・3-4 第32話 「初めての豊作:2」
・3-4 第32話 「初めての豊作:2」
初めての豊作。
これまでとは明らかに違う、大きく育った作物たち。
穣司たちはそれを大喜びで収穫していった。
「見て見て、ジョウジ! こ~んなに、おっきい! 」
「こっちは、ほら、変な形してる! 」
泥んこになるのも気にならない。
にこにことした笑顔で、うきうきとはしゃぎながら、大地の恵みをかき集める。
やがてそこには、収穫されたカブが山のように積まれていた。
想像もできなかった光景だ。
以前に得られたものはあまりにも貧弱で小さく弱々しく、しかも獲れる量が少なかったから、[積む]、などということはできなかったのだ。
当然、味も最高だった。
まずは、生のままで直接かじってみる。
小川でよく洗い皮をむいてそのままかぶりつくと、歯切れの良い食感と共にぎっしりと詰まって肉厚の実が口の中に転がりこんで来た。
そしてそれを噛みしめると、頭に響くようなバリバリという音とともに、舌の上に新鮮そのもので甘みのあるカブの味わいが広がった。
みんなで並んで夢中になって頬張った後、今度は火を通してみる。
焚火を起こし、湯を沸騰させて、その中に丸く膨らんだ根の部分を一口大に切り分けゴロゴロと放り込み、しっかりと火が通って柔らかくなるまで待つ。
「うまい! 」
「おいし~! 」
「これ、は……! 」
アツアツに息をふーふーと吹きかけて頬張ると、生の時の小気味よい歯切れとは一転して、舌ででも潰せそうなほどに柔らかくなった実からカブの味わいがあふれ出し、より濃厚になった甘味がしっかりと感じられた。
そのまま食べてもよし。
火を通してもよし。
シチューやポタージュといった料理にすれば、もっともっと、美味しく食べられるだろう。
そして、しっかりと空腹が満たされる。
瑞々しく詰まった実は食べ応えがあった。
携帯情報端末を使って成分を分析してみると、栄養価も高く、空腹を満たしてくれるだけでなく、食べると身体が元気になりそうだ。
そして、豊作になったのはカブだけではなかった。
他に畑に植えていた作物である、ニンジンやジャガイモも立派に育ってくれていた。
「こりゃ、凄いことになりそうだ」
予想以上の収穫となり、脱出艇の内部に新たに設けられた保管場所に積み上げられた作物を眺めながら、穣司はどうしてもニヤついてしまっていた。
今は根菜類に偏ってしまっているが、周囲には他にも食用にできそうな植物がいろいろと生えていた。
春だから、キャベツや豆類、玉ねぎなどを見つけることができれば、育てることができるだろう。
そうなると、一気に食卓が賑やかになる。
これまでは、脱出艇に備えつけられていた非常用の携帯食料を主に消費して来た。
一定期間それだけで過ごしても飽きが来ないよう、様々な味が用意されていたが、どれも見た目や食感は似通っていてどうしてもマンネリ化して来てしまっている。
しかしこうやって生の食材を確保することができるようになると、様々な料理を作ることができる。
簡単なのは素材をほぼそのまま使えるサラダ、具材を煮込むだけで作れるシチューやスープ類だったが、工夫をすればもっといろいろなものも食べられるだろう。
美味しく食事をする、というのは、意外に大切なことだ。
楽しくて幸せな心地になることができるし、また美味しものが食べられるように頑張ろう、というモチベーションにもつながって来る。
単純に栄養を摂取する、という作業になってしまうと、つまらないし、すぐに飽きが来てしまう。
さらには、食料の確保が叶って、当面の生存の見通しが立つと、気持ちに余裕が生まれて来る。
十万人を救うという最終目標のために取り組める時間を増やすことができるのだ。
共同生活を送っているケモミミたちも、とても満足そうで、嬉しそうだった。
美味しいものが食べられるだけでなく、穣司と同じように、自分たちの努力の結果がこうして形になって実ったことに感動し、喜びを感じているのだろう。
「にっへっへ~♪
もっとたっくさん、いろいろなものを育てたいな! 」
「うふふふ……。
いつかはこの、ささみ味のごはんも、好きなだけ食べられるようになるかも……」
コハクは農業がすっかり楽しくなった様子で、首と尻尾を左右に振りながらにこにこと笑っている。
ヒメはというと、すっかり自身のお気に入りとなった携帯食料と同じものを量産して思いきり食べるという野望を抱いているようだ。
ただ、作物を育てつつ集めていたデータからは、こうした収穫を得るためにはかなりの手間がかかる、ということが明らかになっていた。
やはり、連作障害が起きそうなのだ。
植物の成長には様々な養分が必要になるが、種類によって、特に必要とされるものがそれぞれ決まっている。
同じ畑で何度も同じ作物を育てると、それが必要とする成分だけがどんどん消費され、やがてうまく成長できないようになってしまうのだ。
こうした事態を避けるためには、その都度、必要となる成分を肥料として与え、補ってやらなければならない。
それか、耕す場所を変えてしまうか。
(できれば、あまり遠くまで広げたくはないな)
一度畑にしたところは自然に戻し、別の場所を畑に作り直す、ということを行うとすると、それでは収穫をくり返すたびにどんどん、脱出艇がある場所から畑までの距離が遠くなってしまう。
そうなったら作業が大変になり、管理も行き届かなくなる。
やはり通いやすい近場にある畑で何度も収穫をできるようにしたかった。
そのためには適した成分を含んだ肥料を安定して確保してやる必要がある。
また森から腐葉土を持って来れば、とりあえずは足りるだろう。
しかしこれから何度も収穫を行うとなると、それではうまく行かなくなるかもしれない。
作物にはそれぞれ、特に消費しやすい成分と、そうでもない成分がある。
特定のものを多く必要とする畑に、毎回、あまり使わないものまで含んだ堆肥を与え続けると、土壌の中の栄養のバランスが崩れてしまって、悪影響が出てくるかもしれないのだ。
人間もそうだが、植物もバランスを整えてやる必要がある。
足りなくてもいけないし、多くてもダメだ。
不足する養分だけを必要に応じて補えるようにする。
適した肥料をどこかで見つけて来るか、あるいは、自分で作り出すか。
完全な自給自足を達成するためには、解決しなければならない課題だった。




