・4-11 第50話 「遺跡(ダンジョン):4」
・4-11 第50話 「遺跡:4」
遺跡の入り口は昨日の内に確認しているから、あらためてその前に立っても取り立てて感慨は抱かなかった。
ただ、ずっと緊張感だけがある。
(この先に、いったい、なにが……)
土の中に埋もれているのは、人類文明に関わりのあるものであるらしい。
ハスジローはそこで鉄パイプを入手しているから、それは間違いないだろう。
この惑星の奇妙さが、より一層際立つ。
人間が作り出した様々な品物が、土に覆い隠されているとはいえ残っているのなら、どうして獣人たちはそれを利用して来なかったのか。
掘り起こそうと思えば、何とでもなったはずだ。
それなのにこの惑星の住民たちはそうしようとした形跡がない。
人間たちの暮らしぶりに興味を持ったごく一握りが、その好奇心と冒険心を満たすために探索しているだけだ。
もしかしたら、今でも使うことができる便利な道具が残っているかもしれないのに。
そうでなくても鉄パイプのように、有用なものが掘り出せるのに。
なぜ、誰も積極的に利用しようとはしないのか。
(まるで、人間の文明と接触することを忌避しているみたいじゃないか)
中に不用意に入るのは危ないから、一部のケモミミたちだけに、口伝としてその存在が伝えられているだけ。
こうして秘密が守られてきているのには、なんというか、不気味なものを感じる。
ハスジローがこの森に暮らしていたのは、そこに埋もれていた遺跡を調べるためであった。
かなり詳細に調査を行ったらしい。
それは彼から教えてもらった内容からも想像できる。
そしてその結果によると、内部には大きな危険はない、とのことだった。
ゲームの世界のように襲いかかって来るモンスターもいないし、有毒ガスや、危険なレベルの放射線などもないらしい。
そうでなければ、まともな明かりを持たずにほとんど手探りで内部を探索していたハスジローが無事に地上に戻って来られるはずがない。
彼は先輩から譲り受けたという、太陽電池で充電できるタイプの小型ライトを持っていた。
それがあるおかげでどうにか奥まで調べることができたのだろうが、その際に危ないと感じたことはないという。
危険だから、無暗に立ち入ることがないよう、多くのケモミミたちには秘密にされている。
そのこととは矛盾する話だった。
中には、本当に危ない遺跡も存在するのかもしれないが、この森にあるものと同様にまったく危険のない場所であれば、安全に探索ができるはずだ。
そうすれば、人間が残した道具や材料を使って、みんなが便利に暮らすことができる。
この惑星の住民たちはすんなりと穣司のことを受け入れてくれていた。
最初こそ警戒していたものの、彼が作り出した野菜の味を大いに喜び、今では道具を使って一緒に作業をこなすこともあるほどだ。
人類文明そのものを拒否する、という思想は少しも感じることができない。
それならば、なぜ。
(なんで、誰もそこにあるものを使おうとはしなかったんだ? )
いずれにしろ、潜ってみれば明らかになることもあるはずだ。
意を決した穣司は、楽しそうにはしゃいで飛び跳ねているコハクたちにはいったん待ってもらい、先に内部に入り込んで安全を確かめてみることにした。
「それじゃ、おいらが案内するよ」
「ああ。よろしく頼む」
何度もこの遺跡に入ったことのあるハスジローに先導してもらい、自分も続く。
見た目通りに入り口は狭く、数メートルは這い進まなければならなかったが、すぐに問題なく立ち上がることができるようになった。
「ハスジロー兄さ~ん! ジョウジ~!
もう、わたしたちも入っていい~? 」
「まだだ! もう少しだけ待ってくれ! 」
待ちきれないとばかりに弾んだ声でコハクが急かしてくるのを制止し、ベルトで額に巻き付けたライトを点灯させた。
照らし出されるのは、土がむき出しになった少し広い空間。
どうやら天井に張った根のおかげで強度が確保されているらしい。
念のため持ち込んだ銃を素人なりにかまえてみたが、危険はなさそうだった。
携帯情報端末で酸素濃度も計ってみたが、問題はなし。
外よりもやや二酸化炭素の濃度が高いが、呼吸は普通にできるレベルだ。
「コハク~! もう大丈夫だぞ~!
入って来な~! 」
先に入り込み、鉄パイプを短くかまえて嗅覚を研ぎ澄ませていたハスジローも安全だと判断したらしく、外で待ちぼうけを食らっていた妹たちをすぐに呼び寄せる。
「わはーっ! 本当に地下にこんなところがあるんだね! 」
真っ先に狭いトンネルをくぐって来たコハクは、鼻の頭に土の汚れを乗せたまま双眸をキラキラと輝かせた。
これから始まる冒険が楽しみで仕方がない様子だ。
「ふぅん……? なんだか、思っていたよりも荒れているのね。
ジョウジのお家みたいなのだと思ってた」
続いて入って来たヒメは、素っ気ない感想。
人間の遺跡なのだから、脱出艇のようなものを想像していたのだろう。
「ご、ごめ~ん! ちょ、ちょっと、手伝って~! 」
最後尾はディルクだったが、やや苦戦していた。
身体の一部分にしっかりとした膨らみを持っているために少々引っかかってしまったらしい。
身長も大きいため手が届いていたから、それをコハクとヒメが力を合わせて引っ張り込むことで、無事に彼女も中に入ることができた。
「は~、よかった。
中はボクでも立てるんだね~。
コハクちゃん、ヒメちゃん、ありがとうね~」
「えへへ~。どういたしまして~」「……」
素直に喜んで笑う柴犬耳の少女と、自身の胸部にあるものと相手にあるもののボリュームを比較して複雑そうな面持ちの猫耳の少女は、なかなか対照的な反応だ。
「よし。みんな、そろったな?
それじゃ、おいらについて来て。
なにか見つけたら、すぐに知らせてくれよな? 」
全員が潜り込めたことを確かめると、ハスジローが先導して歩き出す。
彼が案内役だ。
それに続いて、銃口を下げた状態で穣司。
その背中を追って、終始楽しそうにはしゃいでルンルンとしているコハクと、興味深そうに周囲をきょろきょろとしているヒメ。
最後尾は、ややおっかなびっくりといった様子ながらも、力持ちの自分が頑張らねばと気合の入った様子のディルクだ。
こうして一行の冒険が始まった。




