・2-5 第24話 「通信」
・2-5 第24話 「通信」
葉が落ち、降り積もって、土中の虫や微生物に食べられ、菌類によって発酵させられる。
何年も、何年も。
数十年。もしかしたら、数百年。
それがくり返されて生み出された、自然の堆肥。
「これだけの量があれば、オレたちの畑も、きっと……! 」
農場の土で不足している栄養分をたっぷりと含んだ腐葉土を穣司はできるだけかき集め、この日のために用意しておいたカゴに詰め込んでいく。
脱出艇の壊れた外壁をつなぎ合わせて作った、背負い式の大きなカゴ。
詰め込めば百キログラムほども持ち運べるし、動力補助のついた宇宙服があれば、問題なく持ち帰ることができるはずだった。
持ち込んだスコップを使い、せっせと、カゴに森の土を入れて行く。
「おっと、すまんな」
すると土の中に暮らしていた虫などが飛び出してくる。
芋虫や、節足動物、エトセトラ。
彼らの住処を荒らしてしまうことを謝罪しながら、穣司は作業を続けて行った。
「よし。これくらいで、いいだろう」
ほどなくしてカゴは腐葉土でいっぱいになった。
生身でやるには重労働だったが、パワードスーツがあるおかげですぐに終わる。
「ねぇ、ジョウジ!
見て見て、木の実、たっくさん見つけたよ! 」
そのころちょうど、周囲を探索しに行っていたコハクが戻って来た。
にこにこと、上機嫌に笑っている。
その両腕に抱えられたフルーツの山を見れば、その気持ちも分かるというものだ。
「おっ、美味しそうだな! 」
「えへへ~、でしょ? でしょ?
この森は、探せばたっくさん、美味しい木の実がなってるの!
中でもいっちばん良さそうなところを選んできたから、一緒に食べよ? 」
「そいつはいい! ちょうど、小腹も空いて来たしな」
時刻は十時過ぎ。
朝六時くらいから畑の水やりをし、ここまで移動をして来て一仕事終えたところだし、ほどよく小腹が空いている。
ありがたくフルーツをいただくことにした穣司は、コハクと一緒に彼女の家となっている木のうろまで戻ることにした。
川べりの倒木に並んで腰かけ、小川で綺麗に洗ってから美味しそうなところからひょいとつまみ、ぱくり、とかじりつく。
ケモミミたちは特に名前をつけているわけではないらしかったが、特徴的に、サクランボやベリー類など、春にとれる旬のものばかりで、どれも瑞々しくて、甘酸っぱくて、元気の出る味わいだった。
「おお! こりゃ、美味い! 」
「でしょ~。毎年の楽しみなんだ~。
でもやっぱり、これだけ甘くておいしくなるのは、土の中の栄養がほうふ、だからなんだろうね~」
「ああ、きっとそうだろうな。
こりゃぁ、畑の収穫にも期待が持てるぞ! 」
「にっへへ~。たのしみ、たのしみ~! 」
素晴らしいおやつだったが、コハクが張り切って集めて来てくれたおかげか、とても食べきれそうにない量があった。
(帰ったら、ジャムにでもしてみようか)
かつての人類は、こうした自然のフルーツなどを砂糖と一緒に煮詰めて、長期保存もできるジャムにして食べていた。
現状では砂糖はまだ手に入ってはいないものの、量を集めてしっかりと煮詰めれば、しばらくの間は美味しく味わうことができるだろう。
そう考えて楽しみにしながら、食べきれなかったフルーツを持ち帰るためにタオルで包んでいる時のことだった。
唐突に呼び出し音が鳴る。
脱出艇のAIからだ。
「こちら穣司。なにかあったのか? 」
≪お忙しい所、申し訳ありません。
少々、弊機の周辺で異常を感知いたしましたので、ご報告を≫
「異常? 緊急なのか? 」
≪ご安心を。切迫した事態ではありません。
ただ、これまでとは別の、この惑星の生物が近くに来ている様子ですので。
コハクは、ジョウジと一緒にいるのですよね? ≫
「ああ。そうだ。今も隣にいるよ」
通信機を兼ねている携帯情報端末に向かってそう答えつつ、穣司は考え込む。
(今まで、この星のケモミミたちからは避けられていたんだがなぁ……)
それが急に、接近して来た。
いったいどういう変化なのか。
それとも、穣司たちが留守になったのを見て、様子を見にやって来たのか。
「コハク。思い当たる相手とかはいないのかい? 」
「う~ん、どうだろ? ジョウジとお話しするようになってからも何度か他のケモミミさんたちとお話はしてるけど、やっぱり、みんなまだ怖がっているみたいだったし。
わたしが大丈夫だよ、って言っても、信じてもらえなかった」
コハクの友達が来ているのかもしれない、などと思って確認してみたのだが、心当たりはない、ということだった。
(もしかすると、コハクを乗せて走った効果があった、とか?
いやいや、さすがに早いか……)
来る途中、ケモミミたちの警戒心が解ければいいな、と思って実行してみたアピールが役に立ったのかとも思ったが、効果が出るにしてもやはりタイミングが早過ぎる。
「AI。その、近づいて来たケモミミっていうのは、どうしているんだ?
何かしてきているのか? 」
≪今のところは、なにも。
弊機に対して危害を加える様子もありませんし、穣司、貴方の畑にも手は出していない様子です。
現在、ハッチを閉鎖し、外部カメラで監視中≫
「映像は送れるか? 」
≪かしこまりました≫
すると、ほどなくして脱出艇から映像が転送されて来た。
機器の修理が完全には終わっていないために、やや不鮮明なものだ。
だがそこには、脱出艇のハッチの前にいる、ケモミミの生えた人影が確かに映っている。
「やっぱり、知り合いだったりしない? 」
「う~ん、わかんない。
あんまりちゃんと見えないし。
でも、知らないコだと思う」
コハクは眉をひそめながら首を左右に振る。
携帯情報端末の画面は小さく、そこから分かることにはどうしても限界がある。
「仕方ない……。もっとこの辺りを調べたかったんだが、急いで帰るしかないか」
この心地よい森の中でずっと過ごしていたい。
そう思っていたのだが、新たにあらわれたケモミミのことが気になる。
穣司はこのまま帰還することにした。




