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・3-10 第38話 「みんなのクルマ」

・3-10 第38話 「みんなのクルマ」


 周辺に住むケモミミたちを代表し、穣司たちの様子を確かめにやって来たディルクが納得して帰ってから、数日が過ぎていた。


「なんとか、もっと遠くに行ける準備を整えないとな」


 朝の水やりを終え、すくすくと元気に育っている野菜たちの姿を眺めながら、穣司はそんなことを呟いていた。


 今、彼が言っている[遠出]というのは、以前のように日帰りで森に行く、とかではない。

 もっと遠くにまで探索に出かけたい、ということだ。


 生き抜くことだけなら目途が立った。

 食料は安定して調達できるようになったし、コハクとヒメという仲間も加わって、順調に進んでいる。


 だが、まだまだだ。

 人類文明とコンタクトを取り、漂流している十万名のケンタウリ・ライナーⅥの乗客を救うために立てた目標を達成するためには、解決しなければならない課題がいくつも残っている。


 とにかく、どうにか第一歩を踏み出した、という程度に過ぎないのだ。

 暮らしが安定したことで余裕ができ、先のことも見通せるようになると、あらためて長い道のりが待っているのだと実感させられる。


 星間通信が可能な通信装置を作り出すか、あるいは、脱出艇でこの惑星を離れ、地球へと向かうか。

 どちらの方法を取るのにしても、必要な材料を集めなければならない。


(まぁ、集めればいいんだから、その点は楽だと考えよう)


 穣司は肩をすくめ、そう考えることにして自分を励ましていた。


 実際、材料さえあれば、部品は作れる。

 付加製造装置(3Dプリンター)と、物質分解機が役に立ってくれる。

 製造には設計データが必要だったが、その点は、メカニック・エンジニアである穣司が自力で用意できるし、時間を見つけてはコツコツと図面を引いている。


 後は本当に、材料さえあれば、という感じだった。

 まず、多くの金属がいる。

 それに星間通信を可能にする通信機器を製造するためには、いくつもの希少資源も必要になる。


 そういったものは、どこで手に入るのか。

 近場にはそれらしい場所はなく、もっと探索範囲を広げて探し出さなければならない。


「食料の備蓄をたくさん、できるようにしないとなぁ……。

 あと、乗り物も作らないと」

「乗り物?

 それって、クルマ、っていうやつ? 」


 その呟きに反応して、うとうととまどろんでいたヒメが顔をあげる。


「なんだい? 知っているのかい? 」

「うん。前に、本で読んだ。

 丸い車輪のついた、おっきな機械。

 人や物をたくさんのせて、速く、遠くまで走って行けるんだって。

 ずっと、本物に乗ってみたかった」

「へ~? それって、どんなものなの? 」


 車の話を聞いて、コハクも興味を示してくる。


「う~ん。こんなやつかなぁ」


 口で説明するよりも、絵でもあった方が分かりやすいだろう。

 そう考えた穣司は、焚火に使うために森で集めて来た枝のひとつを手に取り地面にシャーシを描き、そこに車輪、運転席、そして乗員席を書き足していく。


「ここにオレが乗って、運転する。

 コハクとヒメも一緒に乗れるようにしたいな」

「わ~! いいね、いいね~!

 よくわかんないけど、なんだか楽しそう! 」


 みんなで同じ乗り物に乗って遠くに出かける。

 それだけでもう楽しさが想像できたのか、コハクはぴょんぴょん、飛び跳ねてはしゃいでいる。


「ねぇ、ジョウジ。もっと荷物を積めるようにした方が良くない? 」


 一方のヒメはそう言うと、穣司が描いた車の後ろ側に車輪のついたシャーシをつけたし、その上に荷物らしき絵を乗せる。


「こういう、とれーらー? だったかな。

 荷物をたくさん積んで運べるようにするものも、要ると思う」

「なるほど。確かに。

 これも、本で読んだのか? 」

「うん」


 すると、またも猫耳の少女が自分の知らないことを知っていた、ということが悔しかったらしい。

 少し頬を膨らませたコハクが穣司から枝を奪い取り、乱暴にさらに絵を描き加えた。


「ならね! いっそのこと、お家を乗せちゃおうよ!

 そうしたらどこに行っても寝泊まりできるし、便利だよ! 」


 車の上に、コハクの住処である巨木のうろが乗せられている。


「さすがに、あの大木は乗せられないかな」


 苦笑しながらも、(悪くないアイデアだ)とも思っていた。

 探検のために遠くまで出かけるのならば、当然、何泊もする大旅行になるだろう。

 その時、いつも寝泊まりできる場所を見つけることができればいいのだが、必ずそうなるとは限らない。


 そんな時に、車内で宿泊できれば便利だし、なにより、お泊り会みたいで毎日楽しいだろう。

 天窓をつけて星空なんかを見上げられれば、素敵だ。


「けど、アイデアは悪くないぞ!

 キャンピングカーって言ってな、コハクが言うように家が乗っている車もあったんだ。

 ベッドもキッチンもついていて、本当の家みたいなんだぞ?

 シャワーっていうのもついていて、いつでも水浴びができるんだ」

「わ~っ! すっごい! たのしそー! 」

「うん。ワクワクする」


 なんだかいろいろとてんこ盛りになって、よほど強力なエンジンを積まないとまともに走ってくれそうになかったが、想像の中だけならばどんなものでも作れる。

 穣司たちはそれからも、アレがあったらいい、コレも欲しいと、どんどん付け足して行って、夢の車を完成させた。


(本当に、みんなでこうやって出かけられるようになるといいんだがな)


 心からそう思ったが、まずはやはり、自分が背負うと決めた責任を果たさなければならない。


 いずれにしろ車両があった方が良いのは間違いないので、まずは、小型の四輪駆動車でも作ってみようかと思った。

 脱出艇の残骸を物質分解機にかけて3Dプリンターで部品を出力させれば、三~四人乗りで、そこそこの荷室を持ったコンパクトSUVのような車両ならば作れるだろう。

 いわゆる[ジープ]とか呼ばれる車両だ。

 そしてそういった車があれば、行動範囲は間違いなく広げることができる。


 そう考えて、さっそく、図面でも引いてみようかと考えていた時だ。


「おーい! おーいっ! 」


 少し離れたところから呼びかける声がする。


 振り向くとそこには馬耳の女性、ディルクが立っていて、大きく手を振っていた。


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