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だって、お金が好きだから  作者: まぁじんこぉる
第五章:絡み合う陰謀の糸

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第39話:わたし、死んじゃうかも

「タルワール、ちょっといいかしら?」


 そう声をかけ、荷馬車から飛び降りようとしたその瞬間、革鎧の山賊のリーダーが「そこの女、動いたら殺すぞ!」と脅しをかけてくる。その理不尽な物言いに、私はムッと眉をひそめる。


「今更そんな脅しきかないわよ! あなた、さっき私の生死を問わずにスムカイトに連れて帰ると言ったばかりじゃない。私を殺す気満々のくせに、今さら動いたら殺すとかバカじゃないの!」


 ついさっきまであった心の余裕は何処へやら、私は大きな声でそう叫ぶと、ショルダーバッグから革袋を取り出して、それをタルワールに渡す。


「リツ、これは?」


「シルヴァンで渡す予定だった銀貨五十枚。私が死んじゃったら、契約が果たせなくなっちゃうから……ね。これはそういうお金」


 私が真剣な顔でそう告げると、タルワールは急に大きな声で笑いだす。


「なに笑ってるの? こっちは真剣なのよ!」


 唇を尖らせて、私はタルワールをじろりと睨む。しかしタルワールは、何気なく私に近づいてきて、小声でゆっくりと囁いてくれる。


「いいかリツ、よく聞け。こいつらに木材を渡すフリをして、馬を荷馬車と切り離しておくんだ。その後、俺が合図と同時にこいつらに切りかかるから、その隙に馬に乗って逃げるんだ。こいつらは武器や防具を持っている。しかしお前は身軽だ。馬に乗って逃げればたぶん逃げきれる。いいかリツ、これがこの場で生き残れる最後のチャンスだ。しくじるんじゃないぞ!」


 いつもとは明らかに違う、鬼気迫るタルワールの口調に、私は今が勝負所であることを知る。そして自分の直感が正しかったことを知る。つまり茶番はここまでで、多分、ここからは生き残りをかけた殺し合いだ。


「でも、タルワールはどうするつもりなの? これだけの人数、一人で相手にできるものなの?」


「見たところ、俺とまともにやりあうことができるのは、さっき切りあった甲冑の男だけだ。それ以外であればなんとかなる。なぁに、あいつらは同じものを狙っているんだ、お互い潰しあってくれる可能性もある。俺にも生き残るチャンスくらいは残っているさ」


 だったら、と私は言葉を続けようとしたものの、すぐにそれを飲み込んだ。ここまできた以上、私の仕掛けがはまらなかった可能性が高い。へんな期待をさせてはいけない。だから私は素直に頷いて、荷台に向かってゆっくりと歩き始める。


「そこの女、動くなと言っただろ、聞こえなかったのか?」


 その刹那、私の耳をつく不愉快な革鎧の山賊のリーダーの声。さっきまでは好意的にとってあげられたけど、万策が尽きてしまった可能性が高い以上、そんな心の余裕はみじんもない。


「なに言ってるの、あなた達がうるさいこというから青い箱を取りに行くんでしょ。本当に欲しいのなら、少しは黙ってなさい」


 そう一喝すると、山賊たちは水を打ったかのように静かになる。私もなかなかやるじゃない。あ、いやいや、今はそんな自分に感心している場合じゃない。


 私は、青い箱を探すフリをしながら必死に時間を稼ぐ。時間さえ経てば、私が打った山賊対策が間に合う可能性も少しはでてくる。そうなれば、私もタルワールも助かるかもしれない――って、いやいや、その線はさっき諦めたはず。他の手を考えるの!


「あなた達が探している青い箱。これでいいかしら?」


 青い箱を右手に持ちながら、私は街道のシルヴァン側方面をちらちらとみる。ここで早馬が来てくれたら、もしかしたら……。


「そう、それだ、それをこちらによこせ」


 長年、息の合った友人のように、声をそろえて甲冑の山賊と革鎧の山賊は、そう要求する。しかし私は、少しばかりの抵抗を試みる。


「なら、この青い箱はここに置いておくから、あとで勝手に取りにきて。次に木材だけど、荷台を渡せばいいわよね? 今、荷馬車と馬の連結を解くから少し待ってなさい」


 怪しまれないよう山賊たちの思考を誘導し、私はタルワールの指示を、荷馬車とキャロルの連結を外す作業を、当然のように実施する。そしてタルワールに目配せをして、タイミングを計る。


「いまだ!」


 私がすべての作業を終えたその瞬間、待ちかまえたかのようにそう声を出すタルワール。それと同時にタルワールは、甲冑の山賊のリーダーの首元に剣を突き立てる。次の瞬間、「ブシュ」という鈍い音と共に、甲冑の山賊のリーダーの首元から血しぶきが噴き上がり、その体は力をなくしたように崩れ落ちる。


「何をしている、リツ。早く逃げろ!」


 その一言がトリガーとなり、タルワール、革鎧の山賊、甲冑の山賊、三つ巴の殺し合いが始まった。


 鞍に飛び乗り、あぶみに足をかけ、手綱を短くもとうとする私の目の前で、タルワールは剣を一閃し、革鎧の山賊の一人を薙ぎ倒す。横から飛びかかってくる斬撃を身をひねってかわすと、その回転の勢いを利用して、甲冑の山賊に強烈な一太刀を叩きつける。


 気がつくと、タルワールはあっという間に三人の山賊を血祭りにあげ、残すは革鎧の山賊三人と甲冑の山賊二人になっている。


「まずい、急がなきゃ!」


 私は、「はっ」と一声かけてキャロルのお腹を蹴る。キャロルが私の指示通り走り始める。するとその瞬間、大きな衝撃が私の背中を襲う。


 そう、革鎧の山賊が剣の腹で私の背中を強く打ちつけたのだ。その衝撃をまともに受けた私は、一瞬でバランスを崩し、地面に強く叩きつけられてしまったのだ。


 肺が空気を受けつけない、「げほ、げほ」とせき込むことさえ許してくれない。必死に息を整えて立ち上がろうとしたその瞬間、喉元で冷たく光る銀色の刃。


「生死は問わないと言われているが、生け捕りの方が報酬が高いからな。悪く思わんでくれ」


 革鎧の山賊の無慈悲な言葉に、私は無言で両手をあげる。


「手間取らせやがって」


 革鎧の山賊はそう吐き捨てながら、私のお腹を強く蹴り上げる。そしてタルワールに向かってお決まりの台詞を吐く。


「そこの男、この女の命が惜しければ、武器を捨てておとなしくしてもらおうか……」


 その瞬間、タルワールの動きがぴたりと止まる。剣先がわずかに下がり、それに呼応するかのように、鍔迫り合いをしていた二人の山賊の剣の動きも止まる。だから私は絞り出すように「ごめんなさい」と言葉を紡ぐ。


 残った山賊は、私に剣を突きつけている一人も含めて革鎧の山賊が二人、甲冑の山賊は残り一人。私さえミスらなければ……。そんな後悔が私を容赦なく襲う。夏の太陽がジリジリと大地を焦がす。沈黙の風は森を通り抜ける。


 タルワールは、「すまない」と悔しげに唇を噛み、ゆっくりと剣を地面に落とす。まさに万事休す……。そう覚悟を決めたその瞬間、聞こえてくる馬の蹄の音、大きく響く力強い声。


「我々はシルヴァン予備軍のものだ、全員武器を捨てろ。指示に従えばよし。従わなければ、我々が相手になろう」


 その声の方向に慌てて視線を向けると、そこには、木漏れ陽の下、甲冑で武装した九人の騎士の姿があった。

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