・4-1 第40話 「金属を探せ」
・4-1 第40話 「金属を探せ」
柴犬耳のコハクと猫耳のヒメに続いて、馬耳のディルクも仲間に加わり、ゆっくりとではあったが順調に進んでいた穣司の惑星開拓。
それは、唐突なピンチに陥っていた。
(足りねぇ……!
ぜんっぜん、野菜が足りねぇ! )
もう、冷や汗が止まらない。
安定して育つようになった野菜。
その収穫量が、急に不足し始めているのだ。
理由は、単純。
供給量の増加よりも、需要の方が急増してしまったから。
これまで、ケモミミたちは人間である穣司のことを恐れ、遠巻きにして見ているだけだった。
そういう状況を変えたいといろいろ工夫をして来て、自分たちが美味しい野菜を作ろうとしているだけなのだと知ってもらうためにおすそわけをしたのだが、そのことが裏目に出てしまったらしい。
「「「こんなに美味しい食べ物があったなんて! 」」」
近隣の住民たちはみなそのことに驚き、感激し、———誰もが欲しがるようになった。
農作業を手伝うことで、ディルクがニンジンを分けてもらった、という話を聞きつけたようだ。
自分も働くから野菜を分けて欲しいというケモミミが、あれから何人も姿を見せるようになっていた。
これは、嬉しい変化でもあった。
もっとたくさんのケモミミたちと交流したいと思っていたし、この惑星の情報について、いろいろな相手から話を聞いてみたいと思っていたからだ。
しかし、全員に分けようと思っても、収穫できる量が決定的に足りない。
そもそも穣司とコハクとヒメが食べる分に、少し余るくらいの予定で作っていたものなのだ。
穣司たちが育てている野菜の評判は平原だけではなく、周辺の地域にも広まって、そこからもケモミミたちが足を運んでくれるまでになっていた。
こんなに押しよせてくるようになった全員に野菜を分けていたら、足りなくなるのは当然だ。
なんとか生産量を増やそうとしたのだが、そんなに急に畑の面積は増やすこともできなかった。
人手はある。
これまでに開拓団に加わってくれたケモミミ以外にも、協力を申し出てくれている相手が何人もいるからだ。
だが、道具が足りないのだ。
ケモミミたちは、その身体の一部となっている動物の特徴に応じて様々な特殊能力を持っている。
しかし、素手で平気で地面を耕すことができる者はおらず、クワなどの農具なしには作づけ面積を増やすことは難しく、全員が望むだけの作物を育てることができる広さの畑は作ることができなかった。
急遽クワなどの農機具を増やして配り、協力してもらったものの、そこで金属材料を使い切ってしまった。
若干収穫量は増やせたが、こうした、道具がない、という事情で慢性的な野菜不足が起きてしまっている。
「ごめんねぇ、穣司……。
ちょっと、ボクがあっちこっちで話をし過ぎちゃったみたい」
「いや、ディルクさんのせいじゃないさ」
すまなさそうに耳をしおれさせているディルクに、穣司は安心させるような笑顔を見せる。
実際のところ、この状況を招いたのは彼女ではなく、自分自身だった。
ケモミミたちと打ち解けたい一心で作物をおすそ分けをしようと決めたのは他の誰でもない。
穣司なのだ。
これほど好評になり、問題が起こってしまうとは少しも予想できていなかったとはいえ、ディルクに謝ってもらうのは絶対に違うだろうと思えた。
「は~。しっかし、どうしようか」
精一杯に広げた畑を見渡しつつ、思案する。
広くなったし、育てられている作物の種類も豊かになった。
あれからやってきたケモミミたちが、「これも育ててみて欲しい! 」と何種類もの植物を持ち寄ってきてくれたからだ。
これまで育てていたカブ、ジャガイモ、ニンジンの三種類に加え、キャベツ、アスパラガス、エンドウ豆、玉ねぎ、菜の花など、春に旬を迎える作物が畑一杯に植えられている。
種類が増えたおかげで、育てる野菜の種類をローテーションさせて連作障害を回避することもできるようになった。
これらの植物もやはり、成長が早い。
中には、元々は年をまたいで育てるような種類もあるはずだったが、数日で芽が出て葉や茎がのび始め、長くても二週間以内に実ってしまう。
しかし、育てても育てても、穣司たちの口に入ってくる量は限られている。
手伝ってくれたり、新しい作物を持ってきてくれたりしたケモミミたちに分けてしまうと、残る分は限られてしまうからだ。
みんなでお腹いっぱい美味しい野菜を食べるためには、もっと畑を広げないといけない。
だがどう頑張ってみても、道具が不足していてはそうすることはできなかった。
今までは、金属材料は脱出艇から脱落した外壁パネルや、破損して修理不能になった部品などを利用して来た。
これらの素材はできれば艇の修繕や星間通信装置の製造に使いたかったが、まずは生活基盤を整えなければならないと考えていたから、転用していたのだ。
だが、そういったものはすっかり使い尽くしてしまった。
見つけられる範囲の破片や残骸はすべて回収して農機具に作り直してしまっており、これ以上金属を確保しようとすれば、脱出艇の破損していない無事な部分にまで手をつけなければならない。
それでは、本末転倒だ。
穣司の第一の目標は、あくまで漂流している十万人の命を救うことであったからだ。
かといって、このまま野菜の生産量を限定したままにしておくこともしたくはなかった。
せっかく集まってきてくれたケモミミたちが、残念そうな顔をして帰っていく様子を見るのが不憫なのだ。
耳をしおれさせ、尻尾を力なく垂らし、がっくりとうなだれて。
去っていく背中を見送ると、いつも申し訳なくなってしまう。
できれば、全員に美味しい野菜を食べさせてあげたい。
そうして「美味しい! 」と喜んでもらうことの嬉しさを、穣司はこの惑星にやって来てから、知ってしまった。
「……なんとか、探しに行くしかないよな」
しばらく悩んだ後に、そう決心をする。
そもそも金属などの資源は、彼の目的を達成するためにはどこかで見つけなければならないものだった。
探し出して、必要な量を集めなければならなかった。
この辺りに広がっているのは平原で、堆肥さえ与えれば豊かな実りをもたらしてくれるが、金属などは見当たらない。
それを発見するためには、探索範囲を広げて、これまでよりも遥かに遠くまで出かけなければならないだろう。
森と脱出艇の間を往復するように、日帰りすることは難しい。
何日もかけて探し回ることになる。
その間、畑の面倒を見ることはできないし、安全に寝泊まりできる場所もいちいち確保しないといけない。
しっかりと準備を整えてから出発しなければ、とても大変そうだ。
「なぁ、コハク、ヒメ、ディルクさん。
ちょっと相談したいことがあるんだが……」
それでも、長期遠征は決行しなければならないはずだ。
そう決心した穣司は、彼と同じように困った様子で畑を眺めていた開拓団の仲間たちに声をかけていた。




