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だって、お金が好きだから  作者: まぁじんこぉる
第十章:遠い日の誓い

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第71話:ごめんなさい

「姫さま、今回も派手にやってくれましたね」


「はい」


 フローリングの床に正座させられて、私はコーネットの問いに素直に答えていた。


 なんというか、コーネットは昔からどうも苦手。褒められた記憶なんて一切ない――でも、さすがに今回は言い訳できないか……。


「さて、姫さま。話さなければならないことは山ほどありますが、まずはこれからにしましょうか……」


 コーネットは、抑えようのない怒りを滲ませながら、低い声でそう告げると、ショルダーバッグから絹の包みを取り出して、ゆっくりとそれを開く。するとそこには、ドミオン商業ギルドに金貨三百枚で売ったはずの、青い箱(ハータム・カーリー)があった。


「姫さま。あなたはこの青い箱(ハータム・カーリー)が、どのような品か、正しく理解していますか?」


「もちろんです。お父さまにいただいた大切な品ですから……」


 ついさっきまで、ウォルマーにこの件でこっぴどく叱られたばかりということもあって、私はとっさに、完璧な返答をすることができた。うーん、まさに「災いを転じて福と為す」って感じよね、ありがとうウォルマー。


「た、確かにそれも大事ですがっ」


 するとコーネットは、一瞬、言葉に詰まる。その表情を見て、しめしめ、これでお説教も短くなるかもとほくそ笑む。しかし現実は甘くない。


「確かにそれも大事なことですが、それ以上に重要な意味があることが、分からないのですか?」


 コーネットのその問いに、私は不思議そうに首をひねる。


「本気ですか、リーディット様。そんなの、中身の話に決まっています!  今回、たまたま鍵がかかっていたから、先物証書の売買が成立したことを証明しただけで、買い戻すことができました。しかし、もし予定通り中身を確認されていたら……どうなっていたか、お分かりですか?」


「うん? なに言ってるの、コーネット。あの青い箱(ハータム・カーリー)には、両親からもらった手紙と家族の肖像画しか入っていない。私にはかけがえのない宝物だけど、他の人からみたらゴミ同然じゃない?」


「姫さまっ!」


 部屋中に響き渡る、コーネットの一喝。


「あなたの、そういうところが問題なのです!」


 コーネットは、青い箱(ハータム・カーリー)から手紙の束を取り出すと、それを私の目の前に突きつける。


「姫さま。アルハリム商業ギルドがこれを見て、あなたの正体に気がついたらどうするおつもりだったのですか!」


「なに言ってるの、コーネット。大丈夫に決まってるじゃない。四年前に滅びた国の王族なんて、誰も覚えちゃいないって……、それより考えてみてよ。私たちに、今、必要なのは軍事力と資金力。私は資金でしか力になれないんだから、命懸けで目の前のお金を取りにいくのは、当たり前のことじゃない? それに、儲かったんだから、いいじゃない!」


「姫さま……」


 コーネットは呆れきった顔で、天を仰ぐように深いため息をつく。


「姫さまは、ご自身の立場というものを、まるでご理解されていない。今ここで、あなたの名前と、あなたが理解しているご自身の立場を、この私に教えていただけますか?」


 思わず「うっ……」と声を詰まらせる。コーネットの射るような視線に、誤魔化しが効かないことを悟る。


「私の名は、リーディット=アライド=クテシフォン。アルマヴィル帝国によって一族を根絶やしにされたはずの、クテシフォン王国の王族、唯一の生き残りです……」


「はい、その通りです。もしあなたの正体がアルマヴィル帝国に露見すれば、どうなるか、お分かりですね?」


「すぐに捕らえられ処刑されるだけでなく、クテシフォン商業ギルドは私をかくまったということで取り潰しになると思います」


「姫さま、それだけではありません。我々クテシフォン商業ギルドが、そして姫さまが目指すものは、アルマヴィル帝国からの独立と、王国の再興です。しかし独立には大義名分と、民を束ねる象徴(コア)が必要不可欠なのです。アルマヴィル帝国はその象徴を根絶やしにするため、王族を皆殺しにした――しかし、幸いにも姫さまが生き延びてくれました。あなたこそが、我々の独立運動の『大義』であり、決して欠くことのできない『コア』なのです。姫さまに万が一のことがあれば、クテシフォン王国復興の夢は永遠に失われる。そのことを、本当に理解しているんですか?」


「もしかして、ギャンジャの森を通ったことを怒ってる?」


 一向に怒りが収まらないコーネットに、私は恐る恐る質問をする。


「当たり前です! 確かに、アルハリム商業ギルドの話に乗って、ドミオン商業ギルドが幅をきかせるスムカイトから出るという作戦は見事でした。あれならば怪しまれずに街の外に出られますし、外に出てしまえば、我々の手で姫さまをお守りすることができる。だから、それはそれでいいでしょう……。しかし、なぜ我々が途中で荷物を引き取るという申し出を拒否して、ご自身でギャンジャの森を抜けようとしたのですか? しかも手紙で直前にキャンセルしたいとか、なんなんですか? あれから、姫さまの荷物を受け取るために手配していた商人と連絡を取るのが、どれだけ大変だったことか……」


「だって、私だって、自分で契約したことは最後までやり遂げたかったの。一人でもちゃんと商売ができるって、みんなに証明したかったの……。いつも周りに人がいて、守られてばかりの自分を変えたかったこの気持ち、少しはわかってほしい……」


「だってじゃありません! 貸倉庫の件といい、森を一人で抜けたいと言ったり、姫さまは勝手すぎます」


 コーネットは私の目を見つめ、じっと次の言葉を待っている。その目は真剣そのもので、王宮で執事をしていた頃から何も変わらない。まったく、本当に生真面目なんだから……。


「ごめんなさい……」


 下を向いたまま、私が喉から声を絞り出すように答えると、コーネットは張り詰めていた空気をふっと緩めて、安堵の息を漏らす。


「最初から素直にそうおっしゃってくださればいいのです。そうであれば、私も余計な説教をしなくてすみますから……。何度も同じことを申しますが、もういい歳なのですから、いい加減に大人になってください」


「そうね……ありがとう、コーネット」


 その瞬間、コーネットは意外そうな顔を見せる。


「姫さま、いつもの『少女だから』ってやつ、言わなくていいんですか?」


 無言でこくりと頷くと、コーネットの表情は、意外から驚きへと変わる。


「そうですか……。姫さまも、この旅で少しは成長したのですね。ならば、これ以上申し上げることはございません。教育係としての今日の役割は、ここまでといたしましょう。さ、立ち上がってこちらにお座りください」


 そう言って、コーネットは私が座りやすいように椅子を引いてくれる。


「では、次に商人として注意をいたします。この青い箱(ハータム・カーリー)は金貨三百枚ごときで買える代物ではありません。私がこれをいくらで買い戻したかご存知ですか? 金貨二千枚ですよ! まったく、姫さまの金銭感覚は一体どうなっているのですか……」


「だって、私、そういう骨董品の価値とか、苦手だし……」


「だってじゃありません!!」


「ご、ごめんなさい。これからはちゃんと勉強します……」


 コーネットの言葉に、私はしおらしく従った。


「とりあえず、今日のところはこれくらいにしておきましょう。ドミオン商業ギルドも、この青い箱(ハータム・カーリー)の価値を姫さまが分からないと見て、油断した側面もありますから、結果的には良かったのかもしれません。とりあえず、この青い箱(ハータム・カーリー)は私が預かります。あと、今回のようなことにならぬよう、姫さまには今後もお目付け役をつけさせていただきます」


「今後も?」


「おや、タルワール殿から聞いていなかったのですか? タルワール殿は、我々が姫さまをお護りするために雇っていたのですが……」


「なにそれ、聞いてない!」


 不思議そうな顔を浮かべているコーネットにそう反論したものの、心の中では妙な納得感もある。


 なるほど、私たちとシルヴァン独立派は繋がっていたというわけか……。だからタルワールの前でギスヴィッヒが私のことをリーディットって呼んだり、タルワールがシルヴァンの独立派が集まるレストランに私を連れて行ったりしたというわけね。


 って、タルワールのやつ、私からも料金を取っていたから報酬の二重取りじゃない!


「わかった。じゃあタルワールにもう一度お願いして。事情もわかっているし、これであれば問題ないでしょ?」


「いいえ。こんな危険な取引をした直後です。姫さまは目立ちすぎています。しばらくはシルヴァンを離れていただきますので、シルヴァン予備軍の連隊長殿にお目付け役は頼めません」


「なら、いらない。私、一人でできるから……」


「本気ですか、姫さま。タルワール殿から、狼や山賊に襲われた時の姫さまのご様子は伺っていますよ」


 うー、それを言われるとぐうの音も出ない……。


「とりあえず、しばらくはクロリアナに、姫さまのお目付け役を担ってもらいます」


「ちょっと待って、そんなことしたら、男の視線が全部クロリアナに取られちゃうじゃない! そもそもクロリアナと一緒にいたら目立つに決まってるでしょ、話が矛盾してる!」


「では、私が随行しましょうか?」


「いえ、クロリアナでお願いします」


 私は、私ができる最速の速度で、コーネットの問いに即答してみせた。

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