・4-8 第47話 「遺跡(ダンジョン):1」
・4-8 第47話 「遺跡:1」
金属が欲しい。
その探索のために準備を整えていたら、意外なことになって来た。
この惑星には、確実に人類文明が関わっている。
それなのにその痕跡が奇妙なほどに少ない。
そのことについてずっと疑問は抱いていたのだが、驚いたことに、人間の遺物が地下に埋もれているのだという。
それも、穣司が一度ならず、何度も訪れた場所に。
腐葉土を集めたり美味しい木の実を探したりするために、度々足を運んだことがあるのにも関わらず、まったく気づけなかった。
(いったい、どういう場所なんだろう? )
明日にでも出発しようと急いで遠征の準備を整えている彼の内心は、穏やかではなかった。
大量に金属を手に入れることができるかもしれないという期待もあったが、それよりも、この惑星に人類がいた、という確固とした証拠を得られるかもしれないということに対しての興奮が大きい。
もしかしたら、ちぐはぐに思えるケモミミたちの在り方の謎も解けるかもしれない。
なぜ、人間はこの惑星から姿を消したのか。
現在の環境を作り出したのは彼ら、あるいは別の誰かなのか。
そして、ケモミミたちが生まれたのは、どういう経緯なのか。
期待と不安。
アレコレと想像がかき立てられ、その日は、明日に備えてしっかりと休まなければならなかったのに、なかなか寝付けないほどだった。
そして夜が明けると、みんなで朝食を済ませ、前日に準備しておいた荷物を持って出発しようとする。
≪あの、ジョウジ≫
身に着けたパワードスーツの充電を確認し、念のため今回は携行することにした銃の状態を確かめていた穣司に、脱出艇のAIが控えめに話しかけて来る。
「どうした? また、何かあったのか? 」
≪い、いえ。……特に、何も。
その、気をつけて行って来てください≫
(少し、変だな)
違和感のある態度だった。
基本的に用事が無ければ、AIの方から話しかけて来ることはなかったのに。
こんな、取ってつけたような挨拶をするのは珍しかった。
(今はとにかく、ダンジョンとやらを調べよう)
だがすぐに穣司は気にしないことにしていた。
今は遺跡を調査し、金属を入手することが最優先だ。
他のことを考えている余裕はなかった。
「それじゃぁ、しゅっぱーつっ! 」
「「「おーっ! 」」」
ケモミミたちは、実に楽しそうだ。
この時のために付加製造装置(3Dプリンター)で作成した、植物繊維を利用して作ったリュックサックを背負ったコハクのかけ声に笑顔で応じ、軽やかな足取りで歩きだす。
その後を、穣司は無言のまま追った。
パワードスーツの足音だけがガッシュンガッシュンと響いている。
ダンジョンには、どんな出来事が待ち受けているのか。
ケンタウリ・ライナーⅥで、AIの反乱に対処していた時と同じくらいに緊張している。
未知と出会うことを純粋に楽しみにしているケモミミたちと、どういった発見が待ち受けているのか、期待と不安を抱いている穣司とでは、ずいぶん様子が違った。
「ねぇ、ジョウジ。
大丈夫かい? 」
その様子を心配したのか、ペースを落として横に並んだディルクが顔をのぞき込んで来る。
「ああ、大丈夫だ。
少し、いや、かなり緊張はしているがな」
「ふぅん、そっか。
でも、無理はしたらいけないよ?
もしもの時は、ボクが背負って運んであげるから」
「わかってるさ」
パワードスーツを着ているし、表情が険しいのは体調不良や疲労のためではなく精神的なものが原因だったが、ディルクがこう言ってくれると頼もしいと、微かに笑みが浮かぶ。
いつものように小川沿いをさかのぼっていく。
何度も往復しているせいか、自分たちや他のケモミミたちが踏みしめていった跡が残っており、すっかり道ができあがっていた。
そこだけ草がなく、地面が踏み固められている。
おかげでずいぶん、歩きやすくなっていた。
(もう、ひと月は経っているんだものな)
自分がこの惑星に不時着してから、それだけの時間が経っている。
コハクたちと出会ったことで、自分一人ですべてを行っていた場合よりもずいぶん早いペースで目的に向かって進むことができているが、それでも、どんどん時間が過ぎ去っていくことには焦りを覚えてしまう。
着実に進んではいる。
食料の生産体制も整ってきているし、多くのケモミミたちも集まって来て、手助けしてもらえるようになった。
自動で畑に水をまくことができる散水装置だって完成した。
それなのに、この、いつの間にか出来上がった道を見ていると、不安になって来てしまう。
いったい、自分はあと何度、ここを往復することになるのか。
想像してみると気が遠くなる思いがするのだ。
(金属だ!
鉄でも、なんでもいい。
使い物になる金属さえ、手に入れば! )
今はただ、うまく目的のものが見つかってくれることを願う。
「見えてきたぞ!
ああ、懐かしいな~」
しばらく歩き続けると地平線に森の木々の姿が見え、ハスジローが感慨深そうな声を漏らす。
彼にとっては一年以上ぶりの帰郷になる。
感傷的になるのもよく分かる。
「は~、いつ来ても、この森は気持ちがいいね~」
「本当に。美味しいフルーツもたくさんあるし」
そのまま進んで森に入ると、ディルクが心地よさそうに身体を伸ばし、ヒメが物欲しそうな顔できょろきょろと周囲を見回した。
(あんまり深刻になり過ぎてもダメだな)
彼女たちの普段通りのリラックスした姿を見て、穣司の緊張も少しだけ解れる。
もしかすると、森の中に入って、酸素を多く含んだ新鮮な空気を吸ったからかもしれない。
「遺跡は、ここからもう少し奥に行ったところにあるんだ。
一休みして、ここで寝泊まりする準備ができたら、すぐに案内するよ」
「やった~っ! また、このお家でお休みできる~! 」
「お邪魔します」
「お世話になるよ~」
ぞろぞろと木のうろの中に入り込み、持ってきた荷物を下ろして思い思いの場所に座って休憩。
「さすがに全員で来ると、少し狭いかもな」
「でも、楽しそうでいいでしょ! 」
パワードスーツを着たままなので余計に狭苦しく感じた穣司が呟くと、終始楽しそうなコハクが屈託のない笑顔でそう言った。
本心から今回の探索を楽しんでいるらしい。
(コハクはいつも、自然体だよなぁ)
そのことが微笑ましく、少し羨ましくもあった穣司は、微かに笑みを浮かべつつも、やはり消えることのないプレッシャーも感じている。
十万人を救え。
大勢の仲間たちが命を賭けたその目的を果たせるのは、自分しかいない。
その自覚が彼にとっての力の源であり、同時に、重荷ともなっていた。




