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・3-7 第35話 「誤解を解くために:1」

・3-7 第35話 「誤解を解くために:1」


 穣司にはそんなつもりは一切なかったのだが、どうやら、彼の今までの行動は、周囲に暮らしているケモミミたちをずいぶん、怖がらせてしまったらしい。


 誤解を、解かなければならない。

 そう決心すると、一度深呼吸をして気持ちを落ち着け、脱出艇のAIに命じる。


「AI。ハッチを開いてくれ」

≪承知いたしました≫

「それから、オレが外に出て行っても開きっぱなしにしておいて欲しい」

≪……よろしいのでしょうか? ≫

「ああ。こっちに隠しごとをする意思がないっていうのを、あの馬耳さんに見せてやりたいんだ」

≪承知いたしました。

 お気をつけて、ジョウジ≫


 それから穣司はコハクとヒメの方をそれぞれ振り返り、「すまないが、一緒に来てくれないか? 」とたずね、了承してもらっていた。

 人間である自分だけが出て行くよりも、同じケモミミが一緒にいた方がきちんとした話し合いができるだろうという考えだ。


 それに、それほど長い期間ではないとはいえ、二人は穣司のことを知っている。

 彼が危険な存在などではないし、周囲で暮らしているケモミミたちが抱いている恐れは杞憂きゆうなのだと、証言してもらえるかもしれない。

 そんな期待がある。


「……はっ、はひっ!? 」


 開いたハッチからゆっくりと外に出ると、穣司の、人間の姿を目の当たりにしたディルクはたじろいで身構え、体を引き気味になっていた。

 今すぐにでもここから逃げ出したそうな様子だったが、それでも踏みとどまる。

 自分のことを慕ってくれるケモミミたちのために引き下がれないという、責任感があるのだろう。


「初めまして。ディルクさん。

 オレの名前は多比良 穣司。

 見ての通り、人間だ」

「やっほ~、ディルクさん。

 ひさしぶり~。

 倒木をどかしてくれた時は、ありがとうね! 」


 まずは自己紹介から、と名乗るのに続いて、隣に並んだ柴犬耳のコハクが、親し気な様子で挨拶をして手を振る。

 するとディルクは驚いていたが、同時に、知った顔を見つけて安心し、ほっとした様子だった。


「あ、あれれ?

 コハクちゃん!?

 ど、どうして、ここにいるの? 」

「うん。ちょっとね~。

 引っ越したわけじゃないんだけど、しばらく一緒に暮らしてるの! 」


 それから柴犬耳の少女は、気恥ずかしそうに頬をかきながら説明する。


「えへへ~。

 実はね、ディルクさん。

 ジョウジに、人間さんにさらわれたの、多分、あたしなんだ」

「……え!?

 えええっ!?

 だ、大丈夫なの!?

 な、なにか、されたりとかしてない!? 」

「ううん、全然、平気だよ!

 だってジョウジ、とってもいい人間さんだったし!

 あの雨の時はちょっとびっくりして叫んじゃったんだけど、あの後、タオルを貸してもらって身体を拭かせてもらったり、暖かい飲み物をくれたり、いろいろ親切にしてくれたんだ~。

 だからね、しばらくここで、ジョウジのお仕事をお手伝いすることにしたの。

 お礼、っていうやつ?

 それにね、農業っていうの、けっこう楽しいんだよ! 」

「の、ノウギョウ……? 」

「土を耕して畑を作って、そこで作物を、食べ物を育てているんだ」


 まず誘拐されたと勘違いされていた本人から誤解を解いてもらって、それから穣司が説明を引き継ぎ、以前収穫したニンジンを取り出して見せる。


「な、なにそれ!? そんなに大きなの、見たことない! 」


 その立派なサイズのオレンジ色の野菜を目にして、ディルクは口元に手をやりながらとても驚いていた。

 無理もないことだ。

 この辺りの土壌は痩せているから、自然に、こんな風に育つことはない。

 穣司たちも何度も失敗をして、ようやくここまで大きく、美味しくすることができたのだ。


「ほら、そこの畑、土を掘り返したところに、コレと同じものがたくさん植えられているだろう?

 こうやって、自分で食べるものを作っているのさ」

「へ、へ~……。

 人間って、変なことをするんだね~」

「まぁね。

 良かったら味見をしてみるかい? 」


 自分たちが行っていることはなにも怪しいことなのではなく、ただ、美味しい食べ物を育てているだけなのだ。

 そのことを分かって欲しくてニンジンを一本勧めてみるが、しかし、ディルクはあからさまに警戒している視線を向けて来る。


「い、いらないよ!

 人間から食べ物をもらうなんて、おっかないもの! 」


(……これが、普通の反応なのかもな)


 思わず真顔になった穣司は、視線をコハクの方へと向けてしまう。

 いきなり携帯食料を盗み食いしたり、三本もらえるところもう一本ちょうだいと要求してきたり。

 柴犬耳の少女の反応は、ケモミミたちの中ではイレギュラーであったように思える。


(今思うと……、ちょっと、心配になって来るな)


「ん? なぁに? ジョウジ? 」


 そんな内心など知らないコハクは、怪訝けげんそうに首を傾げている。


 咳払いをしてごまかし、視線をディルクへと戻した穣司は、「心配しなくても大丈夫さ」と言うと、その場でニンジンを豪快にかじって見せた。

 バリバリ、という小気味よい音が口の中から響いて来る。


「ほら、危ないことなんてちっともない。

 それに、すっごく美味いんだぞ?

 なにせ、これを作るために森まで行ったんだからな」

「そうだよ、ディルクさん!

 腐葉土っていうの!

 森の落ち葉が積もって、土になったやつ!

 それを使って育てるとね、とっても美味しい作物が育つの! 」


 コハクは楽しかった思い出を自慢したいらしい。

 はしゃいだ様子で少女がそう言うと、どう見ても無理矢理に言わされていたり、嘘をついていたりするようには見えないその様子に、ディルクの警戒心はやや緩んだ。


「そ、そんなに美味しいっていうのなら……。

 せ、せっかくだし?

 ボクも、一本、いただこうかな……」


 やはり、見たこともないほどに立派に育ったニンジンの味わいに興味があったのだろう。

 まだ少し距離を取ろうとしているが、ちょっとだけ心を開いてくれたように思える。


「コハク。すまないが、中から一本、いいのを取って来てくれないか?

 食べかけを渡すのは悪いからな」

「うん! りょ~か~い! 」


 穣司が頼むと元気にうなずいたコハクはバタバタと駆けて行き、すぐにビュン、と駆け戻ってきて、「はい、どーぞ! 美味しいよ! 」と、自分の手で収穫したものを手渡す。


 それを、ディルクは慎重に扱った。

 まずはにおいをかぎ、異常がないかを確認。

 それからキツネ目を少しだけ開いてじっくりと観察し、やはり、おかしなところがないかを観察している。


一、二分ほどもそうしていただろうか。

 やがておもむろに口元へと運び、控えめにかじり、おそるおそる口の中で咀嚼そしゃくする。


「……美味しい!

 コレ、すっごく、美味しいっ!!! 」


 ディルクは双眸そうぼうを大きく見開くと、夢中になってニンジンにかぶりつく。

 そしてあっという間に、完食した。


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