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・3-8 第36話 「誤解を解くために:2」

・3-8 第36話 「誤解を解くために:2」


 一心不乱に、むさぼるように。

 あっという間に平らげられていくニンジンを、穣司は満足感を覚えながら見つめていた。


(どうだい? オレたちが育てた野菜は、美味いだろう! )


 誇らしい気分だった。


 試行錯誤して、苦労して作り上げたものだ。

 こうして、自分ではない誰かにもその出来栄えを認められ、喜んでもらえると、その甲斐があったと実感することができる。


「ご、ごちそうさまでした」


 一瞬で食べ終わってしまったニンジンがあったはずの空間を一瞬名残惜しそうに見つめた後、馬耳の獣人ケモミミ、ディルクは、やや頬を赤らめながらそう言った。

 味見のつもりが、我を忘れて没頭してしまったことが恥ずかしかったらしい。


「どういたしまして!

 そういうわけで、オレたちは別に、怪しいことなんかはしてないのさ。

 こうやって、美味しい野菜を育てて、みんなで食べたいだけなんだ」

「そうそう!

 それにね、お料理すると、もっともっと、美味しく食べられるようになるんだよ! 」


 得意げな笑みを浮かべ腕組みをしながら穣司が言うと、それにコハクが楽しそうに続ける。

 これまでにやったことのない農業や料理をする今の生活が嬉しくてしかたがない、という様子だ。


 ケモミミたちは、料理という概念を知らない。

 耳慣れないその単語にディルクは首を傾げた。


「りょうり? それって、なんのこと? 」

「え? えっとね~。

 食材を食べやすい大きさに切ったりして、火を通したり、お湯で煮込んだりして、柔らかくして味付けもして、食べられるようにすることなの!

 そうするとね、生で食べるよりも、もっともっと! 美味しくなるんだよ! 」


 間違ってはいないが抽象的ちゅうしょうてきな説明だ。

 もっとも、穣司もあまり口が上手な方ではないから、コハクより上手に説明できたとは限らない。

 むしろ、「にへ~っ」とした笑みで楽しそうに教える彼女の方が、料理の魅力をより強く表現できている。


(塩だな……。そろそろ、塩が欲しい)


 本当は料理というのはもっと複雑で奥深いものなのだ。

 そのことも伝えたい、もっと美味しいものを一緒に食べたいと思ったが、それには根本的に調味料がない、ということを思い出す。


 人間は食事をさらに豊かにして楽しむために、様々なスパイスを使いこなしていた。

 だがここではそれは手に入らないし、それどころか、もっとも基本的な調味料である塩さえ、まだまともに手に入れることができていないのだ。


 ここには、味噌も醤油も、ケチャップもマスタードも、ウスターソースや中濃ソースも、何もかもがない。

 生き延びる、というだけなら十分に目途が立ってくると、そういうものも欲しいと思い始めてしまう。

 余裕が出てきているのだ。


「へ、へ~?

 もっと、美味しく食べられるんだ……」


 イマイチ料理というのがどういうものなのか分からなかった様子だが、「もっともっと美味しい」という言葉に反応したのか、ディルクは馬耳をヒクヒクと動かして、ソワソワとしている。

 自分も食べてみたくて仕方がないようだ。


(うむ。やはりお馬さんには、ニンジンだよな)


 その反応に、最初に試食してもらう野菜としてニンジンを選んだ自分の判断は間違っていなかったと穣司は確信する。


 馬と言ってもいろいろあって、中にはフルーツの方が、とか、いろいろと好みが分かれるのだが、大抵はニンジンを好物としている。

 そしてその味わいはディルクの舌にも合っていたらしい。

 この痩せた平原で育つ、貧弱な細い根っこではなく、丸々と太って実が詰まった、甘くて栄養たっぷりのものなのだから、美味しいと思うのは当然だろう。


「まぁ、そういうわけだから。

 オレに対しての嫌疑は、大体は晴れたんじゃないかな? 」

「う、うん……。

 悪いことはしてなかったみたいだね」


 そろそろ納得してもらえただろうと思い声をかけると、ディルクは今までよりも幾分か少し和らげてうなずいてくれた。

 だが、なにかを思い出したように「あっ」という声が漏れる。


「うん? どうしたんだい? 」

「まだ一個、解決してないことがあったなって。

 あの、ガッシュンガッシュン、うるさいの。

 いったいなんなのかなって」

「ああ、パワードスーツのことか」


 そう言えば、ケモミミたちは穣司が身に着けていた宇宙服も怖がっていた。

 そのことを思い出した穣司は、これもなにか恐ろしいものなどではないということをなんとか分かってもらおうとする。


「あれはパワードスーツって言ってな。

 まぁ、その……、服の一種、かな」

「服?

 服が、あんな恐ろし気な音を出すのかい? 」

「服っていっても、機械なんだ」

「きかい……? 」


 人類文明と馴染みのない自然の中で暮らして来たのだから、機械というものがなんなのか分からなくても仕方がないだろう。

 だが、そういう完全に未知のものについてうまく説明するのは難しい。

 言葉は通じているのに、単語の意味や概念が共有されていないから、話がかみ合わないのだ。


「ええい、もう!

 直接見てもらった方がいいだろう! 」


 アレコレ悩んでみたが、いい説明が浮かんでこない。

 このままでらちが明かないと思った穣司は半ば叫ぶようにそう言うと、クイ、と親指で背後の、ハッチが開け放たれたままの脱出艇を指し示す。


 するとディルクはまた少し驚いて、キツネ目になっている双眸そうぼうをわずかに見開いた。


「えっ?

 入ってもいいの? 」

「いいさ。

 見られて困るものは別にないし、口で説明するよりも実物を見てもらった方が分かってもらいやすそうだ。

 それで納得してもらえるんなら、それでいい」


 実際のところ、すでにコハクとヒメと一緒に暮らしていることもあり、脱出艇の内部は秘密でもなんでもない。

 ディルクに見てもらうことでこの地域に住んでいる他のケモミミたちにも過度な警戒心を解いてもらえるのならば、いくらでも案内をする。


「そ、それじゃぁ……。

 拝見させてもらおうかな」


 おそらくは、ディルクも人間の暮らしぶりに興味が湧いてきているのだろう。

 少し躊躇ちゅうちょした後、はしゃいだように耳をピコピコさせながら上目遣いになって彼女はうなずいていた。


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