#8
メアとの戦いから一夜が明けた。
「おぉ、おはよう。」
目を覚ましたルチルが客間に行くといつも通りヘラヘラした顔で暁がコーヒーを飲んでいた。
「傷はもう大丈夫か?」
「はい。お陰様で」
「そうか、そいつぁ良かった。そうだ、メアの奴ぁ一人で考える時間が欲しいんだと。まぁしばらくそっとしといてやんな。安心しろ、アイツは簡単に折れるようなやつじゃないさ。あんたもアイツと戦って分かったろ」
「何故それを……?」
メアと戦ったことはまだ暁に言ってないはずだが……?
「カンだよ。それに、あんたの背中の傷とメアの負った傷考えりゃ、そう考えるのが妥当だろ?」
「なるほど……」
「ま、俺とこうやって話してるのも構わねぇが、生憎俺も忙しくてな。それに、今日は晴れてるしさほど暑くない。まぁ、散歩でも行ってくると良い。あぁ、別に出てけって言ってる訳じゃないぞ?好きなだけゆっくりしてて構わないからな」
「分かりました……?では」
ルチルは暁の居た部屋を後にし、町中を歩き回ることにした。
「……にしても………」
ルチルはガントレットを装備し、腕をじっと見つめる。
(あの時は、必死で体動かして、なんとか操作の仕方を分かったものの、完全に扱いきれてはいなかった。)
「折角だから少し練習してみようか……」
ルチルは管をガントレットの後方にある穴に差し込み、エネルギーを注ぎ始めた。
「うおっ……結構入るな………念の為もう片方で補充しながら………」
「よし、とりあえず満タンになったかな……?」
ルチルは管を引っ込め、姿勢を低くして空に向かってガントレットを構える。
「確か……強く握って……」
ルチルが拳を強く握ると、管を刺していた後方の穴からエネルギーが少しずつ噴出する。
「これで……思いっきり空に向かって突き上げ………うおっ!!!!???」
ルチルが斜め上に拳を突き出すと同時に、ガントレットから勢い良く気体が放出され、ルチルは空高く飛び上がった。
「……なるほど……それなら……!!」
ルチルはもう片方のガントレットにもエネルギーを補充し、拳を強く握ると、勢い良く腕を突き出した。ルチルは先程よりも早く、空を舞った。
「すごい……どこまでも飛んでいけてしまいそう……!」
ルチルはガントレットを縦向きにし、真上に上昇すると、ホバリングしながら空中で静止した。
「だいぶコツは掴めてきた……」
ルチルはふと、辺りを見渡す。地上では見ることが出来なかった景色に、心躍らせる中、ルチルはふと思った。
「……この街の向こうには、どんな景色が広がって居るんだろう」
「行ってみます?」
「うおっ!!!!???」
なんの前触れもなく、突如として目の前に、金色の長い髪の女性が現れた。ルチルはバランスを崩し、ビルの屋上に真っ逆さまに落ちていった。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
ビルの屋上に頭からぶつかる……かに思えたが、何故か寸での所で静止し、ゆっくりと屋上に仰向けに転がった。落下に怯え閉じた目を開くと、先程の金髪の女性が居た。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……どうも………!?」
ルチルが身体の無事に安堵し、その女性をよく見ると、その容姿に驚愕した。
「キミは……あの時の……!?」
その女性の姿は、街に現れたバケモノの、亡骸の上に立っていた女性そのものだった。
「こうして話すのは、初めてですね。私は秩序の神子、ヤグルマと申します。貴方は?」
「私は加賀知ルチル。えっと……さっきはありがとうございました……?」
「いいんですよ♪これくらい朝飯前です。それより……あそこで何を?」
「えっと……」
ルチルは返す言葉に悩む。少し考えた後、ヤグルマにガントレットを装備してみせた。
「これを使いこなす練習をしてまして。」
「なるほど……面白い物を持ってるんですね。この子なら……」
「ん?今何か……?」
「いえ、何も?」
「そうですか……」
「所で、街の向こう側、気になるのですか?」
「まぁ……はい……そうですね」
「じゃあ♪私と一緒に行きますか?丁度あっちの方に用があったんですよ♪」
「いいんですか……?」
「はい♪あ、距離や体力などに関してはご心配なく♪長ったるい話も難ですし、さっさと行っちゃいましょうか♪」
「えっ、行くってどうやって……?」
ヤグルマが手を差し出す。
「私の手を取って、強く握っていてください。遠慮はいりませんよ」
ルチルは言われた通りに、ヤグルマの手を強く握った。
「決して離さないでくださいね。行きますよ。」
そう言うとヤグルマは強くその場で足踏みをし、跳躍すると、ルチルがガントレットを使った時よりもはるかにとんでもない速さで飛行した。
「はい、着きましたよ♪」
瞬きする間に、街の端へとたどり着いたが、ルチルは目の前の光景に唖然としていた。ルチルとヤグルマの目の前には、縦横どこまでも続く、半透明な結界のようなものが張られていた。そして、自身の立っている場所から振り返ると、人工的に作られたであろうとても大きな壁が建っていた。
「これは……?」
「ここは、島の結界です。」
ヤグルマは続ける。
「この島は、外界から遮断され、外からも内側からも干渉出来ない……というのは、ご存知ですよね。今、それは島の外界からだけではなく、内側同士にも、干渉出来ない壁があるのです。」
「どうして…ですか?」
「今から数百年前、この島で大災害が起きました。その災害が通った後には何も残らず、島の1/4が犠牲になりました。逆に言えば、なんとか1/4に留めたと言うことです。要するに、この結界は、この島を大災害から守った結界なのです。」
「なるほど……ってことは……!?」
「そう、今貴方や貴方の家族が住んでいる。この街は、大災害で一度滅んでいるのです。まぁ、私の力で、なんとか今に至るまで復興させましたが。代わりに、失ったものも大きかったんです。」
ヤグルマは、無くなった左腕があったところを撫でながらルチルに語りかける。
「この結界の向こう側が、恐らく貴方が望んでいる景色。」
ヤグルマはルチルの方を向いて口を開く。
「実は私も、この結界の向こう側に何があるのかはわかりません。なので、万が一貴方の身に何か起きたとしても、私にはどうすることも出来ません。それでも、この結界の向こうに行くのですか?」
真剣だったヤグルマの表情が晴れる。
「なんて、少し大袈裟でしたね。そこまで身構えなくても大丈夫ですよ♪では、行きましょうか♪の前に……」
「前に……?」
ヤグルマはどこからともなく杖を取り出し、杖から光を発しながら、その場で一回転して見せた。すると、神子の衣装を纏っていたヤグルマの姿が一変。髪は黒くなり、服装も黒を基調としたコートの様になった。そして無くなった腕と半透明になっていた両足も、元に戻っていた。
「実は、神子間の決まりで、自分の護っている1角以外では神子の姿で行動しないというものがあるんです。」
「なるほど……所で、どうやって結界を抜けるんですか?」
「フフッ、それはですね……」
ヤグルマが結界に近付くと、右手で拳を握り、軽く結界を殴った。すると結界にヒビが入り、人が1人入れるほどの穴が空いた。ルチルは驚愕すると同時に、眉間にシワを寄せた。
「えっ………それ……結界……」
ヤグルマは笑顔で答える。
「あぁ、大丈夫ですよ♪すぐ再生しますから♪」
「はぁ……」
「さぁ♪閉じない内に入りましょう♪」
「は、はい………」
突如として知らされる島に起こった災害の出来事、この先ルチルに待つのはどんな景色なのか。
#8、おわり。
今回の話も最後まで読んでいただきありがとうございます。
私の夢は、この世界の映像化。即ち、アニメ化でございます。
一生涯を賭けこの作品を完成させる意気込みですのでどうか応援の程宜しくお願い致します。
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それでは、また来週。