プロローグ
我ら魔術師は常に陰に生きなければならない、決して表にその姿を表してはいけない。
これだけは何があろうと破られてはならない絶対の掟だ。
「何が言いたいんですかエイムズ師匠……今更そんな事を言う必要があるんですか?。」
黒眼鏡を掛けた金髪の好青年は退屈そうにしつつ、目の前で必死に話す老人に問いかける。
「今だからこそだ。お前はこれから聖戦に赴くにあたって、間違っても世間に存在を勘付かれてはならぬという事をよく覚えておけ。」
「話は終わりですか、心配しなくてもそんな初歩的なミスは犯しませんよ。少しくらい弟子を信用してください。」
そう言うが否や、話は終わったと言わんばかりに立ち上がり、彼は去っていった。
「今更ミスなんて犯しませんよ。勝つのは僕………ただ一人。」
「慢心は敗北を呼びますよ。以前も優位に立ち慢心していたところをルイン様に敗北したばかりじゃないですか。」
いつの間にか隣を歩いていたメイドらしき女性は主人に向けて最大限の忠告を贈る。
「今回ばかりは遊びじゃない。負ければ死ぬし次なんてありえない。それに相手は王全員だ、新参の僕なんかが慢心なんてしていればあっという間に全滅してしまう。君たちの為にも必ず勝さ。」
そう言う彼は気づいていただろうか、隣で頬を染める彼女の姿を。
一抹の不安を抱きつつも、彼女は信頼する主人の為に尽くす。
それがメイドとしての、ノルン=ヒューレンとしての使命だから。
「そうですね、それでは行きましょうか。荷物の用意は既に済んでおります。
「いつもありがとう、それじゃあ行こうか。勝ちに………」
自身の夢の為に、信頼する仲間の為に、彼は進む。
(例え茨の道になろうとも……僕は必ず勝ち残ってみせる。見ていろ、クソ親父。)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふふふふふふふははああはははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!
素晴らしい!80年ぶりの血は誠に最高に実に美味だ‼︎!‼︎」
真夜中の洋館に、狂気が蔓延する。
「貴様何者d……………」
「黙りたまえ、塵芥如きが私に言葉を投げかけるな、不快不愉快極まりない。」
瞬き一つする間に、警備に当たっていた男は惨殺されていた。
「いやぁ…それにしても今宵は本当に良い、まさか魔術師共の頭角を一つ潰せるとはな!このまま残りの者達も消し去ってしまおうそうしようか………全ては序章に過ぎない、今こそ忌まわしき魔術を根絶しよう!」
気づけば部屋の隅で怯えていた赤髪の青年を見下ろしソレは言った。
「そうだ、お前はこの事を協会に伝えろ。くだらない夢を見るのは終わりだ、ここからは悪夢の時間だとなァ!」
青年を見下すソレはいつの間にか先程殺した王の姿になっていた。
彼の周囲は血の海と化している。
今一度、彼の狂気が……そして青年の悲痛な叫びが響き渡る。
ここに、悪夢が再臨する______________
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「やっと戻ってきた、懐かしいなぁ…」
長い旅だった、この3年間色んな国を見てきた。
表も裏も、幸も不幸も全て平等に嫌というほど見てきた。
世界を周り、自分がどれほどちっぽけな存在かを思い知らされた。
きっと私が死んでも世界は何事も無く未来に向かって進み続けるのだろう。
それでもやらなきゃいけないことがある。
過去を取り戻す為に、未来へ進む為に、私は魔術師の頂点に立たなければならない。
「目標があるのは大切だけど、月花はもう少し修行をする事ね。今のままじゃ私にすら勝てない。」
そう言う彼女は私の唯一の親友、桜坂コヨミ。
死病を患い放棄されていた違法な奴隷である彼女を救ったのが出会いで、今では家事なんかの身の回りの世話をしてくれているので生活力の無い私は文字通り彼女抜きでは生きていけない。
「分かってるよ、けど私の力を刀に上乗せする方法が思い浮かばないんだよね。できるなら銃でもなんでもいいんだけどやっぱり日本の武器と言えば刀だしね。」
時代は銃、刀なんて銃の前では無力なのが現実だなんて言ってはいけない。
その現実を捻じ曲げ、不可能を可能にしてしまうのが私たち魔術師という者なのだから。
なんなら、銃なんて構造が複雑な物より刀の様なシンプルな武器の方が魔術を利用するという点においては実用的だ。
「ロマンなんて実力と経験、知識の次よ。まだ公爵くらいの実力しかないんだから危機感を持ちなさい、じゃないと聖戦なんて到底勝ち抜けないわよ?」
うっ………そう言われると何も反論できない。
私が王になったのは他と違って特殊な事情があるし、とても他と肩を並べられる程の実力じゃない。
今の私には《魔唱》と愛刀の《雹華》しかない。魔術の実力も中の上と言ったところ。
聖戦に勝ち、道標になる事ができればありとあらゆる魔術を閲覧できると知り王になる事を選んだけれど、このままじゃ最初に死ぬのは私でほぼ決定になる。
「あぁもう!悩んでても仕方がない、今すぐにでも完成させないと。今日は絶対に寝ない!」
「何故か完成前に寝落ちする気がするわ………」
コヨミの想像通り、完成を待たずして寝落ちしてしまったけれどそれはまた別のお話。
ここからが私のスタートライン、絶対に勝ち抜いてみせる。
その為にはまず寝ないとね……………




