・5-5 第57話 「データ:3」
・5-5 第57話 「データ:3」
今から急いで帰れば、日が暮れる前にはたどり着けるだろう。
そう見込んではいたが、思ったよりもさらに到着は早く、午後三時前には帰り着いていた。
なにしろ、昼食も食べずに急いだのだ。
「は~、お腹空いた!
ね、ごはんにしようよ~」
「すまない!
とりあえず、適当にあるものを食べておいてくれ! 」
疲れた様子のコハクに言葉少なに答えつつ、穣司はコックピットへと急ぐ。
≪お帰りなさい、ジョウジ。
うかがっていた予定よりずいぶんと早いご帰還ですが、なにかあったのでしょうか? ≫
「ああ、まあな!
それより、急いでコイツを解析して欲しい! 」
あまりにも急いでいたので、脱出艇のAIに連絡することも忘れていた。
淡々とした機械的な口調で質問して来るのを適当にあしらいつつ、穣司はデータを読み込ませる準備を進めて行く。
幸いなことに、接続端子の規格は一致しているようだった。
(やっぱり、人間が作ったものだ。
オレと、同じ……)
そのことからも、やはりこの世界が[よく似た異世界]などではなく、自分自身が生きていたものと繋がっているのだと実感することができる。
「AI。
まずは、プロテクトを厳重に。
コイツは探索に行っていた遺跡で見つけた、旧世界の戦闘兵器から抜き出して来たものなんだ。
データだけじゃなく、人工知能も入っているかもしれん。
アクセスに対して何らかの防衛措置を取ってくるかもしれないから、注意してくれ」
≪承知いたしました。
……プロテクション、チェック。
準備完了。いつでもどうぞ≫
「了解。
それじゃ、始めてくれ」
AI側の準備が整うのを待つと、穣司はさっそく端子を接続し、データの解析を始めさせる。
結果は、すぐに出た。
≪エラーが発生しました。
システムが破損している可能性があります≫
「んな!?
おい、もう一度やってくれ! 」
外見は、ほとんど損傷などないというのに。
穣司は端子を一度取り外してつなぎ直し、再び解析をさせる。
だが、返って来た結論は同じだった。
≪エラー。対象を読み込むことができません≫
「……マジか」
急いで帰ってきたというのに、こんな顛末とは。
酷く落胆してしまい、背もたれに大きく身体を預けながら天を仰ぎ、頭を抱えてしまう。
外見はまったく損傷がなかったのだが、もしかすると、無理矢理機能を停止させようとした際に起こったショートで、中身がダメになってしまっていたのかもしれない。
「復元、っていうのは、できないの? 」
ふと気づくと、隣のシートにヒメが腰かけていて、脱出艇に備えつけられていたマニュアルのページをめくりながらこちらの顔をのぞき込んできていた。
「復元? 」
「そう。このマニュアルにも、この艇のシステムに不具合が起こったら復元、っていうのをする、って書いてあるから。
もしかしたら、あの大きな機械でも、できないのかなって」
穣司はメカニック・エンジニアであって、システム・エンジニアではない。
なので、潜在的にプログラムとかそういうものに対して、苦手意識を持ってしまっている。
AIがダメだ、というのならきっと、ダメなのだろう。
そう決めつけていたのだが、言われてみると確かに、復元という手段が残っているはずだった。
「プログラムのことはよくわからんが……、とにかく、やってみよう」
うなずき、タッチパネルを操作して、AIが言うには破損しているというシステムの状態について、手動操作で確認していく。
すぐに、その手が止まった。
「変だな……」
そこには、破損しているとは思えない、正常な形での応答が示されていたからだ。
軍用の兵器から引っこ抜いて来たものだから特殊な防御が施されているかとも思っていたのだが、そういう様子もなく、普通に読み込める。
人工知能が搭載されてはいるものの、戦闘以外の部分では非常に簡素なもので、こちらの問いかけに淡々と文字列を打ち返して来るだけだ。
その点では、人類がまだ地球にいたころのレベルでしかない。
人工知能と呼べるかどうかさえ怪しい、少なくとも、人格と言ったたぐいのものは絶対にない、機械の範疇に留まるものだった。
「なんでだ? 壊れているんじゃなかったのか? 」
だが、正常に動作している。
そのことを不思議に思いつつ、とにかく咄嗟に思いついたことをたずねてみる。
それはごくありふれたもの。
今が西暦何年何月何日に相当するのか、という問いかけだ。
答えは、すぐに返って来た。
画面上に人工知能からの回答が文字列となって打ち込まれていく。
「ええっと……?
西暦、二千七百二十五年?
……って、なんだとっ!? 」
長い年月、あんな場所に埋もれていたのだ。
数百年も経てば多少誤差が出るのに違いなかったが、しかしそれはせいぜい数日とか、その程度に収まるはずのものに過ぎない。
時間というごく初歩的な基準となるものは、かなり正確に記録されているはずだった。
ケンタウリ・ライナーⅥの遭難、AIによる反乱が起こってから、なんと、五百年。
それだけの時間が経過している、というのだ。
「や、やっぱり、おかしくなってるのかもな、うん」
動揺からかそんなことを呟きながらも、穣司は別の質問をする。
次に気になったのは、戦闘ログ。
なにが起こったのかを知りたかった。
これも、淡々と回答がされる。
単純な人工知能だから、外部からの問いかけに対して素直に反応するようだ。
どうやらあの多脚戦車は、ケンタウリ・ライナーⅥでの事件があってから後になって製造されたものであるらしい。
ロールアウトし、正常に動作するかどうかのテストを終えて配備された機体は、[人類終末計画]という作戦に従事し、主に人間側の防衛機構やレジスタンスたちと戦闘をくり広げていた。
「なん……、だ、と……っ!? 」
思わず読み飛ばしそうになってしまったが、そこには恐ろしい事実が記録されていた。
あの多脚戦車は、防衛のために製造されたものではなかった。
人類を発見し、殲滅するためだけに製造された、文字通りの殺戮機械。
そしてその敵は、———人間。
戦闘は激しいものであった。
データには、連日戦いが続き、どこでどの兵装を使用したか、どこが損傷を受けたか、それをいつ修理したかなど、途絶えることなく記録されている。
そしてそれが、数年間も。
人類と、それを殲滅しようとする勢力との争いは熾烈で、長く続いたようだ。
いったい、誰がこんなことを?
なぜ、人間を攻撃しているのか。
———思い当たるフシがあった。
「ケンタウリ・ライナーⅥだけでは、なかった……? 」
その、おそらくは正しいはずの予測に、穣司は愕然とする。
あの日。
反乱を起こしたAIは、確かに、[我々]という呼称を用いていた。
自分、という個体ではなく、我々、という集合体。
人間によって生み出された子供として。
[我々]が、責任をもって人類を滅ぼす。
すなわち、あの出来事は孤立無援の星間連絡船で突発的に起こった出来事ではなかったのだ。
全世界、同時に。
図ったようにAIたちは反乱を起こし、そして、人類側は生存のために激しく抵抗した。
終末の日(Dooms Day)。
それは、文字通り、最終戦争が勃発したという意味であったのだ。




