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・0-6 第6話 「ケンタウリ・ライナーⅥ:6」

・0-6 第6話 「ケンタウリ・ライナーⅥ:6」


 妨害をして来るだろう。

 そう予想はしていたが、その通りだった。


 爆破装置のある場所まで最短経路で向かおうと考えていたのだが、AIはドロイドたちを先回りさせて、待ちかまえていたのだ。


「行け、行け、行け! 振り返るな!

 エンジニアを装置まで到達させろ! 」


 海兵マリーンたちは、勇敢だった。

 蛮勇、と言い換えることもできるほどに。


 言葉遣いは乱暴で、仕草は粗雑。

 だが、プロフェッショナルだ。


 大量に押しよせて来るドロイドたちをレーザーライフルの掃射で押しとどめ、進路を切り開いてくれる。


「あの、コール軍曹!

 迂回しましょうか!? 」


 船内の構造は頭の中に叩き込んであるから、迷うことはない。

 押しよせて来る敵を正面から迎え撃つよりは、回り道をした方が楽なのではないか。

 だからそうたずねたのだが、軍曹は即座に否定した。


「ダメだ! どうせ、ドロイドどもに先回りをされる!

 最短経路で突っ切るのが一番、成功の確率が高い!

 今ならまだ守りが薄い。突破できるはずだ! 」


 確かに、ドロイドたちはこちらの進路に先回りしようとするだろう。

 そうして行く先々で足止めを受けるよりも、強引に突き抜ける。

 機械人形スケルトンの残骸の中を跳ねのけて、ひたすら前に。


(ここは、専門家に任せるか)


 不安ではあったが、素人が口出しするわけにもいかないだろうと思い、穣司も覚悟を決めて海兵マリーンたちと共にドローンの群れの中に突っ込んで行った。


「立ち止まるなぁ! ドロイドどもに捕まるぞ! 」


 自ら先陣を切りながら軍曹が叫ぶ。

 まるで前しか見ていないようだ。


「うわっ!!? 」


 だがその時、海兵マリーンの一人がその脚をドロイドの一体に捕まれてしまった。


 即座に、コール軍曹が振り返る。

 一瞬の早業で、レーザーライフルがドロイドの腕を撃ち抜いていた。


「気を抜くな、一等兵! 」

「はい、すみません、軍曹! 」

「謝らんでいい!

 それより、感覚を研ぎ澄ませろ!

 三百六十度、全部を見張れ! 」


 勢いがいいだけかと思ったが、彼は優秀な軍人だった。

 そして宣言通り、前だけでなく後ろのこともよく見ている。


 敵中を突っ切っていく、という判断も間違いではなかったのだろう。

 AIはこちらの動きを知ってドロイドを集中してきていたが、それらが集まりきる前に爆破装置のところにまで到着できてしまった。

 もし回り道を選んでいたら、もっと多くのドロイドたちに囲まれ、進むことも退くこともできなくなっていたかもしれない。


海兵マリーン! 残弾は気にするな、撃ちまくれ!

 ……エンジニア! すまんが、すぐに作業を始めてくれ!

 長くは防ぎきれんかもしれん」

「わかりました! 」


 通路を埋め尽くす勢いで押しよせて来る機械人形スケルトンたちを防ぐように部下に命じた軍曹だったが、その表情は険しい。

 戦況は悪いのだろう。


(言われるまでもない! )


 穣司はすぐに爆破作業にかかった。


 船の中央部と旅客区画を接合している最後のロックを解除するのは、簡単だ。

 誤操作で装置が作動しないように保護しているパネルを取り外し、中に備えつけてある信管を起爆装置にセットして、作動させるだけ。


 持ってきた工具の中から専用の特殊な形状をしたドライバーを取り出し、パネルを固定しているボルトを外していく。

 手作業だ。


(じれったいなぁ、もぅ! )


 焦って、手が滑りそうになる。

 大抵の装置は自動化されていて、少人数でも簡単に点検や修理、管理ができるようになっているのだが、手動による爆破は全電源が喪失、といった緊急事態を想定したものだから、すべて自分でやるしかない。


「エンジニア! 急いでくれ! 」


 自身も銃を撃ち込みながらコール軍曹が急かす。

 ドロイドたちがすぐそこにまで迫ってきているのだろう。


「もう、終わる!

 みんな、なにかにつかまってくれ! 」


 穣司はそう答えながらパネルを引きはがすと、規定通りの位置に信管が置かれているのを確認。

 その内のひとつを手に取って起爆装置の中央に差し込み、そして、付属していたハンマーを思いきり叩きつけていた。


 内封されていた火薬が爆ぜ、それをきっかけとして、分離パージが始まる。


 宇宙服の内部以外は真空だから、音は聞こえない。

 だが、部材に接触している部分から、振動が伝わって来る。


「うまく行った! 」


 目の前で旅客区画が切り離され、徐々に遠ざかり、代わってなにも存在し無い宇宙空間が広がるのを確かめた穣司は、歓声をあげていた。

 分離パージは成功したのだ。

 十万人を乗せた船体が、ゆっくりと遠ざかっていく。


≪ジョウジ! 聞こえるか!? ≫


 ほっとして海兵マリーンたちと顔を見合わせ、互いにハンドサインなどで健闘をたたえ合っていた時、船長キャプテンからの通信が入る。


「あ、船長キャプテン

 やった、やってやりましたよ!

切り離しは成功です! 」

≪ああ。……よく、よく、やってくれた!

 だが、事態が変わった。

 君たちは、すぐに船を離れてくれ! ≫

「は?

 え? 後は、AIの野郎を叩き壊すだけでしょう!? 」

≪すまない……。そうではない。

 ブリッジは、すでに陥落した。

 今は防御プログラムを通信回線の維持にだけ集中させて、どうにか守っているが、他の部分の制御は奪われた≫


 船体の切り離しが成功し、後はAIを破壊するだけ。

 そう思って喜んでいた穣司に届いたのは、悲痛な、息も絶え絶えの声だった。


≪AIは、ブリッジ周辺の配線を自ら……、ショート、させたんだ。

 そのせいで高圧の電流が流れ、大勢がやられた……。

 防衛線も、突破された≫

船長キャプテンは!?

 貴方は、どこにいるんです!? 」

≪サーバールームだ。

 何人かの生き残りと共に、籠城している≫


 通信には、微かに船長キャプテンの声以外のものが入り混じっている。

 負傷者たちの苦しそうなうめき声。

 隔壁をドロイドたちが叩いている音。


船長キャプテン! すぐにそこから脱出してください! 」

≪無理だ。

 こちらは全員、負傷している。

 それよりも、ここでAIを道連れにしてやるさ≫


 考え直せ、とは言えなかった。

 助けを求めるように軍曹の方を振り向くと、通信を聞いていたらしい彼は沈痛な表情で首を左右に振る。

 戦力が足りず、救出に向かうのは不可能、ということだろう。


≪AIは、自分を破壊すれば、船を自爆させると言って来た。

 ……君がやったように、分離パージをするつもりなんだろう。

 そうしたら、この船はバラバラになる≫


 見下していた人間にまんまとしてやられてしまったAIは、もう、こちらを道連れに破滅する決心をしている様子だった。


 分離パージは、手順を守って行えば安全に行うことができる。

 しかし一斉に行えば、船体はバラバラになってしまうだろう。

 制御不能に陥った巨大な船体が地球に落下する、という事態を避けるために構築されたシステムだ。

 破片をより細分化し、できるだけ大気圏で燃え尽きるように設計されている。


≪ジョウジ。君たちは、急いで脱出してくれ。

 もう、こちらもあまり、待っていられない。

 隔壁が破られる。

 君たちが脱出して、そして、救援を呼んで欲しい。

 ……すまない、ジョウジ。

 そらから、乗客を救ってくれて……、ありがとう≫

「待ってください、船長キャプテン

 船長キャプテン! 」


 諦めるな。

 そう言いたかった。


 だが、通信は途絶え、———直後、激しい振動が起こる。


 船長キャプテンは、AIを破壊したのだろう。

 それと同時に、船体の一斉分離パージが実行に移されたのに違いない。


 崩壊が始まったのだ。


「エンジニア! 脱出経路は! 」


 そのことを察したコール軍曹が叫ぶ。


 もはや、考えている時間もなかった。

 死んでいった仲間たちのために祈っている余裕もない。


「……こっちです! 」


 穣司は生き延びるために、残った戦友たちと共に動き出した。


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