・2-9 第28話 「結成! 開拓団」
・2-9 第28話 「結成! 開拓団」
その日の昼食は、いつものことではあるが携帯式の非常用食料だった。
以前よりもマシな収穫が得られるようになったとはいえ、まだまだ、畑の作物だけで空腹を満たすことはできない。
今日は、鳥ささみチーズ味と、ジャガイモと野菜味の二本だ。
たったこれだけで一食分の栄養素をほぼ補うことができてしまう。
畑で収穫した野菜は煮て、これだけでは物足りなかった場合に自由に食べるようにしている。
出されたブロックタイプの携帯食料をヒメはしばらく興味深そうに観察していたが、穣司とコハクが当たり前のように食べている姿を目にして口に運んだ。
「……。
おお~。これ、美味しい」
かじりつく時にはまだ躊躇があったが、一口目ですぐに気に入ったらしい。
後はにこにことした顔で食べ始める。
(さて。どうしたものかな……)
その様子を観察しながら、穣司はじっと考え込んでいた。
そもそも、この猫耳の少女はどうして自分たちの前にあらわれたのか。
———人間を、下僕にする。
過去に存在したネタ遊びを真に受けて、そのためにやって来たらしい。
もしかしたらこのままここに居座るつもりだったのかもしれない。
そうして、人間にいろいろ世話をしてもらいながら、快適に過ごそうとでも考えていたのだろう。
なかなか図々しい。
いい根性をしている。
だが、穣司としてはやぶさかではなかった。
猫は犬ほどではないが好きな方だったし、なにより、仲間が増えるのは賑やかになっていいだろうと思っている。
それにヒメは本を読んだことがあるらしい。
そんな彼女であれば、コハクに聞くのとはまた違った話を聞き出せるかもしれないのだ。
食い扶持に関しては、まぁ、なんとかなるだろうと思っている。
森で採取した腐葉土を畑に加えれば収穫が劇的に改善し、農業だけで自活できる見込みがあるし、人数が増えたらその分の労力でまた畑を増やせばいい。
なにしろ、周囲には土地だけはたくさんある。
痩せてはいるが、手を加えればしっかりと答えてくれるのに違いない広大な大地が。
そこを開拓すれば暮らし易くなるかもしれないし、開拓するペースをあげるためには人数が必要だった。
ひとつ気がかりなのは、コハクがずいぶん、ヒメのことを警戒している、ということだ。
今も食事をしながら、ちらちらと猫耳の少女の様子をうかがっている。
穣司のとなりにぴったりと寄りそって、まるで自分の大切な友人を取られまいとしているかのようだった。
もし一緒に暮らす、となった時に、機嫌を損ねてしまわないか。
少し心配だ。
それでも、ヒメと今後について話をしなければならなかった。
穣司としては、やはりもっと仲間が欲しいからだ。
「えっと。ヒメ、さん? 」
「ん。なーに? 」
「確認なんだけど、ここにはなにをしに来たんだ? 」
「それは、人間さんに養ってもらおうかと思って」
正直のお手本のような返事だ。
思わず苦笑が浮かんでくるほどに。
それがさも当然、という顔をしているヒメに、コハクが噛みつかんばかりの勢いで言う。
「ダメだよ、ダメ! ジョウジはあなたの下僕になんかならないんだからね! 」
「それはもう、あきらめたわよ。
だって、猫よりも犬派、なんでしょう? 」
「ああ。まぁ、そうなんだが」
歯切れの悪い言葉に、猫耳の少女は小首をかしげる。
「だが? 」
「別に、ここに住みたいっていうのなら、それでもかまわないって思ってる」
「ちょっと、ジョウジ! 」
すると柴犬耳の少女はプンプンと怒り出した。
「わたしは嫌だからね!
なんかこのコ、馴れ馴れしいんだもん! 」
どうやら第一印象が著しく悪かったらしく、心配した通り、コハクはヒメを仲間に加えることには反対であるらしい。
「そうは言ってもなぁ。
せっかく来てくれたんだし?
これから腐葉土を使って畑をもっと良くするんだから、人手も欲しいし?
それに、いろいろ聞いてみたいこともあるしさ」
それから穣司は視線を正面に、こちらの言い争いを観察している猫耳の少女へと向ける。
「で、確認なんだが……。
このままここに住むつもりはあるかい?
ちろん、畑仕事の手伝いはしてもらう。
オレたちはこの辺りを開拓して、食べ物を作ろうとしているんだ。
それを助けてくれるのなら、少なくとも寝る場所と食事は用意してあげられると思う」
「うん。それで、いい」
答えはあっさりと返って来た。
「元々、人間さんと一緒に暮らしてみるつもりだったの。
本を作った人たちだって聞いていたから。
だから、前の住処も、きれいに片づけて来ちゃったし」
「でも、一緒に働いてもらわないと困るぞ?
さすがに下僕にはなれないし」
「大丈夫。わかってるから。
働かざる者、食うべからず、でしょ?
それも、本で見た。
ごはんと寝床をくれるなら、がんばる」
どうやらヒメはなかなかの読書好きであったらしい。
ことわざもいくつか知っている。
「でも私、そんなに力仕事は得意じゃないよ? 」
「大丈夫だ。できる範囲でやってくれればいい。
あんまり力のいらない仕事もあるしな。
とりあえず船内は広々としているから、好きな場所を寝床に使ってくれていい。クッションとか身体にかけるものとかは用意してあげられる。
ただし、危ないからうかつに装置に触ったりはしないで欲しい」
「ん。分かった」
二人の間で話はまとまったのだが、コハクはまだ納得できていないらしい。
頬を膨らませ、耳を後ろに伏せていわゆるイカ耳の形にしながら、威嚇するようにヒメのことを睨みつけている。
「も~! そんなに、ほいほい簡単に決めちゃうなんて!
世の中には悪いケモミミだって、いるんだからね!?
わたしはまだ、このコのこと、信用してないんだからね! 」
(コハク、けっこうあっさりついて来たけどな……)
柴犬耳の少女と出会った時のことを思い出し、彼女が食い気に思いっきりつられていたことを言ってやろうかとも思ったが、穣司はその言葉を飲み込む。
もっと怒り出すかもしれないと思ったからだ。
とにかく。
これで、生存を成し遂げるための新しい仲間が加わることになった。
「オレの名は、多比良 穣司。
これであんたもこの開拓団の一員、ってわけだ。
あらためて、よろしくな」
「ん。よろしく。
私は、猫耳のヒメ。
ヒメって、呼び捨てでいいから。人間さん」
「ああ。それじゃ、オレのこともジョウジでいいからな。猫耳さん」
穣司はそう言って握手をするために右手を差し出したが、ヒメは怪訝そうな顔をしている。
もしかするとケモミミたちの間には握手するという文化が無いのかもしれない。
だがすぐにその意味に気づいたのだろう。
少女はこちらのマネをして右手を差し出し、互いに軽く握り合う。
(ム……)
肉球らしき感触はない。
誠に遺憾であった。




