように。


そして、その夜。

王城の上空に漂う雲が、音もなく裂けた。

ひとつの光が、空から静かに落ちてくる。

それは流星のような尾を引きながら、森の奥深くへと墜ちていった。

そして聖者の元へと天啓が舞い降りる。

その光が“異世界からの来訪者”であり、この世界を救う存在になることを。

これから不定期で更新していきます!

暖かい目で見守ってくださると幸いです!!

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